Question 目の前のトロワは背を壁に凭せ掛け、う~む、と言う声を漏らしてもおかしくない程、難しい顔をしていた。
腕を組んだ痩身の姿は禁欲的で、宇宙の原理に哲学を見出していると本人が言えば、人はそれなりに納得してしまうだろう。
だが、その視線は話すカトルの顔ではなく、ずっと下。
しかも、後ろ?
とても不自然な位置にあった。
「――――――なんだけど、どう思う。トロワ?」
「そうだな……」
熱弁をふるっていたカトルに訊かれ、即答でそれらしい言葉を紡ぎ出すのが嘘のようだ。
だけど、そのスムーズに流れる言葉とは別に、自分と合わないトロワの視線がカトルに違和感を抱かせた。
出逢った当初は目線を逸らされたりと、随分な扱いを受けていたが、今となっては逆に見つめられすぎて、どぎまぎするといった事のほうが圧倒的に多くなっていた。
(あまり、見ないでよ)
と、カトルはいつも身を隠してしまいたくなる。
涼しげな目許に穏やかな翠は、あまりにも綺麗で。
優しくて。
虚勢も、この擽ったい彼に対する思慕も、全て見透かされているようで、何だか気恥ずかしくなる。
「……ちょっと、トロワ。キミ、聞いてる?」
首を傾げながらのカトルの声は、少しトゲトゲの生えた声。
「何かおかしな事でも言ったか?」
しれっと言うトロワにカトルは呆れてしまう。
「あのねぇ、言葉の内容じゃなくて。……キミ、何処を見てるの、一体?」
「……」
顎に片手をあてて無言のトロワ。
小さく控えめサイズな口を結んで、カトルはそんなトロワを、じっと下から睨みつけた。
暫くカトルは待ってみたが、トロワはだんまりを決め込んだまま、うんともすんとも返事をしない。
「何か気になる事でもあるのなら、ボクに話してみてくれないかな」
あえて無言を通すトロワに、カトルはついそんな事を言ってしまった。
何も言ってくれないから、かえって気になったのだが、言って直ぐ、差し出がましい事だったかもと、カトルは後悔して、余計なことだとトロワが気分を害していないか不安になった。
「あの、でも……ボクじゃ、役に立てないかもしれないよね……」
カトルは見るからにしゅんとして、語尾には「ごめん、ね」と、謝罪の言葉が付属してきそうな、ばつの悪い声を出した。
だが、カトルの心配とは余所に、トロワはピクッと反応を示し、やっと視線をまともな位置へと戻した。
「そうだな。一人であれこれ悩むより直接本人に聞いてみる方が、はやいな」
そう早口に呟いた。
心なし嬉々としたトロワの様子に、何だかよくわからないが、自分のしたことは悪い事ではなかったと思ったカトルは瞳を輝かせ、尋ねながら可愛く小首を傾げた。
「ボクに聞きたいこと?」
「ああ、そうだ」
普通ではわからない程度だが、唇の片端に微かに笑みを浮かべたトロワは、カトルの手首を掴むと突然その躰を抱き寄せた。
「ええっ!?」
驚いて身を竦ませたカトルの背中を、トロワの腕がゆっくりと辿り。
「カトル」
「急に、こんなところで何するのっ!」
カトルは慌てて逃れるように、トロワの胸に両手を突っ張った。
赤くなって怒るカトルをものともせずに、トロワは引き寄せて、その耳朶を甘く咬む。
「……ゃッ……ットロワぁ!?」
「カトル、教えてくれないか?」
「だ、から……なに、を?」
片手でカトルの背中を抱いて、目的を持っていつもより速いペースで落ちて行く手。
どうして今の会話でトロワの行動がこうなったのか。突拍子も無い事に対処さえできず。
後ろへと伸ばされたトロワの手が、カトルの仕立ての良いズボンにかかり、普段の彼とは違い、あっさりと腰を過ぎて一度腿の裏を撫でた。
「ちょッ」
「ここは、脚だな」
押し留めようとするカトルの声を完全に無視して何やら呟き、トロワの手は少し上へと戻り、揉むというよりも握る動きで、ムギュッとソコを掌で掴んだ。
「ひッ!」
肩を竦めてカトルは身を固くした。
「やめてっ」
カトルが声を上げるのも無理はない。広げられた長い指を持つトロワの大きな手は、内腿まで触れてきているのだから。
あまりにも、キワド過ぎる。
脂肪の薄いカトルの躰は、それでも、それなりの場所には柔らかなモノがついていて、力を込めればムニュリと変形する。
そのままの体勢で力を緩めるわけでもなく、ソコを掴んだままトロワは動きを止めて、震えだしたカトルに穏やかに問い掛けた。
「カトル、ココは尻になるのか?」
「へ?」
トロワの言う意味が掴めない。
「どうなんだ、カトル」
「ええぇ?」
どうなんだと言われても、カトルにはわけがわからない。
「答えてくれるんだろ?」
「……そんなの……知らないよぉ」
行動と不釣合いなトロワの落ち着いた声が鼓膜を擽る。
どこまで真面目にそんなくだらない事を考えているのか知らないが、今トロワが触れている場所は、ひと言では言えない場所だ。
確かにお尻を掴んでいるのだが、大きな掌は下の方にあるから、腿まで握り込んでいる。
トロワの手の中心は、きっと境界線。
はっきりと断言できない部位(パーツ)をとって、なんて無茶を言うんだろう。
どう答えても理屈っぽい彼に言葉尻を取られ、深みに嵌ってしまいそうな気がする。
はっきりと上なら上に手がずれてくれれば、お尻だよッ、と言って離してもらえるのかもしれないが。
どうして自分がこんな、馬鹿馬鹿しいことにまともに答えなければならないのか。そこが根本的にわからない。
しかも、質問内容と相反して、あくまでトロワが真顔なところが、なお理解できなかった。
その間にもトロワの手はカトルのソコを捕らえたまま、離そうとはしない。
身を捩じるカトルが質問に答えないからなのか、トロワの掌がソコを、ゆっくりと揉むように動き出した。
「……ゃッ……だめっ」
「どうなんだ?」
「……わ、からない、よっ」
「それでは困るな」
「だ、だって」
「答えてくれ」
「やめっ……ぅっ、く」
「……よく考えて」
「ゃ……ぁっ……ん」
「カトル」
「…………あぁ」
~FADE OUT~ 【溶暗】
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あの状況で『よく考える』事が
果たして出来たのだろうか……。
そして、カトルはトロワが納得する答えを、
彼に差し出すことができたのだろうか?
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初出1999年3月7日「Beloved」から
少しの訂正をしました。
だから、なんやねーん!!
とのツッコミありがとうございます!(笑)
まま、このくらいトロワはナニ考えてるのかわからないというだけの話ですなぁ。
でも、そんな理解不能なトロワのこともカトルは大好きなんでしょう。
愛はあっても理解できないとこはある!(笑)
ところでこのトロワ、なにを考えていて、そんな部分のことに疑問を持ったんでしょう。
考えてると見せかけて、たんにセクハラしたかっただけなんでしょうか。。
ああ、トロワはナゾで満ちている。
こんな男が好きなカトルって大変だ。
こんな男に愛されてカトルって大変だ。
短いぶん(意味がわからないぶん)想像のはばは広がると思うんですけど。(そんな都合のいいことはないのでしょうか)
どなたか、トロワの本心を暴いてやってください!!(笑)
こんな意味不明なショートネタでも、怒っていないかたがいらっしゃいましたら、拍手やコメントのほう、よろしくお願いいたします。
切望!
出来心で載せてしまったので、反応無かったらへこみますぅ~。。