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~来タレ我軍曹!×4受限定軍曹&4受大臣憩いの場★~    
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marshmallow(マシュマロ)登園

デュオ×カトル


保育士さんなカトル様が登場します。
さて、デュオさんはどんな役回りなのか。

カトルが保母さんですか!!
と興味をもたれたかたがいらっしゃいましたら、
本文を読むをクリックしてやってくださいv


marshmallow(マシュマロ)登園


 どこの世界にも人気者はいるものだ。それは、アイドルと言われるものであったり、マドンナと言われるものであったり。
 では、保育園では?
 園児の中から探すよりも、はっきりと目立つ存在がそこにはいる。
 名前を呼ばれる回数の多さ、周りに集まる子供の数が人気の指数。男が昔を懐かしむと、恋心のルーツにその人の姿があることも稀ではない。
 そう、それは、保母さんである。
 この『よつば保育園』にも人気者がいた。
 名前はカトル・R・ウィナー。
 ただし、重要な事柄なので補足説明するが、俗称で言うなればカトルは『保母』ではなく『保父』であった。だけど、にこやかで少々おっとり気味なせいか、不思議と「保母さん」という言葉で、しっくりとくる雰囲気をしていた。





 元気にあいさつをしているカトルの姿は、登園風景を一層微笑ましいものにしていた。
 朝からさわやかな気分になるとくれば、保護者の送り迎えも気分のいいものになるはず。ほら、このように、わが子の手を引き、カトルの姿を見ただけで笑みをもらした者がいるではないか。
 その親子は園舎ではなく、間違いなくカトルを目指して歩いていた。
 気質だろうか、父親について歩く男の子も、歩を進めるのがとにかく速い。脚の長い父について行く、ついて行く。
 足早ペアは周りの人間と比べて歩く速度が速いぶん、たくさんの園児や大人を追い抜かし、あいさつをする回数も誰よりも多くなっていた。
 あいさつを交わすと、明らかに嬉しそうな表情を浮かべる親がいる。いぶかしい顔をする親がいる。遠目から視線を向ける親がいる。本人たちはどこ吹く風だが、周りの大人たちから、いろんな反応を引き出す父子だった。
 父親と通園する子もたくさんいるのだから、手を引いているのが男親だから珍しいというわけではない。が、お父さんがまだ歳若く、整った顔立ちをしていれば、注目を集めてもしかたあるまい。しかも三つ編みにされた長い髪の毛が、背中で大きく揺れているとなると、無視をしろというほうが無理な話だった。






 デュオ・マックスウェルの日々の楽しみは、実にささやかなものであった。
 それは日に二度やってくる。
 朝と夕。よつば保育園へ息子のアインを送り迎えするときにもたらされる。
 早朝にわが子を叩き起こし、時には揺さぶり起こされ、父子家庭であるデュオの平日はいつもこうして始まるが、通園を楽しみにしているのは、息子のアインよりむしろデュオのほうだった。
 なにせ、保育園にはカトルがいたのだ。
 デュオはカトルを一目見たときから気に入っていた。
 碧い瞳に白い肌。お人形さんのように綺麗な人。風貌に、その声色までもが、やさしげで。頭の中で描いても、くすぐったくなるほど、好きだった。



 一年ほど前のこと、アインが動物としか表現できない生き物から、やっと人間らしくなり、次の春からなら大丈夫だろうと、三年保育で通わせる幼稚園なり保育園をどうしようかと、デュオは親らしく考えていた。
 預けていられる時間が短い幼稚園では仕事との折り合いがつかず、必然的に保育園を選ぶことになったのだが、いい園を見極めるような情報網もないデュオは難儀な思いをしたのだ。
 ともかくという思いで見学に行った保育園が、よつば保育園だった。
 保母さんたちはどの人も優しそうな笑顔を浮かべているし、不謹慎な話だが、なかなかに器量よしの人物もいる。
(悪くぁないね)
 と、思ったが、自分が通いたいという理由だけで、息子の保育園を決めるわけにもいくまい。
(関係ない。関係ない……)
 デュオはそうやって自分をたしなめていた。
 さて、何を見るべきか、何を聞くべきか、そもそも何をチェックすべきか。こりゃあ困ったなと頬を掻いていた矢先、園内の案内や説明をするために現れた、ほっそりとした美人にデュオは一目惚れしてしまったのだ。
 それが、カトルだったというわけだ。
 だからと言って、よっぽど女っ気がなかったのかと予想したなら不正解。
 性格からいってもデュオはモテそうなのに、コブ付きというのは惜しい気もする……と、恋愛しにくい環境になっていそうだと、彼のことを心配することはない。
 ギャップにはまる人間心理か。子持ちという点も、「優しそう」というプラスのイメージになって、デュオは結局モテてしまっているのだから。
 実際に結婚というと話は別だろうが、その点デュオは心得ていた。願望がないせだが、そういう野暮は口にしない。これでは余計に言い寄る者も多くなるというもの。
 やじ馬根性で、近づいてくる女性をどう上手く処理しているのか気になるところかもしれないが、自称・紳士のデュオは口を割らないのであった。
 そんな女には不自由しない男が、何の因果か息子の保育園の保父さんに惚れるとは。
 話す声がいい、笑顔がやわらかい。
 だけどカトルを、自分好みどおりのカワイコちゃんだと思ったのではなかった。オレの好みとはこうだったのかと、デュオはカトルを通じて目覚めてしまったのだ。
 自覚するというのも衝撃的なこと。初対面ともまた違う胸の音を、デュオはそんな悟りのなかで聞いていた。
 デュオはカトルを好きになったことを、疑問は感じないという。カトルはほかと違うのだ。
 理屈抜きで本能が求めるのだから、それを難しく考えるほうが不自然だとさえデュオには思えた。
 それからの判断は迅速だった。アインの入園先は即決定。ほかはもう目に入らないのだから、カトルのいるよつば保育園に入れるしかないだろう。
 親としての懸命な判断だったのかは意見のわかれるところかもしれないが、実に人間らしいという点と、アインが保育園を気に入っているという結果で、よしとしてもらおうではないか。
 園内の見学から帰ったデュオは開口一番、可愛い息子に宣言した。
「アイン、よかったなぁ、お前の通う保育園が決まったぞっ。とびっきりの美人がいるところだ!」
 アインがびっくりした顔をしたのは、デュオの明るすぎる大きいな声のせいだった。言葉の意味で苦笑するのは、きっとアインが分別がつくお年ごろになってからだろう。
 保母さんたちがエプロンをしている園でよかったなぁと、デュオが思ったのは、どうやらカトルのエプロン姿が気にいったからだ。
 まあ、そんなデュオの念願叶い、この春に無事入園とあいなった。


 デュオは祝日よりも、断然、平日が好き。理由はもちろん保育園があるから。はっきり言えば、カトルの顔が見られるから。
 通園が楽しみでしかたなかった。






 登園ラッシュにはまだまだ余裕のある午後八時、早朝保育の時間帯。ブルーとイエローが住宅街の通りに、ぽつりぽつりと見え始めた。
 それは、もれなく付き添いを従えた、ブルーのスモッグに、イエローのカバンを装備した園児たちだ。
 黄色いカバンは2wayタイプになっているから、ストラップで肩から斜めにかけている子や、リュックにしておんぶしている子がいる。どちらにせよ大人が持てば小さなカバンでも、園児と比較すると立派なサイズに見えた。
 足取りは千差万別だが、向かう方向は皆おなじ。よつば保育園を目指し北上していた。



 園庭で朝からさっそく泣いているのは、ママからようやく離れた年少さん。
 お見送りするため、ママに手を振りながらも、ぐずっている。
 母親も園児をさとすのに大変な思いをしているようだったが、すぐ横に控えてくれているカトルに向けて、小さく何度も頭を下げながら帰っていった。
 園児と目線の位置を合わせるためにしゃがんでいるいカトルは、寄り添うように小さな肩に手を掛けて、ママに手を振るその子の姿を見守っている。ひとりぼっちになるのではないと、体温で伝える方法もある。
 見えなくなる母の姿に心細くなったのか、再び大きな声で泣きわめくため、園児が大きく息継ぎをするより先に、カトルはその子をほめていた。
 満面の笑みに称賛の言葉。
 園児も、お見送りできたことを大好きな先生にほめられ満足したのか、さらに激しく泣き叫ぶということはなかった。
 その子がほかの保母さんと一緒に園舎に向かうのを見ながら、カトルはよいしょと立ち上がる。
 身に付けているエプロンをポンポンと手で整え、前方を見ると、こちらへ軽く手を上げ、あいさつしている男が見えた。すぐ近くには小さな子。
 園に通う親子。デュオとアインの姿だった。
 気づいたカトルが微笑むと、それを合図に小さいほうが駆け出した。
「せんせぇーーー」
「おはよう! アイン」
 背中のリュックを揺らして走るアインは、そのままカトルに体当たり。父のデュオと比べると、同じ男の人だとは思えないようなカトルの体に、ぎゅうっとしがみついた。
 細いのにやわらかい。
 アインはいつも思う、先生がほかの男の人と違うのは匂いもだ……と。
 この感触と香りが好きで、カトルにへばりついてしまうのかも。
 腰よりも下に頭の位置があるアインは、カトルのおしりのほうに手を伸ばて、脚を抱え込むようにしていた。
「カトルせんせい、おはようございます」
 あいさつを上手にできると、カトルがほめてくれるとアインは知っている。
「はい、おはようございます」
 案の定、穏やかなやさしい声でそう言って、カトルの手のひらはアインの頭をやさしくなでた。
 次いで、再び、
「おはようございます」
 アインのもとへは落ちてこずに、頭上を滑るカトルの声。
 カトルが会釈する動きが、ひっついているアインにも伝わった。
「おはようございます」
 デュオの声がした。
 毎朝のように交わすあいさつ。デュオの笑顔は明るくて、目にしたカトルの心も和む。
「大丈夫でしたか? いつも、ウチの坊主が迷惑かけてるみたいで……」
 カトルに詫びているデュオの声を、風の吹く音のように聞きながら、アインは頭に置かれていたカトルの手を探ると、身を離して握りしめる。こうしてカトルと手をつなぐのは、自然なことだと思っているようだった。
 謝罪は会話のきっかけでしかない。デュオはカトルと会うたびに、二人の距離を縮めるため、言葉によるスキンシップをはかる。あいさつ以外一言も、カトルとおしゃべりとしなかったという父の姿を息子のアインは見たことがなかった。
 やわらない表情に、時折、困ったように眉を寄せたり、カトルはとても表情が豊かだ。アインはそれに興味をそそられるようで、アニメーションに釘付けになるのと等しく、カトルに注目していた。
 デュオの言葉にうなずくだけでも、カトルの小さな口は、いろいろな動きを見せる。口の端を引き上げたときは綺麗で、小さくすぼめたときには可愛らしくて。
 そこまで考えてはいないが、甘いお菓子を好むように単純に、アインはとてもカトルのそこが好きだと思う。ちなみにデュオはそこまで考え、好きだと思う。
 下からじぃーっとカトルの顔ばかり見ているアインは、デュオの話なんて聞いていないと丸わかりだった。
 そんなことだから、矛先がそちらに向かったのだろう。
「こら、アイン。突っ込むなっていつも言ってるだろ。先生が壊れちまったらどうするんだ」
 大きな手でデュオは息子のアインを小突く。
「大人のオレがやりたくっても公の場じゃ、人目をはばかってできないってのに、子供だってのをいいことに、ナチュラルに先生の――を散々、触りまくりやがって……」
 ここは、ほとんど独り言。
「このくらい大丈夫です。……いいんだよアイン、気にしなくて。元気な証拠だもの。先生は元気なアインを見てると、とても嬉しいんだから」
 始めの部分をデュオに、続いてアインに、笑顔付きでカトルは言った。
 父親よりもいくぶん明るいトーンの栗色の髪をカトルはなでる。調度、デュオがつついたところを同じ場所だった。
「カトル先生はオレみたいに頑丈じゃねぇんだからな。いつもそんなに触ってんだから、お前も先生がごつくないことぐらいわかってるだろ」
 アインが親父殿の早口をどこまで理解できたのか確かめる暇もなく、カトルが首を横に振った。
「ぼくは男ですから他の先生たちより、かなり丈夫ですし、力だって」
 上げた腕を曲げて力こぶをつくる。
 細い手首ばかりが目について、長そでのシャツに隠された上腕が、どれほどの力強さをアピールしているのかわからなかった。
 だけど確かに、カトルがまつわりつくたくさんの子供たちを相手にしているうちに、引き倒されて、その子たちを潰してしまった。と、いう話はきいたことがない。
 カトルが園児たちに囲まれている姿をデュオも目にしたことがるのだが、ミツバチの兵隊が物量作戦でスズメバチに襲いかかっているような状態だった。
 ああ見えてカトルは、保父さんらしいパワフルさも備えているのだろう。
 先生って大変だと、しみじみ関心し、カトルって見かけによらずスゴイと思った瞬間だった。
 そんなふうに、心の中で立派な評価を受けていると知らないカトルは、ごつくないと言ったデュオの言葉が、少々引っかかっているのだろうか。
「残念ながら、見た目は頼りないかもしれませんんけど」
 残念? いや、それがいいんだよ。と、デュオは笑顔をつくる。
 惹かれるのは人の本質の部分に共鳴するものを感じるからだろうが、容姿だって好みにこしたことはない。爪の形、まつ毛の傾斜まで全部ひっくるめて、デュオはカトルのことを好ましいと思っていた。
 言葉にすれば、こう――愛しい存在。
「頼りないんじゃなくて、物腰がやわらかいんだよ先生は。やわらかいものや甘いものって、子供ってやたら好きだと思わない? オレも甘いモノ、大好きなんだけど」
 デュオがニヤッと笑うのは、甘いモノが何を指すのか含みがあるから。空白にカトルがパチパチと瞬きをする。
「そのうえ、体を使って一緒に遊べるんだから、子供たちに好かれて当然だよな」
 照れたようにカトルは笑う。
「ぼくが、彼らを好きなんです」
 抜けるように白い肌を際立たせる光が、カトルのプラチナゴールド髪の表面をすべる。きらきらとして、とても綺麗だ。
 安っぽい表現だが、デュオがカトルを天使みたいに清らかに感じる瞬間。
「あぁ、先生が子供好きでよかったぁ。オレ、子持ちだから」
 デュオが子持ちなことと、カトルの子供好きが、どうして良かったこととしてつながるのか。そう言うとデュオは口の片端だけを器用に上げて、カトルに対してクセのある笑みを浮かべた。
 この間にもアインはカトルの腕の下をくぐったり、その腕をひっぱってみたり。
「アァーーッ! アイン、お前っ!」
 大きな声にアインとカトルは二人そろってデュオを見る。とがめるべきことが起こったと思っているのは、デュオだけなのだから。
 浮いてしまったと自覚して、笑ってごまかし、デュオもそれ以上は言わなかったが、たとえ子供の行動でも気になるのだ。
 カトルのおしりに軽々しく触るなよ。それどころか、
(掴むんじゃねェ!ッ!)
 と。
 触り放題なのは邪気のない子供の特権。おかしく見えるほうに問題があるのかもしれないが、好きにできるという事実はデュオからすれば、やはりうらやましくてしかたがないのだ。
 お子様の無礼講、恐るべし。クソうらやましくってたまらない。
 無論、彼が好きなようにできるとなれば、微笑ましい光景ではなくなってしまう。男だから当然のことだろう。と、締めくくるのは開き直りでも逃げ口上でもない。
「落ち着きねぇ、誰に似たんだよ、まったく」
 突っ込めなくて、そうとだけデュオはぼやく。
「元気なところは、きっと、お父さんですね」
 カトルはすぐに答えを出した。
 今のところアインは、あまりたくさんおしゃべりをしない子だった。そこは口数の多いデュオとは似てもにつかないし、顔も似ていないのに、雰囲気などは不思議と父親と重なるものがあった。特に笑顔などは、お父さんのデュオとそっくりだとカトルは思っていた。
「今日はいつもより、出勤時間が早いんですか?」
 園舎の時計を振り返りながら、カトルはデュオに問い掛けた。
「いや、コイツが急かすもんで。ほら、連休なんかがあったもんだから、ちょっとでも早くカトル先生に会いたいって、うるさくって」
 コイツを指すデュオに、カトルはくすくすと笑う。
「早くお友だちと遊びたかったんじゃないですか。それにアイン、いま熱中してるものがあって。砂場で水路をつくるのが楽しいみたいですよ」
「へぇ、水路工事ねぇ。……だけどコイツ、先生のピアノが好きなんですって。家で話すんですよ。言葉は発してんだけど、まだ文章としてはぐちゃぐちゃで、自己完結してるうえに脈絡はないし、なに言ってんのかイマイチわかんないんだけど、どうも、そういうことを言ってるみたいですよ」
「そうなんですか」
「オレも先生がピアノ弾くところ、見てみたいな」
 手でも握りしめそうなデュオの物言い。まだ見たこともないピアノを弾くカトルの姿は、想像の中でも麗しすぎて、デュオが熱を帯びるのも当然。
「ぼくのピアノでよければ、いつでも見学にいらしてください。園で唄うお歌でも覚えて帰れば、アインも喜びます。親子で二重唱ができますね」
 ふんわりと微笑まれれば骨抜きになる。
 春のそよ風、初夏のせせらぎ、秋の日の小春の日和、真冬の人肌に温められたぬくぬくの布団。――カトルといると、それらを連想する、ほのぼのとした感覚をおぼえ、デュオは心底なごんでしまう。
「はぁ~、オレも通いたい……」
 カトルは冗談と受け止め笑っているが、あながちそうとも言い切れなかった。
 やわらいだ気持ちにデュオは、
「アインが先生に会うのを、楽しみにしているわけだ」
 と、うなずきながら口をひらく。
「オレもやっぱり、先生のカオを見ないと、なんか調子がくるっちまって。一日の始まりはカトル先生の笑顔でってのが、もう習慣化してるっていうのか。それがないと、話になんなくてさぁ。今日の待ち遠しかったことって言ったら……」
 そこで言葉を切り、デュオはカトルを真正面からじっと見た。カトルの碧い瞳にデュオのコバルトブルーの瞳が侵入する。
 話をにこやかに聞いていたカトルは、斜め上の近い位置から見つめてくるデュオの視線に、不思議そうに首をかしげる。
「好きだ……って、言ってるんですけど」
 微笑の中で告げられる、デュオのストレートな言葉にカトルはたじろいだ。
 デュオの顔を見上げるが、彼はいつもと変わらず人好きする笑顔を浮かべているだけだ。
 赤い顔をしたカトルは耳を疑い、言葉の意味を探るよう、目をぱちくりさせる。
 深読みしていいのか戸惑っていると、カトルの表情でわかったデュオは吹き出した。
「そのままの意味なんだけど。――うちの坊主が先生に言うようなヤツじゃなくて。もちろん、お友だちのスキってんでもないぜ。オレ自身がそのつもりで言ったわけなんだし、赤い顔してんだから、先生の耳にももっと色っぽいほうに聞えたんじゃないの? それで正解なんだよ。……だから、先生の捕らえ間違いじゃなくて、オレ、先生のことが好きだって言ったわけ。わかる?」
「わかる? って、言われても。……わかっているのかもしれませんけど、飲み込めません」
「正直だな」
 明らかな困惑の言葉に、デュオがニヤニヤ笑っているのは、いい手応えを感じたからだ。
 カトルはデュオに好意を寄せられていると知っても、頭ごなしに拒絶はしなかった。つまり、脈ありということではないか。
 確かに、デュオの予想は的外れではないだろう。カトルはそんなデュオに好感を抱いていた。
 いつもデュオがアインとともに登園してくる時間帯になっても、なかなか姿が見えないと、ものすごく気になるし心配になる。習慣になっているためだとカトルは思っていたが、保育園でデュオの姿を見ると笑みがこぼれるのは、カトルも彼を快く思っていたから。
 よもや自分が、そんな対象として見られているとは考えたこともなかったが……。
 いつの間にかカトルは、アインとつないでいない余った片手で、エプロンを握りしめていた。
「シワんなるよ」
「……お父さんっ」
 呼んだのは息子ではなく先生のほう。
 ありゃ、カトルのお父さんにされてしまったな。なんて、そんなはずはないと百も承知なのに、デュオはおどけた調子で突っ込んで、やけに余裕で返事をする。
「はい、なんでしょう?」
「……どうして、突然そんなことを言うんですか」
「あのさぁ、普通こういうのって、予告してから言うものなの?」
 二人がつくった妙な間に、カトルにひっついていたアインが口を開きかけたのへ、デュオは「しっ!」と、口許に人差し指をあてウインクまでする。
 黙ってなさい。の、父の目配せに、アインは口を開けたままで停止した。それは調教、もとい、教育のたまものか。
「ちなみに予告なら散々してたつもりなんだけど。会うたびにカトル先生には熱い視線と情熱をぶつけてたでしょ」
 入園からの日々を思い起こせば、……なるほど、カトルはデュオからのアプローチに翻弄されっぱなしだった。
「初めて見たときから、先生のとこ」
「アインに聞えますよっ」
 慌てながら、カトルは抑えた声でデュオの言葉をさえぎる。
「あぁ、まだまだ聞えててもわかってねぇって」
「そんなぁ」
「そもそもこっちは上のほうでボソボソやってんだし、あっちは気がそれてるから聞えてないみたいだけど。――な、アイン」
 デュオの言うとおり、アインは父に話を振られても、きょとんとした顔をしている。
「ほらねぇ」
 さわやかなくらいに明るい笑顔は、こんな状況で浮かべるには不相応。茶目っ気があると言うより一癖ありそうという感じ。
 だけど、そこがまたデュオの魅力でもあり、憎めないところだ。だからこそ、カトルも困っているのだろう。
 何か変だ。何か変だ。変なことばっかりだ。と、カトルの頭の中は混乱した悲鳴ばかりを上げている。
 ひっそりとではあったが、一部の人間にとっては大イベントが発生しているというのに、園庭はいつもと変わらず、園児のはしゃいだ声で満ちている。これが夢ではなくて現実であることを、カトルに耳慣れた歓声が伝えてくるのであった。
 朝っぱらから保育園で、父兄と保父が何をしているのやら。より正確に言えば、父兄が保父に何をしているのやら……。
「人が……」
 常識人のカトルは人目が気になってしかたなくて、デュオに哀願するのだが。
「大丈夫、園児が騒ぎまくってるから」
「でも、聞こえ」
「おはようございまーす」
 目が合った園舎に向かおうとしているママさんに、デュオは愛想よくあいさつをする。
「ぁっ、おはようございます」
 動揺したままのカトルもそれにならう。続いてアインも……。
 デュオのご機嫌の笑顔に気をよくした母親は、三人に負けじと感じのいいあいさつを返し、園舎の中に入っていった。
 それを見送り、ホッとしたように肩の力を抜いたカトルを、デュオはおもしろそうに見ている。
「ほら、オレたちのことなんか、誰も気にしちゃいないって」
 デュオにうながされ、性質上カトルは素直にぐるりと園を見渡した。
 出勤のためか、先を急いでいる者が多い。一方、時間に余裕のある母親たちは、情報交換の一貫か、談笑に興じたり。
 なるほど、取り越し苦労なのかなと思いながら、きょろきょろしているカトルを見ているデュオの表情は、実に幸せそうなもの。心くすぐる、可愛いモノを見つめる瞳だ。
「何なら本気で口説きに入っちまおうかな」
「えっ!」
 カトルの焦りは、軽いくせに、すべてがたわむれには聞えないデュオの口調のせい。
「冗談だよ。そういうときは、もっとムードのあるところを選びますからご安心を」
 口角をくいっと上げて微笑むデュオの笑顔は、悪戯っぽいのに、やさしげな表情に見え、口同様カトルに何かを語りかけてくるようだ。
 そのささやきが届いたのか、視線が焦がした結果だったのか、カトルの頬はほんのり桜色に化粧した。
 めざといデュオは目を細める。
「かわいいねぇ、ピンクになってる」
「マ、マックスウェルさんッ!」
 言葉につっつかれたように、ビクッとカトルが肩をすくませ後退った。
「せんせい、どうしたの?」
「ど、どうもしないよ」
「ああ、どうもしない。アイン、先生はお父さんとお話してるだけだ」
「ふぅ~ん。……せんせい」
「なんだい?」
 呼ばれたカトルは、小首をかしげアインを見た。
 子供がお話しやすいように、中腰になったカトルは、寄り目になる一歩手前の距離まで身を寄せて、アインの言葉の続きを待った。
 傍にいるデュオも、カトルのように態度からして聞く気満々ではなかったが、意識としては耳をかたむけていたところへ、
「おとうさん、おうちでいつも、カトルせんせいがスキだって、いってるんだよ」
 自己中心的な発言形態を持つ幼児は、脈絡なく主張する。
 自分で言うのは平気でも、子供の口から暴露されると、デュオだってきまりが悪い。
 つげ口だとも言える内容に、反応が取れずにいる大人二人をしり目に、アインは素知らぬ顔でカトルの手を離すと、デュオの脚の間をこじ開け股下をくぐり、遊具のあるほうに走っていった。
 わが子の姿を追って、勢いよく振り向くデュオの三つ編みが、跳ねるみたいに大きく揺れた。


 今までそっちのけにしていた邪魔者であるはずの子供がいなくなったというのに、取り残された二人は近づくどころか、目線も合わせず、よそよそしい態度で笑う。
 だけど、こんなことをしているのは勿体ないとばかり、先に動いたのは当然デュオ。

 視線の中、大きくなるデュオの姿。
「毎日、口説きに来るよ」
 余裕めいたデュオの笑みに、どう反応していいのかわからないカトルは、恥ずかしさのあまり、まつ毛を伏せた。
 騒がしいはずの子供たちの声が消え、カトルの耳には、デュオの声だけが届いていた。



 これからアインは年少さんから年中さんになり、年長さんになっていくのだが、その間きっちりと、デュオの宣言は実行されたのであった。






 ――追記――

 アインは四歳になるころから、言動がデュオと似て活発になっていく。
 このとき、非常に協力的に見えたアインが、成長とともに自我が芽生え始め、お邪魔虫どころか、デュオの恋敵になっていこうとは。……それは当分先のお話である。


*FIN*
「マシュマロとこんぺいとーをあつめて」
2001年6月24日 初出
に、少し加筆訂正しました。



保母さんカトルでしたv(保父さんなのですがね)

デュオさんはシングルファーザーです。
この設定は、友人から強奪したリクエストからうまれました。
『カトルが保父さんで、デュオがシングルファーザーで、子供そっちのけでカトルを口説いている』
というリクエスト内容だったので、こうなりました。(ひねりもなく、まんま書かせていただいただけなのですなぁ:笑)
あと、『カトルが大人っぽくて、デュオがカッコいいのがいい』とも言われました。
が、カトルどうでしょう??(いつもよりはカトルがましだったら、幸いでするする)
物腰が柔らないので、微妙かもしれなませんねと、不安でするよ。
デュオさんはかっこよくなってくれないので、へっぽこすぎるところを削るということをしますたですよ。
でも、へっぽこだという理由ですべてを削ってしまうと、でゅおさんらしさがなくなるので、こんなもんです(笑)
いかがでしたでしょうか?

しかして、カトルって保母さん(だから、保父さんだってーの)似合いますよね!!
そう思ってるのがワタクシだけではなければいいのですが。

続きがありますので、これを読んでアウトじゃなかったかたは、そちらもお楽しみくださいv

それと、拍手やコメントがいただけると、とっても嬉しいですvv
かまってやってくださいねvv

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たみらむゆき軍曹&碧軍曹
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非公開
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カトル受専門の夢想家(野望)
趣味:
カトルいじり・カトル受妄想
自己紹介:
むゆきと碧
2人のカトル受限定軍曹が
同志を募って
集って憩ってしまう場を
つくろうと
もくろんだしだいであります。

小説や絵を
UPするのであります。
日記は書く気なし!
(そして、
まともなプロフィールを
語る気もなし。。笑)
軍曹はカトル・ダーリンズ
だいちゅきトークが
したいだけでありますから!

「我軍曹ッ!」
の名乗り随時募集中v
いつか、軍曹の集いを
したいものでありまっす★

しかして、
「なぜ軍曹?;」と、
大半の方に思われてるだろう。。

カトル受最前線で戦い続けるため
出世しすぎて
外野にはいかないからの
万年軍曹であります!

ちなみに最近急に
自分のことを、
「4受大臣」とも名乗るように。
「4受大臣補佐官」など(笑)
こ、これは進化なのか!?(笑)

我が魂、
カトル受とともにあり★(ビシッ!)
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