【夏の瞬き】〔鬼のかくらん〕 トロワが一番好きな季節は夏だ。一年で一番長期の休みがおとずれるから。
子供からすれば夏休みはパラダイスで、真っ黒になるまで外に出て遊び、ふにゃふにゃになって寝て、なんて、こんなことをくり返す。トロワが夏が好きなのも確かに夏休みがあるからなのだが、別段、ただ長いから好きというのではなくて、そこにカトルという要素が加わってくるためだった。
一年で一番幼馴染みのカトルと長く過ごすことができる季節。子供の癖に無邪気さに欠けるトロワが唯一子供らしくワクワクとするのは、大好きなカトルが傍にいるからだった。
長期の休みのたびにトロワの家を訪れるカトルだったが、夏はもうトロワの家の子になったような状態でいるために、いつも泣きながら八月の終わり頃は、旅立つように帰っていくのであった。
カトルはトロワと違って表情が豊かで、よく笑う。見ている者が目を細めるような愛らしさを持つ、とても微笑ましい子。百面相のカトルもまた、無表情なトロワがなぜか大好きだ。
めでたいことにお互いの想いは一方通行にはならずに、固くつないだ手から流れあっている。陰と陽のような二人だったが、理屈は抜きなのだろう共鳴していた。
今年も暑い夏がやってきた。
――が、トロワの父が咳をひとつしたら、カトルが夏風邪をひいた。ここに来て5日目のことだった。
いっぱいトロワと遊ぼうと思っていたのに。カトルは寝ていることを余儀なくされた。
実際のところ因果関係はわからないが、父さんは丈夫だから、きっと知らないうちに風邪の菌をもらっていて(本人は発症せずに)、それがカトルにうつったのだと子供ながらにトロワは思った。
カトルを医者に連れて行くのが大変だった。
「ちゅってするんでしょ」
と言うのだ。
「ちゅってするんでしょ。イィヤァアアアーーッ!」
と泣くのだ。
病院に行くと注射されてしまうと思っているようだと気がついたのは、カトル相手にのみ発揮されるトロワの勘の良さ。
「注射なんかされない」
「イィィヤァァアアアアーーーーッ!」
すごく元気じゃないかと思う。実際に熱が上がっている以外はあまりわからない、咳など症状の少ない風邪だった。しかしながら一応は体温計の水銀が38度を上回っている。
ちなみにカトルは自分で体温計を扱うことができない。計ったあと、いくら振っても温度が下がらないのだ。トロワが手助けしてくれていたが、カトルから見て自分とトロワの体温計の扱いに、どう違いがあるのか全くわからない様子であった。
トロワはいつも熱いが熱のせいでいつもよりもぬくぬくのカトルの手をとった。
「じゃあ、もし注射をするなら俺が代わりになるから。病院に行こう、カトル」
そう言って左の腕をカトルに見せる。
「トロワがいたいのイヤだ」
「俺は平気だ」
「じゃあ、ぼく、がんばる。ちゃんとぼくがしてもらう」
「うん。でも今から行く先生は本当に注射なんてしないから」
「うん」
浮き出てくる汗を拭うために持っていたタオルハンカチを噛みながら、カトルがトロワの言葉におとなしく頷く。
こうして、なだめすかしながら、なんとかカトルを病院に連れて行ったのだ。
実際にお注射権は発動されることなく、カトルはお薬だけを処方してもらい無事に帰還した。帰りにはいつもの、にこにこ顔のカトルに戻っていたから現金なものだ。
「まぶたが熱いんだよ」
「うん」
眼を閉じたカトルの額に手のひらを乗せ、ついでに報告してきた瞼に触れる。
布団で横になっているカトルは、いつものキラキラしたカトルではなくて、その姿を淡く儚く見せた。
いつも賑やかだからではないが、くったりしたカトルもなんだか可愛くてトロワは好きだと思った。たまには弱っているのもいい。もちろん早く元気になって欲しいのだが。
用意してきた氷嚢をカトルの額に乗せると、ジャリジャリと涼しい氷の音がした。
「ありがとう」
「いや」
「カゼ、うつっちゃうかな」
とても小さな声だった。
そのトーンに合わせ、トロワは静かに応える。
「カトルの風邪なんてうつらない」
だからトロワはカトルの傍から離れる気なんてなかった。
「どうして?」
「父さんに似て丈夫だからだ」
「ヒイロはトクベツだよぉ」
カトルは笑う。
「うつると思っていたら、父さんも俺にカトルに近づくなって言うだろ。父さんは何も言わなかった」
言わなければトロワがカトルにべったりなことは父親にもよくわかっていることだ。
風通しのよい部屋は、緑の匂いを乗せた風が澱むことなく流れて行く。
「だから、夜もいつもと同じように、隣に布団を敷いて寝る」
「トロワ」
カトルが手をつないでくる。
トロワのものより小さなカトルの手は、ふにふにとしていて気持ちがいい。
「あのね」
「うん」
「大すき」
「うん」
言葉に合わせトロワはカトルの手をしっかりと握り返す。
無口なトロワの愛情表現だ。
カトルはとびきりの笑顔を見せた。
「あのね」
「うん」
「おなかすいちゃった」
「うん」
早速、復活の兆しを見せるカトルであった。
食料調達にトロワが台所へ直行したのは言うまでもない。
〔水遊び〕 約束していたのだ。父親が次の休みの日になったらビニールプールを用意してくれると。
だから、トロワとカトルは前日に物置を探って見つけてきていた。
「ヒイロは、プーッて、ふくらましてくれるんだよ。ほら見てトロワ!」
と、カトルが言って指差した先には、足踏み型の空気入れでビニールプールを猛烈な勢いで膨らます父の姿があった。
「なんでっ!?」
カトルは父が直接口から空気を送り込んで、プールを膨らましてくれるものだとばかり思い込んでいた。父の勇姿をトロワと見ようと楽しみにしていたのに。がっかりだ。
あからさまにガクリと意気消沈するカトルを見て、トロワはフォローさえ出来なかった。
「……だって、父さんも人間だろ」
確かに身体能力などは人並み外れているが、そんな人間びっくりショーみたいなことばかりしない。カトルはして欲しいのであるが、そうは問屋がおろさないのである。
「トロワ、ごめんね。ごめんね」
縁側から庭に出てきたトロワに、サンダルを履いたカトルが擦り寄った。
「どうして謝るんだ」
「だって、トロワも楽しみにしてたでしょ」
「いや、別に……」
本当に申し訳なさそうに左手を両手で握ってくるカトルに口ごもる。そんなこと、期待もしていなかったから。
プラチナの髪をしたお人形さんみたいに愛らしい少年は、トロワを仲間だと思い込んでいる。
口で膨らましているわけではないが、プールの膨らんでいくスピードは、半端ではないとトロワは思う。充分、凄いではないか。
「トロワ手伝え。カトルは日焼け止めを塗ってこい」
「カトル」
行ってこいと、トロワは父親の言葉に乗る。
「背中はぬれないよ」
「ああ、わかった。俺が塗ってやるから、日焼け止めを取ってこい」
「うんっ」
パーカーは脱がないカトルだけれど。
父は預かりモノなので、カトルにはそれなりに配慮しているのである。カトルの肌は陽に当たると、すぐに赤くなって真っ白に戻ってしまうのだ。丈夫な肌質とは言えなかった。
「父さん、く……」
「なんだ?」
「口でふくらませないよね」と、言いかけてトロワは口を噤んだ。
カトルを喜ばせたい一心で無茶を言いかけた。トロワは無意識で発言しそうになった自分が少し怖くなった。どうして自分はこうもカトルに甘いのであろうかと。
子供とて、惚れた弱みだというのは簡単なことである。
「なんでもない」
大人たちからも「トロワ君、大人っぽい」と言われてきたトロワだ。利発な子だけど可愛げは無い。そんなトロワがカトルといると、乏しいながらに感情表現していた。心が活発に働いているのが自覚できた。他の人間といてトロワの内面がこんなに騒ぐことなどない。
このことに父親も気がついている。何と言っても一番トロワを身近で見てきた肉親である。カトルの天真爛漫なところにつられるのか、まるで情操教育のようだ。それだけでも、カトルが家に遊びに来る意味は充分にあった。
笑わないと思われているトロワだが(カトルのように『にっこにこ』とは無理だが)今ではカトルの前でなら優しく微笑めるようになっていた。
煌々と照りつける太陽に皮膚がじりじりと音を立てて焼けてくる。
トロワは庭先の手洗い場にある蛇口にホースを取り付けて、勢いよくコックをひねった。
すぐさまホースの口から水が溢れ出す。
「あーっ! トロワずるい。ひとりでしちゃだめぇーっ!」
戻ってきたカトルの声だ。
「ヒイロぬって、はやく、ぬって!」
プールを膨らまし終えて空気入れをしまっている父に、カトルは日焼け止めを押し付ける。
こうるさいとは思わないのか、トロワの父はマイペースに行動している。
きちんと始末をつけると「ヒイロ」「ヒイロ」と急かすカトルの言うことをきいてくれた。
「背中は俺が塗ると約束をした」
持っていたホースをビニールプールに突っ込むとトロワが片手を出してツカツカとやってきた。
「よこせ」と言うのだ。
しゃがみ込んでカトルの脚に日焼け止めを塗っていた父は、息子の言うことに不服はないようで直ぐに立ち上がったが、トロワに向けて仏頂面で言った。
「手が濡れていては、お前はこれを塗れないだろ」
至極もっともだ。
トロワは無言のまま、縁側に用意したタオルを取りに行く。
歩くスピードで二人に近付いていたが、気持ちは急いていたのだろうか。トロワは無表情なのでいまいち掴めない。
手を拭いて戻ってくると、父親がトロワに日焼け止めを投げ渡した。終始無言の親子である。よく言えば『あうんの呼吸』だろう。
カトルからすればどっちが日焼け止めを塗ってくれようと知ったことじゃない。だから、
「どっちでもいいよぉ」
を、脚をバタバタさせながら連呼している。早く遊びたいのだ。水に触れたいのだ。
背中に日焼け止めを塗ってもらう感触がくすぐったくて、カトルはけらけらと笑うから、自然にトロワの表情も和ましいものになっていた。
そしてようやく、ひたひたにしか水の溜まっていないプールにだが、待ちきれずにカトルとトロワは手を取り合って、やっと足をつけた。
「キョウゥウゥ~~ッ!」
変な歓声が上がる。
もちろんカトルの声だ。
トロワはカトルを興味深そうに見た。
「気持ちいいねぇ」
「ああ」
強い日差しの中、冷たい水にものすごーく気持ちよさそうなカトルと、物凄く感動のない返事をするトロワ。トロワの反応は、まるでぬるま湯に足を浸したようで、どちらかが嘘をついたいるのかクイズにできそうだった。
水遊びをしていると次第にプールに水が溜まってきた。
カトルがそこに腰を下ろす。
「気持ちいいよぉ」
「うん」
カトルに言われるままにトロワはビーチボールに空気を入れていた。その間カトルは「わーい、わーい」とやっている。
トロワの父がホースの先をつまんで、勢いよく水を発射させると小さな噴水のようになった。それにカトルは歓声を上げた。トロワはというと全身を濡らす水を物憂げに見ている。老成した子供である。
「あっ、カトル」
顔にかかる水を手でごしごしと拭いながら、トロワが教えてくれる方をカトルが見ると、ホースから噴射される水のところに小さな虹ができていた。
「にじだー!?」
「ああ」
「すごいね、トロワ、すごいね!」
トロワは少し目を細める。
「キレーッ!」
夏休みのあいだ、毎日綴っている絵日記は、今日はこの虹について触れることは間違いないだろう。今日の夜が楽しみであった。
〔お風呂〕 ずっと三人で毎日お風呂に入っていたのに、今日からは自分は別に入るとトロワの父が言いだしたのだ。
入浴も子供にとっては遊びの一貫みたいなものであったので、その意見にカトルは猛烈に反対した。
「いやだよぉ。ヒイロも一緒じゃなきゃ、いやだ!」
そう、カトルが言い募っても、父親は無言のまま。
「どうして一緒じゃなくなるの?」
首を傾げて尋ねてくるカトルに、おやじさんは、こう言った。
「狭いからだ」
「……それだけ?」
「ああ」
「それだけ?」
不満気に繰り返し問いかけるカトルを、文句があるのかと見ている。
この間置き去りのトロワである。
別にいいじゃないかと、トロワは父の意見に異存はない。
だけど、カトルは嫌なのである。
「みんなだから楽しいんだよ」
そう思っているから。
「何も一人ずつ入れとは言っていないだろ。お前たちは二人で入ればいい」
そうそう、二人で入ればいいのである。好きなだけ遊べばいい。思わず納得のトロワだ。
それなのにカトルはトロワの予想していなかったことを口にした。
「じゃあ、ぼく、ヒイロと一緒に入る」
トロワがいないぶん、広くなるというわけだ。
言葉を失ったのはトロワである。
弾かれたのだ。カトルに。そう、愛してやまないカトルにである。絶句するしかなかった。
「どちらでも構わない。カトルの好きにしろ」
と、父は言ったが、構うところ満載のトロワである。いつまでも放心状態に入っているわけにもいかない。今、食い止めなければそれはシステム化されてしまう。口を開くのだトロワ! と、後押しされたのか、トロワはなんとか声を出した。
「どうして、どうして俺じゃ駄目なんだ?」
「なに? どうしたの? とろわが“だめ”なんじゃなくて、ヒイロが“いい”んだよ」
やっと声を絞り出したトロワに、カトルは悪気もなく彼の心を砕くことを言い放った。しかも、にこにこ笑っている。トロワの好きな笑顔で。
「何が俺に足りないんだ?」
そもそも子供と大人だから足りないところだらけだ。
「背中の洗いっこ」
「背中?」
「うん。ヒイロの手はこんっなに大きいんだよ。ねぇ」
カトルは無理無理に父の手を取って、トロワに向けて手のひらを開いて見せようとする。
「それから上手に泡をたてるでしょ」
「だから?」
「だ、か、らっ」
カトルの笑みが深くなるが、トロワの胸はもやもやとする。何が「だから」なんだろう。
「俺は負けたのか?」
「なにと戦ったの?」
トロワの呟きに、カトルはきょとんとしている。
固まっているトロワに父親は気がついたようで、会話の流れから心中を察したのか、助け舟のつもりで口を開くことにした。放任主義だが人非人ではない。
「カトル。トロワと二人で風呂に入れ。俺は一人がいいんだ」
「どうしてー? 一人がいいなんて言ってなかったじゃないか。ぼくの好きにしていいって言ったぁ」
「それはトロワを選ぶと楽観視していたからだ」
「“らっかんし”ってなに?」
「カトルの体を洗ったりするのが億劫なんだ」
「“おっくう”ってどういうイミ?」
父は押し黙った。面倒になってきたのだ。いつもそこにある眉間の皺がさらに深くなる。この可愛いお子は頑固一徹である。
「じゃあカトル、俺はミトンを使う。それなら大きな手になるだろ」
撃墜されたトロワが復活してきた。しかし、既に問題はずれつつある内容だった。時差が生じている。
「ちなみに“楽観視”は事態を良い方に考えて心配しないことで、“億劫”は面倒くさい気持ちのことだ」
そのブレを修正するようにトロワが口早に告げる。
「へぇ~、トロワすごいねぇ! 博士みたい。カッコイイ!」
恰好いいなら一緒に風呂に入ってくれと思うトロワだった。
なにげに出した父親の提案は、トロワを谷底へと突き落とした。結局はカトルとヒイロ、カトルとトロワ、両方の話し合いも上手くいかずに終わってしまい、今日も三人で入浴した。僅かとはいえないシコリを残して。
トロワの望むところではないが、鈍感な人を好きになると苦労するようだということも、可哀想なほどよくわかった。
さて、この問題は解決をむかえるのであろうか。トロワのためにもいい策を講じてもらいたいものである。
〔初めてのキス〕 ドサリと数冊のアルバムをカトルがテーブルに置いた。それに続いて、カトルにしてはお行儀悪く、ソファーをまたいで座る。
にんまり顔で一冊目のアルバムを見終わったカトルが楽しそうに言った。
「子供の頃のトロワ、可愛かったね」
話しかけられてトロワが少し怪訝な顔をする。
「可愛げはなかった記憶しかないな」
「何言ってるの、可愛かったんだよぉ」
「正気か?」
「勿論! まあ、無口だったけどね。だぁけど、可愛かったの」
そう言われているトロワは僅かにだが苦笑いしている。わかるかわからないか程度、微かな表情の変化でしかない。今も昔も変わらずにトロワは寡黙で無表情だ。そしてカトルは艶やかに笑う。
「トロワ、キスしてもいい?」
はっきりとそう言ったカトルを物珍しそうにトロワが見ると、カトルは言葉切れとは裏腹に真っ赤な顔をしていた。
「自分で言ってどうして照れているんだ。カトル」
「照れてるって言わないでよ。余計に恥ずかしくなるから……笑わないで」
「どうしたんだ?」
トロワは少し口角をあげる。
「言ってみたかっただけ」
そう、口にしてみたら予想以上に恥ずかしかっただけの話である。
カトルの熱がひかぬ間に、軽く唇が重ねられた。
「ぁんっ、ダメだよ。僕からしようと思ってるんだから」
「どちらでも一緒だろ」
「違うんだよ。思い出しちゃったから」
「何を?」
「初めてのキスのこと」
「遠くはない昔だな」
「違うんだ。……僕のファーストキス」
「だから」
「違うんだよ」
カトルはごにょごにょと口にして俯いてしまった。
なんだか嫌な予感がして、トロワもそのまま黙り込む。
「……僕の初めてのキスはトロワと出逢う前、二歳のとき。だっこしてくれていたヒイロにむちゅってしちゃったのがそうなんだよ」
「…………」
「ごめんねトロワ。忘れてたらよかったんだけど。ヒイロと電話をしていたら、なんだか知らないけど思い出しちゃったんだ。怒ってる? 怒ってるよね?」
「…………いや、怒ってはいない」
確かに怒ってはいない、あまりの出来事に心がついて行かないだけだ。
「だって、黙ってるんだもんトロワ」
「驚いただけだ。そんな親密な関係とは知らなかった……」
「違-うの! 子供のしでかしたことだよ」
「ああ、昔からカトルには右往左往させられているな。とんだピエロだ」
「自虐しないでっ。だから、やり直したいんだ。だから、キスしてもいいか訊いたんだよ」
カトルがトロワの手を握る。ぎゅっと胸元に引き付けた。
「キスしてもいい?」
「断る理由がない」
直接触れている手から、カトルの高鳴る鼓動がトロワに伝わった。
「……カトル」
「トロワ」
息をつめて、そっと。瑞々しい唇の弾力まで感じ取るような、秘めやかな口づけ。
「……ごめんね」
ゆっくりと離れると、すぐにトロワはカトルに悟られぬよう、ため息を吐いた。これでは何の文句も言えぬではないか。これで許してしまってはいつもの関係のままである。だから、それを打破するためかトロワは、やっぱり、
「許さない」
と言って、カトルが降参するまで、たっぷりと、甘い口づけを返したのであった。
■FIN■
初出 2006.8.20に、加筆訂正しました