~来タレ我軍曹!×4受限定軍曹&4受大臣憩いの場★~
ヤギウーフェイの苦境
ウーフェイ×カトル
先に1235×4のひつじにあるトレーニングを
読んでいただいたほうが、意味がわかりやすいです。
そこからの、パラレル的な話になっています。
だったりしてね。。というような。
堅物でシャイなうーへーとひつじカトルは
どんなかんじで一緒にいるのでしょうか。
ウーカトだから起こる小さな物語ですv
ウーカトも読んでみたら楽しめた!というかたがいらっしゃいましたら、
拍手やコメントお待ちしておりますvv
ではでは、本文を読むからどうぞーv
『ヤギウーフェイの苦境』
今日はウーフェイの部屋にお泊りだということで、カトルは着替えを持って意気揚々とやってきていた。
カトルが張り切っているのは、自分の実力を試すべく、ここにやってきたというだけではなくて、初お泊りだということもある。ようするにはしゃいでいるのだ。じらされていたぶんだけ、より、カトルはお泊りを楽しみにしていた。
ヒイロの家にはちょこちょこお泊りしていたが、ウーフェイのお家にお邪魔するのは初めてなのである。客用の布団はないといって呼んでくれないのだ。
だが今日はカトルの寝かしつけるという技の精度を確認すべくお邪魔したので、別々の布団で眠る必要はない。というよりも、別々に寝てはやりづらい。やはり一緒に眠らなくては。
ウーフェイは今夜待ち受ける『カトルと同衾』という単語がよぎるだけで精神的に不安定になってしまうのだが、そんな些細なことで精神の安定を欠くのは修行が足りないからだと、自分を叱咤していた。
カトルが嫌いなわけではない。カトルでなければ逆さ吊りにされようとも、こんな馬鹿げた要求を受け入れなかっただろう。結局はウーフェイもカトルを邪険にはできないのだ。だからといって、即、なんの迷いもなく状況に流されるということもできない、堅苦しい性格をウーフェイはしていた。
だが、問題は、もっと早くに起こることになる。悩ましいと思っている就寝時間前にもっと深刻な事態がウーフェイを襲ったのである。
あとは入浴するくらいしかすることもなく、それが終わり髪が乾けば寝るだけだ。カトルの寝かしつけのスキルを試される被験者ウーフェイは一緒に寝てやるとはいったが、特になにをしてやるつもりはなかった。ウーフェイの朝は早くそうそうに寝ることしか考えていない。一緒に寝てやるところまでは譲歩したが、自分のペースを崩す気はなかった。
独り住まいを送っていると当然自分が一番風呂だが、カトルはどちらを好むのだろうか。ウーフェイのそんな微かな気遣いが動いただけでも、カトルは特別だということなのだが、
「おまえが先に入れ」
口から出る言葉にはわかりやすい優しさが表れておらず、口調が高圧的だ。
怒ってなどいない。怒ってなど、いないのだ。いないのだが、こんな口調でしか話せないせつないくらいに不器用な男だった。幸運なのはそんなぶっきらぼうな口調で話しても、カトルはそこから悪意を感じないような、おおらかな性格をしていた。ウーフェイの性格を考えると、自分を優先させてくれようとしたことだけでも、ものすごく彼なりの心遣いが働いたのだと、カトルはきちんと理解している。だから、ふわりと優しげな笑みを浮かべた。
「いいよ。先にウーフェイが入ってください。僕はあとから……」
「そうか。おまえがそれでいいのなら、俺はかまわないが。まあ、おまえのあとだと、湯をぬるくされそうだしな」
ウーフェイは熱湯風呂のような、高温の湯を好む。ぬるま湯のような、だらけきった根性をしていそうな、気合の入っていない湯船になど浸かってなどやるものかと思っているのだ。ウーフェイは入浴までもが自分を鍛える鍛錬のような趣があった。熱すぎない温度でたゆたゆしながらのんびりお湯にはいるのが好きなカトルが、その湯にはいることになれば、熱湯風呂の罰ゲームのようになるだろう。
「じゃあ、お先にどうぞ。僕はあとでね」
にこにこ笑っているカトルに背中を押されて、ウーフェイはひとっ風呂浴びて、すっきりしようと思った。そして、即、寝てしまおうと。
「ウーフェイ、じゃあねー」
なぜか、ハートマークを飛ばすように上機嫌なカトルの様子が気になったが、とってってと跳ねる様に傍にきて、背を押されていると、自然と甘やかな状況にいる気がしてしまう。新婚家庭の夜の一コマのような気分を味合わっているとは、口が裂けても言えないとウーフェイは思った。そのような軟弱なことをよぎらせてしまったことは一生自分の胸の中にしまっておかなければならないだろう。
「熱すぎない温度のお湯も気持ちいいんですよ。ゆっくりとつかりやすいしね」
「あ、ああ、まあ、自分なりのほどほどの温度で入浴するのも、悪いことではない、な」
感じてしまった甘い空気に押され気味の返事をしてしまう。こんなウーフェイをみることもまずないだろう。普通なら「男だったら男らしくゆだるような熱湯に気合で入れッ!!」と、説教モードで怒鳴り散らすところだ。もうこれで、見るものが見れば、完璧にウーフェイがいつもの調子ではないことが、痛いほどわかる。
カトルといるとペースを乱される。いやでも自覚せずにはいられない。そんな、事実から目をそらすように、ウーフェイはカトルから逃げるように風呂場へと消えていった。
(どうして、あいつは、男のくせに、柔らかな物腰をしているんだ。どういう奴なんだいったい)
と、ウーフェイは下ろした髪をシャンプーで洗いながら、なにげに考えていた。
人当たりのよさと同時に、なにものにも負けないナゾの底力を感じる。ウーフェイはカトルという存在を自分の中のどこに置いていいのか、いまいちわからないのだ。
わがままを言うわけではないのに、ひどく困らされるときもある。しかし、心の底から頭に来ることはなく、なぜか、無下にできない。
(無意味に可愛くていいのはカトルだけだ……)
ちらりと浮かんだ、そんな言葉に、ウーフェイは誰に聞かれたわけでもないのに、瞬時にカッと赤面してしまった。
「な、軟弱な!」
男が男を可愛いと思うなど。いや、男じゃなくとも、可愛いなどという女子供のような、感覚を持つなど言語道断。真の男の辞書には『可愛い』などという言葉はないはずだとウーフェイは思っていた。
「なにが軟弱なの?」
「はっ!?」
穏やかに尋ねてくる声は浴室の扉の向こう。脱衣所から聞こえてきた。
「な! なにをしているんだ、カトルッ!」
「なにって、僕もお風呂に入ろうと思って。それじゃあ、お邪魔するね」
「ま、まてーーーーッ!!」
お風呂の扉を開けようとするシルエットを怒鳴りつけて、動きを阻止しようとしたが、柔らかな声の主はすんなり入ってきてしまった。
「あ、すごい、お風呂場が、もくもく、曇ってる。お湯が熱すぎるからじゃないの?」
ウーフェイは力の限り目を閉じた。もう一生目が開く日が来ないのではないだろうかと思わせる強さで瞼を閉じる。目を閉じるのにつかった力と同じ強さで声が出た。
「か、カトル! おまえは、なにをしているんだッ!」
「え、僕、お風呂にはいろうとしているだけだけど。なにか変だよウーフェイ」
「なぜ、今なんだっ」
「後からって言ったよ。後から行くからって」
ウーフェイは度肝を抜かれた。
「後から入るということではなかったのかッ!?」
「ウーフェイが入ってから僕も入るって意味じゃないか」
目を閉じているウーフェイにはその姿は見えないが、にこにこと微笑んで対話しているのだろうことが、声の朗らかさから伝わった。
「入ってくるな!」
「どうして、いけないの」
「理由がいるのか」
「理由もないのに、納得なんてできないよね」
「で、出て行け」
「どうして、ウーフェイ。僕が嫌いなのですかぁ?」
「き、嫌いとか、そういう問題じゃないだろうが」
「嫌いだっていうんだったら、僕も出て行くよ。嫌いな人間となんて一緒にバスタイムを楽しむなんてできないだろうから」
「だから、嫌いなどではないと!」
「だったら、一緒でいいでしょ!」
カトルの姿を少しでも見ないように目を力の限り閉じているウーフェイをみて、カトルはのほほんとしている。
「ウーフェイ、髪を洗ってたところだったんだ」
「いや、違うっ」
「違うの?」
「違わないッ」
「え、どっちぃ?」
目をきつく閉じているのはカトルを見ないためである。べつに洗髪中のせいではなかった。しかし、髪を洗っていたのも事実ではあるし、混乱しているウーフェイは、どう答えるのが適切なのかの判断が出来なくなっていた。
「ウーフェイでもぎゅって目をつむって頭を洗うんだね。もしかして、洗髪するの苦手だったりするんですか? それだったら僕が手伝ってあげるよ」
伸ばされてきた柔らな指先を払いのけたいが、繊細な作りのカトルの身体のパーツを乱暴に扱っては、傷ついてしまいそうで。その傷は実質的な傷だけではなく、心も傷つけてしまいそうな気がして、ウーフェイは力の限りの抵抗ができなくなってしまう。
「も、もう洗い終わったから、流せばいいだけだ!」
この思うようにいかない状況を打破したくて、とりあえず、シャワーノズルを手探りで探し当て、そのまま髪についた泡を洗い流してしまった。
カトルの居るだろう方向は一切見ないで、泡を流し終えたウーフェイは追われるように、湯船へとダイブした。
「あ、あつっ! すごく熱いよウーフェイ、熱湯じゃないかっ!」
跳ね上がった湯が身体にかかったカトルは思わず悲鳴を上げる。
「これが俺の適温だ!」
湯船に身をひたし偉そうに言い切るが、顔の角度は斜め上のほう、天井へと向かっている。意地でもカトルのほうは見ないつもりのウーフェイだった。
煩悩に負けチラリと下に視線が走ってしまう瞬間があるが、それは人の性だろう。
まだ、濡れていないカトルの柔らかな髪が見えた。その次の瞬間さらに下へと流れた目線。普段見ることがないカトルの鎖骨をみてしまい、大いにウーフェイはうろたえた。
(ま、まさか、こいつは裸になっているのか!?)
入浴しようと風呂場に入ってきたのならそれが当然の姿なのだが、あらためてそう突っ込んでしまうと、なんだか、異様にイヤラシイことをカトルがしてしまったようで、大きな誤解を生む言い様だ。
カトルはウーフェイに背中を向けてお風呂のイスにちょこんと腰掛けると、じーっと動きを止めていた。
なにをしているのだろう。なぞの時間が流れる。ウーフェイはあとどのくらい熱湯風呂につかっていられるだろうか。一刻も早く出て行ってもらいたいのだが、カトルはなにもしないで、座っている。
「ウーフェイって長風呂なんですか?」
もう、長く湯にいすぎてウーフェイは、のぼせそうだ。
「お、おまえこそ、おまえは風呂になにをしにきているんだ。じっとしていないで、とっとと頭と身体を洗って出ろ。ここの湯は温度が高く設定されているからおまえでは入れないから、あきらめろ」
その白い雪のような肌が真っ赤に熱で染まるのは忍びないと思い、想像の中の柔肌にさえ、惑わされないよう邪念を払うようにして首をブインブインと激しく左右に振る。動揺で挙動不審な動きをしてしまう。
「湯船につからないほうがいいんだったら、我慢するけど。ウーフェイはいつまで入ってるの」
『おまえが出るまでだッ!』とも言いづらくて、ウーフェイは言葉を詰まらせる。
「き、気が済むまでだっ!」
内容のマズさを誤魔化すために語気が強くなる。
「ゆっくりなんだね」
つらい言い訳のようには感じないのか、カトルは納得しているようだ。
「だ、だから、おまえはなにをしているんだ」
「ウーフェイがお湯からあがってくるのを待ってるんだけど」
「な、なぜ、俺を待つッ?」
そんなことをされていれは、ウーフェイは一生風呂から出られない。
「頭を洗ってもらおうと思って。先に身体でもいいけど」
「――――――ッ?」
はぁ? という、疑問の声も出せない。
「どうして、俺がおまえの頭を洗わなくてはならないんだ」
「ならないわけじゃないよ。義務じゃないんだから。お願いしてるんですよ。ね」
『ね』じゃない。可愛く念押しされても、当惑が増すだけだ。
困惑で言葉もでなくなったウーフェイの様子をなんとみるのか、大きな大きなカトルの瞳は、フシアナである。一方的に興奮状態に陥っているウーフェイの奇行も気にしていない。いつもは好ましいと思う、その大らかさが今は罪深いと思える。
「ちょっと僕が入るのがはやかったんですね。ウーフェイと入れ違いになるようにすればよかった」
早い早くないでいえば、早すぎることはウーフェイの状態を見ていれば明白だ。なぜ、自分が上げってから交替に入浴しないのかがウーフェイからすれば不思議すぎる。
「まだ、まだ、入ってるんですかぁ?」
カトルがそこに居る限り、ウーフェイは湯船から上がってこないだろう。熱湯が水になっても上がってこないに違いない。そうなると、それは水垢離の修行になってしまう。
「俺はカトルが出るまで、で、でないぞ。決して出ない。そうだ、出てなどやるものか」
「う~ん……」
目をきょろりとさせてカトルは考える素振りをする。口許をくむくむと動かすと、にこっと微笑んだ。その素敵なものを見つけたような魅力的な笑顔もウーフェイには見えない。
「じゃあ、ウーフェイ。頭から洗おうよ。お風呂につかりながらでいいから、手だけ伸ばしてね。僕、できるだけ、そこに近づくから」
そんな妥協案のような提案をされても困る。
「なぜ、自分で洗わないんだ、おまえはッ!」
「洗ってもらうのが好きだからだよ」
明瞭な答えだ。だが、いくらわかりやすくとも、納得などしてやる心の余裕などウーフェイにあるはずもないのは一目瞭然。
「カ、カトル、おまえは」
「あ、くしゃみがでそう」
「いつまでも、裸でいるからだ」
「お風呂はそういうもんでしょ」
「身体が冷える前に、さっさとすまして出ろ」
「それよりも、身体が温まるように、僕も一緒に湯船にいれてよ」
「なッ!?」
バスタブに二人で入るとなると、猛烈に密着することになる。そんな破廉恥なことができるはずがない。ウーフェイは想像に絶句するしかなかった。
「ウーフェイ、片方に寄ってよ」
イスからカトルが立ち上がる気配を感じて、ウーフェイは追い詰められながらの英断を余儀なくされ、大声でカトルの動きを制した。
「カトル! 動くな! 髪を洗ってやるから、おとなしくしていろッ!!」
「え? 洗ってくれるの。ありがとう、ウーフェイ」
素直に嬉しそうに礼を言うカトルの声がウーフェイには、遠く遠くからの音であるように、聞こえる。一緒に狭い湯船に身体をひたして、密着するであろう恐ろしい(カトルを慕う者からすれば、クソうらやましい)状態と比べれば、髪を洗ってやるほうがましだ。そんな過激なことをした日には、シャイなウーフェイの頭の血管は全て切れて、弾け跳んでしまうかもしれない。
今日のウーフェイはカトルの髪を洗ってやることになっていたのか、なぜか、運命であるかのように、その方向から逃れられないようだ。
目を閉じたままのウーフェイはカトルからシャンプーを受け取ると、手探りで作業にうつる。この程度のことなら、目を開かなくても動きに支障はない。
シャンプーを手のひらでまずは泡立てるという細やかな配慮が自分に出来るとは思っていなかったが、実際は細やかな気持ちから生じた行動ではなかった。頭といおうとも無防備なカトルに触れることにかわりはなく、その現実から逃避するように黙然とシャンプーを泡立てているだけのこと。泡立てるという行為に没頭することで精神統一をしているように見える。ウーフェイにしてみれば実際に、その通りなのである。
「背中を向けているんだぞ。なにがあってもこちらを見るな」
振り向いたら塩柱になってしまうかのように、厳重にカトルに注意を入れる。
バスタブから手を伸ばしてカトルの髪に触れた。
ウーフェイはまだ濡れていないカトルの柔らかな髪にもこもこに出来上がった泡を乗せた。
「わっ! あ、あの、ウーフェイって髪を濡らさないで、いきなり洗うんですか?」
動揺がそんな手順のミスをうんでいるだけだ。せっかく、シャンプーを泡立てながら『これは木像だ。これは木像だ。俺は今から木像を洗おうとしているだけだ』と心の中で唱えていたというのに。可愛らしい声を出す木像もいたものである。
どこまでも、洗ってもらうことに受動的なカトルはまず、髪を濡らすことさえ、洗い手まかせにしたいらしい。もう、ウーフェイは疲労感から「自分でそれくらいのことはしろっ!」とも、言う気力もなくなっていた。シャンプーを泡立てながら、口からも泡を吹きそうなウーフェイであった。
命が縮まりそうなほどの心労の中でようやくカトルの洗髪を終えたウーフェイであったが、「次は身体を洗ってほしいな」というカトルのエスカレートした無邪気な言葉で、甘美過ぎる地獄と再び遭遇することとなる。さて、ウーフェイはどう対応したのだろうか。
同衾以前にすでにウーフェイは疲労困憊である。今日はもう死んだように眠りたい。……と、思うウーフェイの願いは、眠りをもたらす使者であるはずのカトルの手によって、打破されてしまうのであった。
願わくば、ウーフェイに穏やかな日常と安眠を。
それでも、カトルのことを決して心からは憎めないウーフェイである。
特別とはこういうこと。ウーフェイにとってカトルは特別なのである。この心身の疲労感はカトルへの好意とイコールなのだろう。
今日はウーフェイの部屋にお泊りだということで、カトルは着替えを持って意気揚々とやってきていた。
カトルが張り切っているのは、自分の実力を試すべく、ここにやってきたというだけではなくて、初お泊りだということもある。ようするにはしゃいでいるのだ。じらされていたぶんだけ、より、カトルはお泊りを楽しみにしていた。
ヒイロの家にはちょこちょこお泊りしていたが、ウーフェイのお家にお邪魔するのは初めてなのである。客用の布団はないといって呼んでくれないのだ。
だが今日はカトルの寝かしつけるという技の精度を確認すべくお邪魔したので、別々の布団で眠る必要はない。というよりも、別々に寝てはやりづらい。やはり一緒に眠らなくては。
ウーフェイは今夜待ち受ける『カトルと同衾』という単語がよぎるだけで精神的に不安定になってしまうのだが、そんな些細なことで精神の安定を欠くのは修行が足りないからだと、自分を叱咤していた。
カトルが嫌いなわけではない。カトルでなければ逆さ吊りにされようとも、こんな馬鹿げた要求を受け入れなかっただろう。結局はウーフェイもカトルを邪険にはできないのだ。だからといって、即、なんの迷いもなく状況に流されるということもできない、堅苦しい性格をウーフェイはしていた。
だが、問題は、もっと早くに起こることになる。悩ましいと思っている就寝時間前にもっと深刻な事態がウーフェイを襲ったのである。
あとは入浴するくらいしかすることもなく、それが終わり髪が乾けば寝るだけだ。カトルの寝かしつけのスキルを試される被験者ウーフェイは一緒に寝てやるとはいったが、特になにをしてやるつもりはなかった。ウーフェイの朝は早くそうそうに寝ることしか考えていない。一緒に寝てやるところまでは譲歩したが、自分のペースを崩す気はなかった。
独り住まいを送っていると当然自分が一番風呂だが、カトルはどちらを好むのだろうか。ウーフェイのそんな微かな気遣いが動いただけでも、カトルは特別だということなのだが、
「おまえが先に入れ」
口から出る言葉にはわかりやすい優しさが表れておらず、口調が高圧的だ。
怒ってなどいない。怒ってなど、いないのだ。いないのだが、こんな口調でしか話せないせつないくらいに不器用な男だった。幸運なのはそんなぶっきらぼうな口調で話しても、カトルはそこから悪意を感じないような、おおらかな性格をしていた。ウーフェイの性格を考えると、自分を優先させてくれようとしたことだけでも、ものすごく彼なりの心遣いが働いたのだと、カトルはきちんと理解している。だから、ふわりと優しげな笑みを浮かべた。
「いいよ。先にウーフェイが入ってください。僕はあとから……」
「そうか。おまえがそれでいいのなら、俺はかまわないが。まあ、おまえのあとだと、湯をぬるくされそうだしな」
ウーフェイは熱湯風呂のような、高温の湯を好む。ぬるま湯のような、だらけきった根性をしていそうな、気合の入っていない湯船になど浸かってなどやるものかと思っているのだ。ウーフェイは入浴までもが自分を鍛える鍛錬のような趣があった。熱すぎない温度でたゆたゆしながらのんびりお湯にはいるのが好きなカトルが、その湯にはいることになれば、熱湯風呂の罰ゲームのようになるだろう。
「じゃあ、お先にどうぞ。僕はあとでね」
にこにこ笑っているカトルに背中を押されて、ウーフェイはひとっ風呂浴びて、すっきりしようと思った。そして、即、寝てしまおうと。
「ウーフェイ、じゃあねー」
なぜか、ハートマークを飛ばすように上機嫌なカトルの様子が気になったが、とってってと跳ねる様に傍にきて、背を押されていると、自然と甘やかな状況にいる気がしてしまう。新婚家庭の夜の一コマのような気分を味合わっているとは、口が裂けても言えないとウーフェイは思った。そのような軟弱なことをよぎらせてしまったことは一生自分の胸の中にしまっておかなければならないだろう。
「熱すぎない温度のお湯も気持ちいいんですよ。ゆっくりとつかりやすいしね」
「あ、ああ、まあ、自分なりのほどほどの温度で入浴するのも、悪いことではない、な」
感じてしまった甘い空気に押され気味の返事をしてしまう。こんなウーフェイをみることもまずないだろう。普通なら「男だったら男らしくゆだるような熱湯に気合で入れッ!!」と、説教モードで怒鳴り散らすところだ。もうこれで、見るものが見れば、完璧にウーフェイがいつもの調子ではないことが、痛いほどわかる。
カトルといるとペースを乱される。いやでも自覚せずにはいられない。そんな、事実から目をそらすように、ウーフェイはカトルから逃げるように風呂場へと消えていった。
(どうして、あいつは、男のくせに、柔らかな物腰をしているんだ。どういう奴なんだいったい)
と、ウーフェイは下ろした髪をシャンプーで洗いながら、なにげに考えていた。
人当たりのよさと同時に、なにものにも負けないナゾの底力を感じる。ウーフェイはカトルという存在を自分の中のどこに置いていいのか、いまいちわからないのだ。
わがままを言うわけではないのに、ひどく困らされるときもある。しかし、心の底から頭に来ることはなく、なぜか、無下にできない。
(無意味に可愛くていいのはカトルだけだ……)
ちらりと浮かんだ、そんな言葉に、ウーフェイは誰に聞かれたわけでもないのに、瞬時にカッと赤面してしまった。
「な、軟弱な!」
男が男を可愛いと思うなど。いや、男じゃなくとも、可愛いなどという女子供のような、感覚を持つなど言語道断。真の男の辞書には『可愛い』などという言葉はないはずだとウーフェイは思っていた。
「なにが軟弱なの?」
「はっ!?」
穏やかに尋ねてくる声は浴室の扉の向こう。脱衣所から聞こえてきた。
「な! なにをしているんだ、カトルッ!」
「なにって、僕もお風呂に入ろうと思って。それじゃあ、お邪魔するね」
「ま、まてーーーーッ!!」
お風呂の扉を開けようとするシルエットを怒鳴りつけて、動きを阻止しようとしたが、柔らかな声の主はすんなり入ってきてしまった。
「あ、すごい、お風呂場が、もくもく、曇ってる。お湯が熱すぎるからじゃないの?」
ウーフェイは力の限り目を閉じた。もう一生目が開く日が来ないのではないだろうかと思わせる強さで瞼を閉じる。目を閉じるのにつかった力と同じ強さで声が出た。
「か、カトル! おまえは、なにをしているんだッ!」
「え、僕、お風呂にはいろうとしているだけだけど。なにか変だよウーフェイ」
「なぜ、今なんだっ」
「後からって言ったよ。後から行くからって」
ウーフェイは度肝を抜かれた。
「後から入るということではなかったのかッ!?」
「ウーフェイが入ってから僕も入るって意味じゃないか」
目を閉じているウーフェイにはその姿は見えないが、にこにこと微笑んで対話しているのだろうことが、声の朗らかさから伝わった。
「入ってくるな!」
「どうして、いけないの」
「理由がいるのか」
「理由もないのに、納得なんてできないよね」
「で、出て行け」
「どうして、ウーフェイ。僕が嫌いなのですかぁ?」
「き、嫌いとか、そういう問題じゃないだろうが」
「嫌いだっていうんだったら、僕も出て行くよ。嫌いな人間となんて一緒にバスタイムを楽しむなんてできないだろうから」
「だから、嫌いなどではないと!」
「だったら、一緒でいいでしょ!」
カトルの姿を少しでも見ないように目を力の限り閉じているウーフェイをみて、カトルはのほほんとしている。
「ウーフェイ、髪を洗ってたところだったんだ」
「いや、違うっ」
「違うの?」
「違わないッ」
「え、どっちぃ?」
目をきつく閉じているのはカトルを見ないためである。べつに洗髪中のせいではなかった。しかし、髪を洗っていたのも事実ではあるし、混乱しているウーフェイは、どう答えるのが適切なのかの判断が出来なくなっていた。
「ウーフェイでもぎゅって目をつむって頭を洗うんだね。もしかして、洗髪するの苦手だったりするんですか? それだったら僕が手伝ってあげるよ」
伸ばされてきた柔らな指先を払いのけたいが、繊細な作りのカトルの身体のパーツを乱暴に扱っては、傷ついてしまいそうで。その傷は実質的な傷だけではなく、心も傷つけてしまいそうな気がして、ウーフェイは力の限りの抵抗ができなくなってしまう。
「も、もう洗い終わったから、流せばいいだけだ!」
この思うようにいかない状況を打破したくて、とりあえず、シャワーノズルを手探りで探し当て、そのまま髪についた泡を洗い流してしまった。
カトルの居るだろう方向は一切見ないで、泡を流し終えたウーフェイは追われるように、湯船へとダイブした。
「あ、あつっ! すごく熱いよウーフェイ、熱湯じゃないかっ!」
跳ね上がった湯が身体にかかったカトルは思わず悲鳴を上げる。
「これが俺の適温だ!」
湯船に身をひたし偉そうに言い切るが、顔の角度は斜め上のほう、天井へと向かっている。意地でもカトルのほうは見ないつもりのウーフェイだった。
煩悩に負けチラリと下に視線が走ってしまう瞬間があるが、それは人の性だろう。
まだ、濡れていないカトルの柔らかな髪が見えた。その次の瞬間さらに下へと流れた目線。普段見ることがないカトルの鎖骨をみてしまい、大いにウーフェイはうろたえた。
(ま、まさか、こいつは裸になっているのか!?)
入浴しようと風呂場に入ってきたのならそれが当然の姿なのだが、あらためてそう突っ込んでしまうと、なんだか、異様にイヤラシイことをカトルがしてしまったようで、大きな誤解を生む言い様だ。
カトルはウーフェイに背中を向けてお風呂のイスにちょこんと腰掛けると、じーっと動きを止めていた。
なにをしているのだろう。なぞの時間が流れる。ウーフェイはあとどのくらい熱湯風呂につかっていられるだろうか。一刻も早く出て行ってもらいたいのだが、カトルはなにもしないで、座っている。
「ウーフェイって長風呂なんですか?」
もう、長く湯にいすぎてウーフェイは、のぼせそうだ。
「お、おまえこそ、おまえは風呂になにをしにきているんだ。じっとしていないで、とっとと頭と身体を洗って出ろ。ここの湯は温度が高く設定されているからおまえでは入れないから、あきらめろ」
その白い雪のような肌が真っ赤に熱で染まるのは忍びないと思い、想像の中の柔肌にさえ、惑わされないよう邪念を払うようにして首をブインブインと激しく左右に振る。動揺で挙動不審な動きをしてしまう。
「湯船につからないほうがいいんだったら、我慢するけど。ウーフェイはいつまで入ってるの」
『おまえが出るまでだッ!』とも言いづらくて、ウーフェイは言葉を詰まらせる。
「き、気が済むまでだっ!」
内容のマズさを誤魔化すために語気が強くなる。
「ゆっくりなんだね」
つらい言い訳のようには感じないのか、カトルは納得しているようだ。
「だ、だから、おまえはなにをしているんだ」
「ウーフェイがお湯からあがってくるのを待ってるんだけど」
「な、なぜ、俺を待つッ?」
そんなことをされていれは、ウーフェイは一生風呂から出られない。
「頭を洗ってもらおうと思って。先に身体でもいいけど」
「――――――ッ?」
はぁ? という、疑問の声も出せない。
「どうして、俺がおまえの頭を洗わなくてはならないんだ」
「ならないわけじゃないよ。義務じゃないんだから。お願いしてるんですよ。ね」
『ね』じゃない。可愛く念押しされても、当惑が増すだけだ。
困惑で言葉もでなくなったウーフェイの様子をなんとみるのか、大きな大きなカトルの瞳は、フシアナである。一方的に興奮状態に陥っているウーフェイの奇行も気にしていない。いつもは好ましいと思う、その大らかさが今は罪深いと思える。
「ちょっと僕が入るのがはやかったんですね。ウーフェイと入れ違いになるようにすればよかった」
早い早くないでいえば、早すぎることはウーフェイの状態を見ていれば明白だ。なぜ、自分が上げってから交替に入浴しないのかがウーフェイからすれば不思議すぎる。
「まだ、まだ、入ってるんですかぁ?」
カトルがそこに居る限り、ウーフェイは湯船から上がってこないだろう。熱湯が水になっても上がってこないに違いない。そうなると、それは水垢離の修行になってしまう。
「俺はカトルが出るまで、で、でないぞ。決して出ない。そうだ、出てなどやるものか」
「う~ん……」
目をきょろりとさせてカトルは考える素振りをする。口許をくむくむと動かすと、にこっと微笑んだ。その素敵なものを見つけたような魅力的な笑顔もウーフェイには見えない。
「じゃあ、ウーフェイ。頭から洗おうよ。お風呂につかりながらでいいから、手だけ伸ばしてね。僕、できるだけ、そこに近づくから」
そんな妥協案のような提案をされても困る。
「なぜ、自分で洗わないんだ、おまえはッ!」
「洗ってもらうのが好きだからだよ」
明瞭な答えだ。だが、いくらわかりやすくとも、納得などしてやる心の余裕などウーフェイにあるはずもないのは一目瞭然。
「カ、カトル、おまえは」
「あ、くしゃみがでそう」
「いつまでも、裸でいるからだ」
「お風呂はそういうもんでしょ」
「身体が冷える前に、さっさとすまして出ろ」
「それよりも、身体が温まるように、僕も一緒に湯船にいれてよ」
「なッ!?」
バスタブに二人で入るとなると、猛烈に密着することになる。そんな破廉恥なことができるはずがない。ウーフェイは想像に絶句するしかなかった。
「ウーフェイ、片方に寄ってよ」
イスからカトルが立ち上がる気配を感じて、ウーフェイは追い詰められながらの英断を余儀なくされ、大声でカトルの動きを制した。
「カトル! 動くな! 髪を洗ってやるから、おとなしくしていろッ!!」
「え? 洗ってくれるの。ありがとう、ウーフェイ」
素直に嬉しそうに礼を言うカトルの声がウーフェイには、遠く遠くからの音であるように、聞こえる。一緒に狭い湯船に身体をひたして、密着するであろう恐ろしい(カトルを慕う者からすれば、クソうらやましい)状態と比べれば、髪を洗ってやるほうがましだ。そんな過激なことをした日には、シャイなウーフェイの頭の血管は全て切れて、弾け跳んでしまうかもしれない。
今日のウーフェイはカトルの髪を洗ってやることになっていたのか、なぜか、運命であるかのように、その方向から逃れられないようだ。
目を閉じたままのウーフェイはカトルからシャンプーを受け取ると、手探りで作業にうつる。この程度のことなら、目を開かなくても動きに支障はない。
シャンプーを手のひらでまずは泡立てるという細やかな配慮が自分に出来るとは思っていなかったが、実際は細やかな気持ちから生じた行動ではなかった。頭といおうとも無防備なカトルに触れることにかわりはなく、その現実から逃避するように黙然とシャンプーを泡立てているだけのこと。泡立てるという行為に没頭することで精神統一をしているように見える。ウーフェイにしてみれば実際に、その通りなのである。
「背中を向けているんだぞ。なにがあってもこちらを見るな」
振り向いたら塩柱になってしまうかのように、厳重にカトルに注意を入れる。
バスタブから手を伸ばしてカトルの髪に触れた。
ウーフェイはまだ濡れていないカトルの柔らかな髪にもこもこに出来上がった泡を乗せた。
「わっ! あ、あの、ウーフェイって髪を濡らさないで、いきなり洗うんですか?」
動揺がそんな手順のミスをうんでいるだけだ。せっかく、シャンプーを泡立てながら『これは木像だ。これは木像だ。俺は今から木像を洗おうとしているだけだ』と心の中で唱えていたというのに。可愛らしい声を出す木像もいたものである。
どこまでも、洗ってもらうことに受動的なカトルはまず、髪を濡らすことさえ、洗い手まかせにしたいらしい。もう、ウーフェイは疲労感から「自分でそれくらいのことはしろっ!」とも、言う気力もなくなっていた。シャンプーを泡立てながら、口からも泡を吹きそうなウーフェイであった。
命が縮まりそうなほどの心労の中でようやくカトルの洗髪を終えたウーフェイであったが、「次は身体を洗ってほしいな」というカトルのエスカレートした無邪気な言葉で、甘美過ぎる地獄と再び遭遇することとなる。さて、ウーフェイはどう対応したのだろうか。
同衾以前にすでにウーフェイは疲労困憊である。今日はもう死んだように眠りたい。……と、思うウーフェイの願いは、眠りをもたらす使者であるはずのカトルの手によって、打破されてしまうのであった。
願わくば、ウーフェイに穏やかな日常と安眠を。
それでも、カトルのことを決して心からは憎めないウーフェイである。
特別とはこういうこと。ウーフェイにとってカトルは特別なのである。この心身の疲労感はカトルへの好意とイコールなのだろう。
■FIN■
2013年5月下旬 書き下ろし
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集って憩ってしまう場を
つくろうと
もくろんだしだいであります。
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(そして、
まともなプロフィールを
語る気もなし。。笑)
軍曹はカトル・ダーリンズ
だいちゅきトークが
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「我軍曹ッ!」
の名乗り随時募集中v
いつか、軍曹の集いを
したいものでありまっす★
しかして、
「なぜ軍曹?;」と、
大半の方に思われてるだろう。。
カトル受最前線で戦い続けるため
出世しすぎて
外野にはいかないからの
万年軍曹であります!
ちなみに最近急に
自分のことを、
「4受大臣」とも名乗るように。
「4受大臣補佐官」など(笑)
こ、これは進化なのか!?(笑)
我が魂、
カトル受とともにあり★(ビシッ!)
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大半の方に思われてるだろう。。
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ちなみに最近急に
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