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【Happy Sheep】 DUO×QUATORE
 
摩訶不思議なひつじワールドへのいざないv
◆YA・GI ~ヤギ~◆



デュオさんとひつじカトルの物語。。
に、なにやら、なにかが起こります。
タイトルのヤギってなんぞ?
という、首をひねったお方も
本文を読むからどうぞ、お読みくださいませv


【Happy Sheep】 DUO×QUATORE
 
摩訶不思議なひつじワールドへのいざないv
◆YA・GI ~ヤギ~◆
 
 
 
 いま存在する《ひつじ》はカトル一人(?)なのだそうだ。
 と、いうことで、同種の仲間のいないカトルの友人は、もっぱら《ヤギ》だったという。
 カトルの言葉を借りて両者の違いを述べると、ヤギは『まっすぐ』で、ひつじは『くるくる』している。……と、なる。
「……もしもし、カトル?」
 苦笑したデュオが、「訳わかんねーよ」という表情をするのに、カトルは身振り手振りで説明していた。
「ですから、ヤギのツノはこーですし。毛もまっすぐなんです。口だって横にだけど、まっすぐですよ。仲良しの二人なんて、ここにもこう、まっすぐの皺だってはいっていました」
 ペンペンペンとカトルは眉間を叩く。
 そんなところに皺で、真一文字の口じゃあ、随分、厳しい形相じゃないかと、カトルの仲良しさんって一体……と、デュオは思った。
 カトルがむくむくの着ぐるみ系だから、ヤギって奴はピッタリしたタイツ系の格好でもしているのではないかと疑ってしまう。
「ひつじはツノも、こんな風にね、くるくる巻いていますし。わぁっ、ツノの付け根はくすぐったいから、あまり触らないでください。……ダ、ダメですってば。……それで、毛がくるくる……だから、デュオぉ、くすぐったいですって……」
「でも、カトルの髪の毛って巻き毛じゃないだろ。変種なのか?」
「いいえ、とんでもない。この辺なんて、すごく、ひつじらしいですよ」
 はぐらかすように話を振っても、訝しがるでもなく素直の返事をする。カトルのこういうところは単純で面白い。
 体を少し後ろに向けて、ちょいちょいと指差したカトルの襟足は、確かに直毛ではない。
 寝癖にも見える、くせ毛。やわらかな、ねこ毛。
 コレも《ひつじ》らしい所なのだという。カトルが言うことだから、あまりあてにならないような気がするが。
 細い首は頼りなさげで、白く透明な肌をしているから、恐ろしく綺麗だとデュオは思う。
 胡坐をかいていたデュオは膝を立てると、カトルに手を伸ばした。
 そのまま、後ろから抱き締めて。
「ほぉぅっ?」
 と、何事かと首を捩じったカトルの体を、ずりずりと自分の脚の間に連れてくる。
「……デュオ」
「カトル、ヤギってさぁ、髭が生えてんの、やっぱり」
「ぇ? 別にそんなことはありませんよ」
 カトルがあれこれ考えるよりも先に、質問を投げかける。すると、やっぱり、一発でカトルの気は疑問からそれてしまうから扱いやすい。
 何度やってもきっと同じだろうなぁと思うと、可愛くて笑ってしまう。
 引っ張られて、後ろにころーんと転ぶようにしてカトルはデュオの体に倒れこんだ。
 あわあわと腕を回す。
 そんなカトルの様子を見て、デュオは声を洩らして笑った。
「そのままでいいよ、カトル」
 カトルのお腹の辺りで両手を組んで、凭れた華奢な体ごと半身をゆっくり後ろに預ける。
「デュオー?」
 真後ろのデュオの表情を窺おうと、カトルは喉を見せて顎を上げた。
 反らせた白い喉をくすぐって、ニヤニヤとデュオは笑う。近付いたカトルのおでこにキスをした。
 これ以上は腹筋の鍛え具合がものを云う。それでも、特に力んだ素振りも見せず笑っているのだから、実は大したものだ。そう見えない辺りがデュオらしいのだが。
 ぐぐっとスローに上体を戻していく。
 くり返して。
 デュオは〈人間ゆりかご〉といったところか。
 なんとなく楽しいからカトルはこのままで落ち着くことにした。
「……ヤギはね。綺麗なんですよ」
「ヤギがキレイってのは、初耳だな」
「んん……笑ってる?」
「そ、そんな事ないって。きっとあれだな。美形なヤギとか、イイ男なヤギとか、そそるヤギとか、そりゃーいろいろいるわけだ。……想像できないけど」
 最後は小声。
「本当にカッコイイんです。僕はみんなに憧れていたから」
「ヤギに? どうしてェ。オレはカトルはそのまんまでいいと思うけどな。カトルは《ひつじ》らしいくていいんだよ。カトルの眉間に皺なんて入ってたら絶対おかしいって! 可愛がってもらってたんだろ? 愛情をいっぱいもらってましたーって滲み出してるからなぁ。……やっぱ、寂しい? 逢いたくなる?」
「……デュオがいるから、寂しくなんてありません」
 口許に微笑みを浮かべてカトルは目を閉じた。
 気丈なことを言っても、郷愁に駆られる思いは隠せはしない。
 座り直したカトルが揃えて立てた両膝を抱えるようにした。項垂れた体育座りといった感じだ。
 カトルが体勢を変えたために二人の体が離れた
 すると、今までずーっと気になっていたことが目の前でちらついたものだから。デュオはそこに手ではなく顔を近づけた。
 首元に見えるのはファスナー。透明で目立たない。
 うまくできてるもんだなぁと感心しつつ、ふはは、と笑うカトルを抱き締めて、その首元に、
「カトル、オレのこと好き?」
 低く囁き、頬擦りをする。
「ぅはっ!?」
 すりすり擦れる肌と、さわさわ当たるデュオの髪がくすぐったくてしょうがない。カトルは笑いながら、もぞもぞデュオの腕の中で身じろいで首を振った。
「なぁ、カトル」
 返事を促すデュオの声にカトルは笑いを噛み殺して応える。
「っ、デュオのこと……大好き、ですよ」
 ぐはははは、と笑うカトルに、デュオは吐息だけで笑った。
 わかっていた答えだったが、こんな単純で、そのくせむず痒いほど気持ちいい言葉なんて、他にはないだろう。
 カトルは回りくどい言い方じゃ中に隠された意味を見つかられないから、どれだけ言葉を並べ立てても不安そうな素振りを見せるときがある。そういうときに大切な言葉は、
「オレもカトルのこと好きだよ」
 そのものズバリ。
 だから、要するに『カトルのことが好きなんだよ』って事。
 ジグソーパズルの破片だけを見せられても、そこに描かれているものが一体何かなんて、まるで想像できない。
 喉に魚の小骨が引っかかったような気分で立ち尽くしていたら……。
 その答えだ見えたような瞬間。
 わかってしまうと、一つ一つ確かに、そこに繋がるものに見えてくるから不思議。
 初めて、ありったけ持ってきた言葉がカトルの中に染み込みはじめる。言葉に命を吹き込まれるような感覚。じーんと中から広がるような喜び。
 いつも屈託なく笑うカトルが、このときだけは静かな微笑を浮かべる。伝えようとしているこの想いに身を浸すように、しっとりと。
 こういうときのカトルは高潔で綺麗だ。
 薄桃に染まる首筋に、ふっと息を吹きかけて、
「ぅぎゃ!?」
 跳ねたカトルをデュオは掴まえるように後ろからだっこする。
 もふもふしたカトルのコスチュームは、ぬいぐるみを抱いているような錯覚をデュオの抱かせる。
「デュオっ」
 猫のじゃれあいのようなつもりなのだろう。少し怒ったような響きは笑いの方が色濃く滲んでいる。
「今日はちょっといつもと違うんだけど……」
 ニヤッというよりニタリ。少し裏のありそうな、悪戯な笑みを浮かべ。もふもふとした突起毛に隠されたファスナーをデュオは器用に口で探り当てた。
「……デュオ……機嫌がいいんですか?」
 微かなデュオの鼻唄がカトルの耳には聞えていたから、思わずそう尋ねた。
 後ろの方へ向き直ろうとするカトルを抱き竦めて押し留める。ジジ、ジジジィーーと、デュオは咥えたファスナーを引き下ろしていった。
 半ばで動きを止めてチラリと目線を上げると、裂けてゆく白から、なお白い肌が覗いていた。
 素肌がカトルの笑い声に合わせて振動し、呼吸に合わせて微かに上下に動く。
「うほぁ~……」
 んぐっと、喉を鳴らしたデュオが洩らした声を、
「くふぁあ?」
 カトルがオウム返しした。ニュアンスが随分違ってしまったが……。
 一番下までファスナーを下ろしてしまうおと思っていたデュオだったが、気が急いて。片腕でカトルの体を抱いたまま余る手で分厚い布を掴むと、デュオは一気にズリッとそれをずらして白い肩を露にした。
 エビ、イカ、バナナをひん剥く時より興奮するのは当たり前か。
 肌に手を這わせるよりも先に、視覚の要求のほうが勝ってしまった。
 現物は想像していた映像より精緻で、その分だけ美しいとは……。どんなハイビジョンの映像でも恥じる必要なんて決してないだろう。
「ふはー……」
「んっ?」
 ハテナの中にいる、小さなカトルの声。
 色は抜けるような純白。さらさらとしているから、白粉で化粧を施したようにも見える。
 染み一つない肌になだらかな丸い肩の曲線。肩甲骨の線も浮かぶ背骨も吸い付きたくなる程、艶めいて麗しい。
 冷たい外気に触れた肌が微かに震え、
「……んっ」
 粟だった。
 風に揺れる花が匂いを零すように、カトルの肌が甘く柔らかな香りを振り撒く。
 鼻の奥で刺激されたのは少し食欲にも似た……欲。
 視覚はいかにも細そうな骨と筋肉と脂肪、その重なりで生まれた皮膚に浮かぶ隆起をたどり。細められたデュオの目は瞬くことも忘れていた。
 本来デュオは神など信じないが、これを創造したのが神って奴だとしたら、そのとんでもなく自分とドンピシャの感性をもったそいつだけは、素晴らしく最高だと讃えてやりたくなる。否、寧ろ感謝だ。
 華奢な躰が愛しくて、祈るような喜びをもってデュオは額をカトルの肩につけて、ギュッと強く抱き締めた。
「デュ、デュオ、くすぐったい……」
 いつもよりキュンッと響く高い声は、驚きと笑いを堪えているためだ。
「もうちょっとだけ、このままでいさせてくれよ……」
 肌に触れた唇が音を出すと、ブルブルと皮膚の中まで振動してくるから、むず痒くて、
「デュオぉ……」
 カトルは困ったような声を上げた。
「すぐに“動く”からさ」
 笑うようなデュオの声は正体の見えないもう一人の彼と重なった。
「いや、あのね、デュオ……」
「くすぐったいの?」
「ぁ、はい。……わわわっ!?」
 わかっていても止めてくれないデュオの腕から抜け出そうと、カトルは両腕を突っ張って絨毯にペタリと手をついた。
「ぅえいっ」
 と、気合を入れて這うように、よいしょと一歩前進する。
「あんまちゃんと見たことなかったけど、カトルのシッポって、かわいいなぁ」
 デュオは沈んだ頭の代わりに少し持ち上がった所にも興味を持った。
 周りに紛れ込むようにあった小さなシッポを見つけ、目を丸く見開いたデュオは、口笛でも吹きそうな様子だ。
「シッポってさぁ、これ、カトルの?」
「僕のですよ。借り物ではありません」
「ちょーっと違うんだけどなぁ。これって飾り? それとも、くっついてんの、ツノみたいに?」
 肩越しに見つめてきたカトルの澄んだ瞳は、地球みたいな色をして、たっぷりの水を湛えている。ゆらゆらとしているから、もう少しどうかしたら零れ落ちてしまうかも。
 腰を浮かして膝で立ち上がるとデュオはカトルの背中に重なり、片手でシッポの辺りを撫でた。
「ひゃっ!? だ、だめですっ」
「ぁ、くっついてんだな」
 少し触っただけで微かに背をしならせたから、繋がっているに違いない。
 楽しくってしかたないと、胸がチリチリする。
「カトルここ苦手だったよな」
「デュオ! だめ! そこは、むずむずして……かゆいから……もぅ」
 ツノは鈍く感覚が伝わる。敏感ではなく鈍いから、うぶ毛に触れるか触れないかで肌をいたずらされるみたいな変な感覚なのだ。
「気持ち悪いんですってば」
 頭にある手を退けようとカトルはわたわたしているのに、デュオは声を洩らして笑っている。
「あっちもこっちもダメじゃ、オレどうもできねえじゃねぇか。……よッ、と」
「ふゃッ」
「どっちが嫌い?」
「……どっちも、いやです」
「カトル、どっちの方が苦手?」
「どっちも……苦手です」
「じゃあ、どっちを止めて欲しいんだ?」
「どっちもッ!」
「……カトルって実はワガママ?」
 一つ一つの言葉が楽しそうに跳ねる。ニヤニヤして真顔に戻れそうになかったデュオの顔が、はっきりと崩れてしまった。
 妙に正直で譲らないところが可愛らしい。カトルはデュオを内側からもくすぐるからたまらない。
 クッションみたいな柔らかなツノを、うにゅっと押して、シッポを手の中におさめた。
「あっ!! だ、だめですっ。デュオ、シッポは触らないで、困ります!」
「困る? こっちがぁ」
「ぅやっ! 大変なことになってしまうから、やめてください」
「ふ~ん。……よし、じゃあ、こっちッ!」
「ふわッ!?」
 下の方の腕はそのまま、ツノから手を離した。
 カトルがより嫌がる方をデュオは選んだのだ。根っからのいじめっ子と言える。
 口は肩に触れて、滑るように腕まで落ちた。
「デュオーッ!」
 聞いたことのないカトルの強い口調に、デュオは少し意外な気がした。が、
「感じるから困っちまう?」
 わかんないかと思いつつ、思わずそういうことを口走るのは、自分が昂ぶっているからだろう。
 頭の中では“もっと”と、自動変換する。結果、『強い拒絶』は『強い求め』とイコールになる。横暴な俺様中心の発想だと言える。
 着ぐるみ越しで探っていてもシッポはいいが、ナマで可愛いに決まっている、ひっついている土台であるソコを見たくなる。
 肉のないカトルの数少ない、ちっちゃくて薄そうでも、うにゅっとなりそうな処。そこを目指してデュオは放っておいたファスナーに手を掛けた。
 渇いた唇を湿らせるように舐めた。悪戯好きの表情は劣情が零れるようで悪趣味だが、様になるから……デュオという男は女を惹き付けるのだろう。
「デュオぉ、シッポから手を離してください!」
「んん?」
「シッポです! だめなんですッ!」
 下ろされていくファスナーそっちのけで、カトルはシッポのことしか言わない。
 こりゃあ、よっぽど弱いんだなぁとデュオは思い、泣かせてしまえっ! と、シッポを握るとキュッと引っ張った。
「ひッ!? アァーーーッ!!」
「ええっ?」
 カトルが放ったのは甘い溜め息などではなく、動揺も顕な悲鳴だった。
 過剰な反応にデュオが面を上げた瞬間、ソレは来た。
 
 
 
 わかったのは、寝室のドアを開けてリビングに飛び込んできたこと。
 それは硬質な鋼のように引き締まった躰をした青年だった。
 視線を向けたときには、疾風の如く空を切り、手にした物を振りかざしていた。
 唸りを立てるような勢いで、自分を横になぎ払おうと斜めに走った腕に、デュオはとっさに肘を打ちつけた。しかし、手先から角度を変え、黒光りした棒状のものがしなやかに湾曲し、デュオの背を襲った。
 ピシィーーッ!!
「イッテーッ!!」
 安定の悪い体勢にもかかわらず腕を肘で止めたデュオの運動神経も常人離れしているが、相手の手にしていたものは、なんとムチだったのだ。
 根元を止めてもいくらでも先端はたわむ。
 ムチだってーーーッ!? と、デュオはあんまりの凶器に場の緊張感も忘れ笑ってしまいそうになった。
 デュオが引きつったその隙に、カトルは庇おうとする彼の腕から抜け出して、そいつの前に立ち塞がった。
「やめてッ!」
「カトルッ! 危ないだろうが、何やってんだッ!!」
 デュオは声を張り上げ、そいつがカトルを一瞥した。
「わぁわぁわぁー」
 けたたましい声を上げて、自分の身よりも大切なカトルの腕をデュオが引こうとする。
 それより先に、カトルが相手の足元にすがり付いた。
「もう、やめてっ」
 焦るデュオがカトルに近付くより速く、そいつの手がまた振り下ろされ、カトルがぶたれる。と、思った瞬間。
 デュオの背中にムチが命中した。
「ッ!?」
 これは明からにデュオ狙いだ。背中は痛むがカトルが何もされないことは滅茶苦茶嬉しい。が、でも、だから、何なんだコイツは? とデュオは憤る。
 そいつの動きを止めようと、足にへばりついているカトルを見てデュオはますます焦った。
「離れろッ!」
 二人が同時に言った。
 デュオはカトルにそいつから離れろと。では、そいつは……。
「カトルから離れろ」
 デュオに向かって、そう言ったのだった。
「な、なに言ってんだー!?」
 どうも自分にだけ敵意があるようで、カトルには無害なようだが、気に入らないのは確かだ。
 馴れ馴れしくカトルを呼び捨てにしたのは面白くない。
 自分がカトルといい感じなのに嫉妬したストーカーかとデュオはふと思った。
 何にせよ、こいつの出現でほのぼのワールドが一変して、一気にバイオレンスな世界に模様替えしたのは許しがたいだろう。
「よっ」
 と、声を出してデュオは立ち上がり、パンパンと脚を叩く。すっと相手に目線を合わせた瞬間、デュオの空気が変わった。
「ちょっと待てよ」
 一気に室内が冬に逆戻りしたようだった。
「一体お前、何者なんだ。……カトル、そいつはヤバイから、こっちおいで」
 凍りつく氷の刃にも似た声を出し、カトルに向かって手を差し出した。
 相手がキレてカトルに何かしやしないかと、デュオは生きた心地がしない。相手はおかしな得物を持っているものだから間合いが難しい。下手に近付くとチリチリと痛むミミズ腫れが三本に増えてしまう。
 普段の彼ならこんなヘマはしなかっただろうが、カトルを気にしているぶん不利だと言えた。
 いつもはニヤケ面の部類に入るデュオだが、修羅場に入るとまるで違う顔も見せる。不適というに相応しい面構えだ。隠された陰に気圧され、竦み上がるものも少なくはない。
 表裏、明暗を併せ持つ。こういうときに彼が見せる潜むような笑みは、不気味に精神を侵食する。重圧を与える武器になる。
 表の顔しか知らない者が今の彼を見れば、取り巻く空気の匂いに戦くことだろう。
 人の負の感情が澱んだ闇に、毛先までも浸した者だけが纏う風。冷たいきらめきは恐怖を与え悲しみを知らしめ、人を魅了する。
 どんな人生を歩めば得られるものなのだろうか……。
 それを正面から受け止める相手の眼光の鋭さも只者ではなかった。目だけで、精神的にこちらも十分に人が殺せそうだ。加えて、怜悧で美しいと感じさせるのは彼の瞳が気高さを持っているからだろう。
 鬱陶しく褐色に艶めく髪が目に掛かる。野性の強靭さとしなやかさを併せ持った、鍛え抜かれた無駄のない身体。鋭い光を放つ瞳。ケモノのような鋭さを秘めた青年。
 ギチッと音をさせて、そいつがムチを手に馴染ませるように握り直した。
 一歩前に出ようとした時。立ち上がったカトルが、真正面からそいつの身体にしがみついた。
「ヒイロッ!!」
 青年の名前だった。変質者が一方的にカトルを知っていたということではなかったのだ。
 対峙する二人の青年と比べ、こちらだけは清冷な春の微風(そよかぜ)のよう。悪く言えば張り詰めた空気が似合わないカトル。
「ヒイロ! だめだよっ」
「カトル」
「ねぇ、ヒイロ、怒らないでッ」
 話し口調が砕けていて親しげだったから、デュオは呆気にとられ固まってしまった。
「警報はそいつが鳴らしたんだろっ」
「デュオはなにもしていないんだ」
 ひん剥かれかけのカトルが言っても説得力の欠ける。
 口を開きかけたヒイロという青年の身体に、カトルは跳びつくように縋り付いた。
 青年はカトルの姿を凝視すると、瞳をすがめるようにして片眉を吊り上げた。
 
 
 
 
 
 シッポは駄目駄目とカトルが嫌がった理由は、強く引っ張るとヒイロが来てしまうからだった。
 原理は簡単。カトルのシッポにトレーズが細工をして、防犯ブザーのような役割を持たせたのだ。
 肝心なときに持っていないと意味がない。いくらカトルがぽやーっとしていてもシッポなら落としようがない。と、考えたコレは、なかなかの名案だと言える。
 だが、どうやってそんなことをしたのかは全くわからない。
 そんなことを言い出せば、今来たヒイロだって唐突に寝室から飛び出してきたのだ。
 前にカトルにどこから来たのかと聞いたことがあったが、その時は寝室の中からドアを指差して、「あそこからお邪魔しました」なんて言っていた。
 道筋はなく唐突にそこなのだ。
 非常識にも程があるが、メルヘンな世界の住人のすることだと割り切って、デュオは深く考えないことにした。まあ、こういう彼の適応力も凄い。
 とにかくデュオがカトルの制止も聞かずイタズラをしたものだから、カトルの危険回避にヒイロがやってきて正義の鉄拳ならぬムチをふるったということだった。
 
 
 
 
 
「よかったですね、デュオ。ほかの二人は来なくて」
 カトルは薬箱をのそのそ運んできて、ペタンと膝を付きながら言った。
 場合によっては三人来る(・・)らしい。どうやら他の二人の勢いもヒイロという奴レベルで、プラス二ではなく、掛けるってな具合で酷い目に遭っていたかもしれないのだ。
 殺伐とした空気は嘘のようにデュオから消え失せていた。
 この切り替えの速さも天下一品だ。
 服を捲り上げるデュオの背には二本の線が。皮膚が赤く線を引いたようにピリピリと腫れ上がっていた。
 引っ掛かれたように盛り上がる、その痛々しいミミズ腫れを見て、カトルは大きな瞳を潤ませた。
「いたいです、デュオぉ」
 傷の痛みより、カトルに悲しい顔をさせるほうがデュオにはこたえる。
「いや、カトル……痛いのオレだから。大丈夫だよ、オレってば頑丈に出来てるから。こんくらいなんでもないぜ。カトルはそんな顔しなくていいんだよ」
 笑いまじりの優しい声は、カトルをキュンと切なくさせる。
 怪我をした人間が、手当てする側を慰める。妙な構図が出来上がっていた。
 その横には傷を負わせた張本人まで居て、そいつは冷めた目で二人の様子を傍観している。謝罪する気は微塵もないらしい。口を開いていても、「自業自得だ」という、不機嫌な声しか出さなかっただろう。それではもう一戦始まってしまう。
 とりあえず、カトルがいるから下手に揉めるべきではないとデュオは考えた。間で右往左往されたら、危なくってしかたない。
 掴みかかりたい気持ちをなんとか打ち消して、自分もそいつ同様、相手を無視することに決めた。
 今からここにあるものを、厳しい狸の置物だとでもデュオは思っておくことにした。
 それにしてもどうやってこの薬の封すら開けられないような子が手当てするんだろうかと思っていると、カトルが両手を揃えてヒイロの前に差し出した。
 無言のヒイロにカトルは口を引き結ぶ。
 なんだか、大人と子供のにらめっこを見ているようだ。
 動こうとしないヒイロをカトルはせっついた。
「ねぇ、ヒイロ。おねがい」
 眉間の皺をより深めて溜め息をついて、ヒイロはいかにも渋々といった表情でカトルの手首付近を探ると、ベリベリと音をさせた。
「へえ?」
 目を丸くしてデュオは声を洩らす。
「ありがとう、ヒイロ」
 にっこりとカトルが微笑みかけると、ヒイロは目線を逸らせた。
 お縄を頂戴します。と言うふうに見えてしまったが違ったようだ。
 ヒイロはカトルの手首から先の衣装部分を取り外してしまったのだった。ベリベリと言うのは面テープを剥がす音。
 カトルのコスチュームがそういう構造になっていると知らなかったデュオは唖然とした。
 自分の知らないことを相手は知っているのが、ムカムカと胸糞悪くて苛々とする。デュオの中では十分でも、そんな理由では相手を殴れもしない。
 小さめサイズの手が出てきた。やっぱりそこも白くて、わきわきしていて可愛いから、とりあえず手の甲にでもチュッとキスしたくなる。
 真横に置物にしては威圧感たっぷりすぎる監視がついていて、文字通り目を光らせていたから我慢したが。
「はい、デュオ。後ろを向いてください」
 耳に心地好いボーイソプラノが流れ込む。
 もし入院先の病院に、こんな白衣の天使がいたら退院するのが嫌になってしまう。
 薬を塗る前にカトルが傷の熱を冷ますように、ふぅーふぅーと優しく息を吹きかけてくれたから、くすぐったくて、襲った不幸を忘れたように、自分は東西一の果報者だとデュオは思ったのだった。
 
 
 
 
 
「……デュオ、ちょっと待っていてください」
 少し緊張したような顔で笑顔を作ると、心配そうなデュオに“お願い”をして、ヒイロと二人隣室に入っていった。少し、二人で話がしたいのだと……。
「僕は帰りません」
 扉を閉じると同時に、カトルはヒイロを見つめてきっぱりと言った。
 何を言われるかわかっていたから、ヒイロのペースになることを恐れ、カトルは早々に口火を切ったのだった。
 なにかあったらすぐ帰る。トレーズがカトルをデュオの処へ来ることを許可したときの条件だったのだから。
「カトル」
「デュオは知らなかったから。もう、シッポをひっぱったりなんてしないから」
 言い募るカトルの姿にヒイロは眉をひそめる。
 必死にデュオを庇い、帰らないと主張する姿がけなげすぎて。
「……だから始末が悪い。逆だ。引いたから良かったんだ。あのままでいたら、お前はどうなっていた。……帰るぞ」
「帰らない。危険なことがあったときの為だって、トレーズ様はおっしゃっていたんだ。デュオとはちゃんと仲良くなれたし。……もう、大丈夫だから。シッポのこれも要らないし、帰る必要なんてないじゃないか」
 反抗的なカトルの態度は、ヒイロからすれば駄々を捏ねているようなもので可愛くもあるが、その理由が気に入らなかった。
 相手がカトルに抱いているものが、ままごとのような子供めいた好意だけではないのだと、気がつかないのだろうか。
「肝心なことを教育し損ねているな」
 静かにだが、吐き捨てるようにヒイロは、今はこの場所にいない人物に悪態をついた。
「……ヒイロ、君は、なにを怒っているの?」
「カトル、どうしてわからないんだ、お前は」
「ヒイロぉ」
 微かに眉を寄せたカトルの顔は、思わず庇護欲したくなる愛護精神のようなものを、まともに捉えてくる。そんな表情で泣きつかれたら、誰でもどんな願いでも叶えてやりたくなってしまう。
 ヒイロの表情がより険しくなったように見えたのは、その感情を押し殺したからだったのか。
「その警報は相手が知らないから意味があるんだ。知ればいくらでもかわす手段を講じれるだろ」
 押し殺したように低く流れる声に乗せ、乱暴にヒイロはカトルの腕を引く。
「うわぁっ!」
 ヒイロの鍛えられた身体で鼻をぶつけて、カトルは顔をしかめた。
「知っていたら、どうとでも出来るっ」
 カトルの衣装に手を掛けて、ヒイロは力任せに引き下ろした。
「いたッ!!」
 生地がカトルの肌を噛んだ。
 急なことに驚いてカトルがギュッと眉を寄せる。
 肩は一度しまっていたが、ごたごたの最中であったため、どちらにも頼めずファスナーは開いたまま間抜けな状態だったのだ。
 カトルがへなへなと崩れられないように、腰を抱いて引き寄せる。上腕で止まる布を強引にずり下げると、両肩からさらに下の白い肌が露になった。
「ヒ、ヒイロっ」
 逆らい、衣装を正して肌を隠そうとする華奢な両腕を、片手だけで掴まえた。
「カトルが自分ではシッポに触れないようにすることも……」
「……ふぐッ」
 ファスナーの裂け目に手を差し入れて、滑らかな肌にちょこんとある、小さなシッポの付け根をなぞる。そこを硬い指先で擦るように撫で、ヒイロは言った。
「……自分がここを強く引かないでおくことも……」
「ぃッ!?」
 見開いて潤ませたカトルの碧の瞳を見つめ、ヒイロは射るような視線を向ける。
 視線を合わせたまま腕を蠢かせ、
「ぃや、だよ……ヒイロぉ」
 逃れようと躰を捩じり、震えを含んだ声を出すカトルに、
「……逃げてみろ」
 そう、言い放った。
 
 
 
 
 
 中から先に仏頂面のヒイロが出てきた。
 デュオが見据えるようにヒイロを睨みつける。向けられた刃のような視線にもヒイロは一瞥しただけだった。
 ヒイロの後についてカトルが姿を現した。
「カトル!」
 呼ばれて視線をデュオに向けると、にへらと笑った。カトルの目が少し充血して、鼻の頭もほんのちょっと赤くなっていた。
 目つめるとすぐにカトルは小走りにデュオの傍らにやって来た。
「……お待たせして、ごめんなさい」
「ん? ……カトル、どうした」
 心配を掛けないように、デュオに向けてにこりと笑ったカトルの瞳は潤みを帯びて、長い睫毛はしっとりと雫を含んでいた。
 泣かされたのか……。
 ギュッと腕に力を込めて、デュオはカトルを守るように抱き寄せた。
「おい……お前、カトルに何かしたのか」
 低くデュオの声が流れた。一度も聞いたことのないデュオのその声色に、驚いたようにカトルがパチパチと瞬く。
「お前(馬鹿)と一緒にするな」
 かちんときたデュオが百倍の口数で報復しようとしたが、カトルがそこに口を挟んだ。
「デュオ。みんなによろしくって、ヒイロにお願いしただけなんですよ。……ここにいたいから。……僕はまだ、デュオのところに居ても、いいですよね?」
 訊ねるカトルの口調が心細げに震えていた。
「あったり前じゃないか。カトルが帰るって言っても俺が許さないからな」
 綻びたカトルの安堵にも似た微笑。
「お前に決定権はない」
 それに重なったのは不釣合いな、ヒイロの語尾の強い口調だったが。
「……あのなぁ。いちいち癇にさわる奴だな。言いたい事があるならはっきり言ったらどうなんだ」
「カトルを連れ戻しにきた」
 眉間に取ってつけたような皺を叩き込んでヒイロは言った。
「警報を使うようなことがあれば、そんな危険な場所には置いてはおけない。はじめからそういう約束だった。……馬鹿面をするな、口を閉めろ」
 言われた通りに口許を引き締めて、そのまま表情を険しくしたデュオに、カトルはぎゅぅっとしがみついた。
 
 
 
 
 
 カトルがここに来た勘違いとも言える経緯を説明し、もしもまた不用意にカトルに悪さをするようなことがあれば、問答無用でカトルは連れて帰るし、邪まな素振りが見えただけでも、
「……お前を殺す」
 そうヒイロは物騒な捨て台詞を残して去っていったのだった。
 何かあった後では手遅れになるから、始末しにくるなら間違いなくその前だろう。
 手を出して、二人や三人喧嘩を売りにきても返り討ちにする自信はあるデュオだったが、それではカトルをガッカリさせてしまうだろう。それに、カトルの目が節穴だったと言われるのは許せない。
 男の意地。
 カトルが懐いてくれたのに、それを裏切るように、我慢もできない男だと思われるのはデュオの望むところではなかった。
 物騒な野郎にではない。
「カトル、小指出して。……そう、世界でいっちばんカトルのこと好きだから。いつも、その天使みたいな、ん? わかってるって! 《ひつじ》だってんだろぉ。……まあ、その笑顔を守りたいんだよ俺は。カトル、お前にオレは約束するから。泣かすようなことはしないし、大切にする。……迎えなんてよこさせない」
 デュオが誓うのはカトル。
 初めて触れるカトルの素肌の手。たどたどしく持ち上げられた小さな小指に、自分の指を絡めて、デュオはカトルを見つめ、そう囁きかけて。
 カトルは何処まで理解したのか、嬉しそうに頬を染めた。
「デュオ、僕もね。あなたのこと、とても……大好きです」
 はにかむようなカトルの微笑に、デュオは厳かに誓いを立てた。
 
 
 
 背中の傷は放っておいて、それからしばらくの間デュオの腹部にはテーピングがされていた。
 実はあのとき去り際に、ヒイロがドサクサでデュオの腹に一発お見舞いしたときの名残りだった。
 威嚇の力加減も知らないのか、普通だったら内臓を吐き出していたような拳を鳩尾に叩き込んでいったのだった。
 
 
 たとえるならば、肉食獣だとしか思えないヒイロが……。
 
 ……その後、ヒイロが《ヤギ》だったと知って、デュオが大ウケしたことは言うまでもない。
 
 


 
■FIN■

 
初出 1999.5.5に少しだけ訂正しました



お疲れ様でしたーv
デュオカトのひつじ本から「ヤギ」でした。

ヒイロさん登場です。

間男です(笑)

ヒイロさんの得物のムチは短いものです。

ついでにあと2人のヤギはお分かりだと思いますが、トロワとうーへーです。

トロワの得物はながーいムチです。
同じムチでも違うんですねぇ。

うーちゃんは素手で戦うんじゃないでしょうか。。(笑)

こんな話でヒイロのこと怒ってなければ、拍手でもしてやってください!

ヒイロもっといけーってことでも、拍手してくださいねv(笑)

いやいや、デュオさんガンバレーの応援もお待ちしております。

ああ、ブログに1個そのまま載せるのは半端な長さで(別けると短い。。別ける場所もない)困りました。
じゃじゃ、ホントにむゆきさんガンバレーの声もお待ちしてます。
これも拍手いただけるといいなぁ。

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たみらむゆき軍曹&碧軍曹
性別:
非公開
職業:
カトル受専門の夢想家(野望)
趣味:
カトルいじり・カトル受妄想
自己紹介:
むゆきと碧
2人のカトル受限定軍曹が
同志を募って
集って憩ってしまう場を
つくろうと
もくろんだしだいであります。

小説や絵を
UPするのであります。
日記は書く気なし!
(そして、
まともなプロフィールを
語る気もなし。。笑)
軍曹はカトル・ダーリンズ
だいちゅきトークが
したいだけでありますから!

「我軍曹ッ!」
の名乗り随時募集中v
いつか、軍曹の集いを
したいものでありまっす★

しかして、
「なぜ軍曹?;」と、
大半の方に思われてるだろう。。

カトル受最前線で戦い続けるため
出世しすぎて
外野にはいかないからの
万年軍曹であります!

ちなみに最近急に
自分のことを、
「4受大臣」とも名乗るように。
「4受大臣補佐官」など(笑)
こ、これは進化なのか!?(笑)

我が魂、
カトル受とともにあり★(ビシッ!)
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