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~来タレ我軍曹!×4受限定軍曹&4受大臣憩いの場★~    
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YA・GI 2


デュオさんとひつじカトルのもとに、またヤギがやって来る模様。
新たなるヤギさんはトロワのダンナであります。
どうせ、なにかが勃発するのであります。
デュオはどうヤギトロに対峙するのでしょうか。
ひつじっ子との平穏な日々は守られえるのか(笑)
もし、楽しめたーというかたがおいででしたら、
拍手やコメントしてやってください。
大丈夫なのかなぁ。この話。

本文を読むからどうぞ!


YA・GI 2


   ☆ ☆ ☆


 いつもほやほやしているカトルだが、今日はそれともちょっと違いいつになく挙動不審。ソワソワとあらぬほうを見たり……。
 それというのも、衣替えのお知らせが来たからだ。


 くてっとソファーでまどろんでいたカトルは瞳を開けると、
「服が変わります」
 自分の着ている着ぐるみもどきのおなかのところを、びみょーっと引っ張りながらデュオに言った。
 カトルは“服”だと思っているのか、やっぱり。
 古式ゆかしい制服だというくらいだから間違いではないのだろうが、デュオからすると着ぐるみもどきを服と言い切るのは、どうも……。
 しかし、そんなことはどうでもいい。デュオからするともっと重大な確認すべき問題があった。
「も、もしかしてっ!」
 目を見開いたデュオはカトルを指差す。
「夏服ですっ」
「な、夏服ッ!」
 喜びのあまり歯を食いしばって力むデュオの盛り上がりをなんと見るのか、カトルのおっきなおっきな“飾り物”と言われる碧い瞳には異常事態には映らない。だからこその節穴だ。
「もう少し暑くなる前に変わるのに……」
 着ぐるみを着ているようなカトルは、Tシャツのデュオと対照的すぎる。暑さには耐性があるとカトルは主張しているが、要するに鈍いのだ。
 では、体温を発散するぬいぐるみをだっこして眠るのには、どのくらいの辛抱が必要なのか?
 デュオを見ていても、薄ら笑いで眠っていて、嬉しいのか苦痛なのか掴めないときた。
「カトルそれってアレ? 前に言ってたフワフワぁなんてして、プードルみたいなやつ?」
「はい。前にお話したことがあります。でも、プードルではありませんってば」
「ラッキーッ!」
「やや?」
 少し不本意な顔をしたカトルだが、デュオの歓喜に気をそらされる。
 なにかカトルにマズイことを言ってしまっても「あっちむいてホイッ!」で忘れてるのが、カトルの扱いやすくて可愛いところだとデュオは言う。
「ああ~、早く見てェ~~……」
「ぅ~ん? ……デュオは好きなのですか?」
「おうよ!」
 デュオは思いを馳せた。まだ見ぬ、サマーバージョン、夏の出で立ちに。
 相変わらずのオーバーアクションによるカトルの説明風景がよみがえる。
 カトルに「大きな栗の木の下でぇー」とお遊戯させれば、(音には合っていないかもしれないが)楽しげでのびのびとした立派な模範演技を示すだろう。
「とても涼しいんです」
 で、締めくくられたコスチュームの説明はどこをどう想像しても――半端に毛を刈られた羊なだけかもしれないが――露出が多く涼しげな服装のポイントにふわふわしたものがついているようなので、デュオは羊というよりプードルを思い描いてしまう。
 基本ラインがヘソ出しにノースリーブにシュートパンツだというのだ。
 なんてことだとデュオじゃなくてもカトルを愛するものならばテンションはMAXまで上がるだろう。
 今の暑苦しさと比べるとなんて涼しげかつ軽装なのか。血迷っているとしか思えないスッキリ(ところによりフワフワ)したものであった。
 脳内で、カトルの笑顔と白い肌。それに、最近すっかり見慣れてしまって、デュオにはチャームポイントに映るツノをプラスして、夏のコスチュームを着せてみる。デュオの趣味がプラスされ、いろいろアレンジ込みではあるが。
 いかがなもの?
 話を聞いて、デュオが健康な男の子である証拠に、どれ程の悦びと興奮を覚えたことか。
 だが、浮かれてばかりも要られなかった。
「採寸しないといけないんですって。トレーズ様はご存知のはずなのに……」
「サイズかぁ……。念のためじゃないのか。お里帰りする?」
「いいえ……ぼくは……」
「カトル。我慢する必要なんてないんだぞ。会いたい奴だっているんだろ? それにわざわざ呼び出してるのだって、採寸するってのを口実にカトルの顔が見たいんじゃないのか」
 デュオの大きな瞳が細められていた。カトルはデュオの笑ったときに器用に上がる口許も好きだ。
「……デュオは、とても、やさしい表情(かお)をするんですね」
「カトル……」
 ウール100%の手袋がデュオの頬に触れる。慈しむようにさわさわと。
 子供みたいだといつもデュオが思うカトルは、時としてデュオに子供にかえったような錯覚を起こさせる。
 胸の中に抱きしめて守ってあげたくなる人は、デュオの心を抱きしめて癒す力を持っている。価値を与えてくれる人だ。
「違うんですデュオ。僕が帰らなくても、誰か来るっていうんです。……うぶっ!? デュ、デュオ!」
 デュオは力一杯カトルを抱きすくめていた。
「なぁーんだ。そうだったのか!!」
 物凄くほっとした。さらりと言ったつもりだったので、デュオは自分が本当はカトルを帰したくないと強く思っていたと、安堵の度合いで痛感した。
(みっともねぇー……)
 独占欲の塊だ。妻の同窓会の出席をホントは面白くないと思っている、心狭い夫の姿をデュオは自分の中に見た。


   ☆ ☆ ☆


 うたた寝を通り越し、カトルが本当に寝入ってしまったそのうちに、デュオはイヤホンで音を消してビデオを観ていた。
 カトルが眠っていることは散々弄り回して調べ済み。頬をいくらつついてもびくともしなかった。
 デュオのベッドを占領して眠っているカトルの髪に、一筋の細い三つ編みがほどけきらずに残っているそれが、デュオのお調べの痕跡。
 こっそりとビデオ鑑賞だなんて、アダルトビデオでもあるまいし。
 だけど、無理やり同僚に押し付けられたサイコスリラーを、カトルと一緒に観るわけにもいくまい。
 微かにぶれる映像。不安感を煽るおどろおどろしい音楽がバックに流れ、命乞いをする女の血走った瞳がどアップになると、凶器じみた絶叫がほとばしった。
(カトルならオープニングでショック死だ)
 人を怖がらせることを念頭においた演出は、遊園地のお化け屋敷並みにわかりやすくて、デュオは思わず苦笑した。



 ビデオはどんでん返しを狙った急展開の後、拍子抜けのラストを迎えて。
 なんとも言えない消化不良の状態を抱え、デュオが首をひねりながら、カトルのいる寝室にこっそりと戻ると。机の前の椅子に長い脚を組んだ男が涼しい顔で座っていた。
「なっ!?」
 ドアに手を掛けたままデュオは立ち止まる。
 目を走らせると、侵入者に気づかずに奥のベッドでカトルは静かに眠っていた。
 そいつはというと、目があったにもかかわらず、余裕めいた態度を崩そうとはしない。
 長い前髪の合間から見える、凛とした翠の瞳。相手の驚きは無。表情はまるで変わらない。
 机を背にドアを向いていたところを見れば、この男、デュオを待ち受けていたのか。そうなれば、微動だにしないのは当然のことだ。
 外部からの侵入者に気づかないデュオではないのだが。一体どのようにして入り込んだのか。
 事態に比例せずデュオが落ち着いていたのは、この、唐突なパターンに思い当たることがあったからだ。
 睨み付けたままデュオは口を開いた。
「あんた。カトルの関係者か?」
 デュオがそう考えたわけは、この男の順序立てのない現れ方が、カトルが初めてデュオの家に転がり込んできたときや、度肝を抜かれたエモノを揮うヤギ――ヒイロがやってきたときを思い出させたからだった。
 お世辞抜きで癪にさわるほど容貌が整っていたことと、前例のヒイロと重ね合わせても、このクールさ無愛想さはヤギ公の可能性大。聞こえていないわけはないだろうに、返事すらしないふてぶてしさが加われば疑いようもなかった。
 見よ、この脚の組み方を。長い脚を見せつけ虚勢を張っているなら鼻先で嗤ってやるが、気配さえなくこの姿勢を保っているあたり。――張りぼてならまだ滑稽な分可愛げがある――自然体でこれだとなると、嫌味以外の何物でもない。
 瞳の色と、髪の色。痩身の身体。厭に涼しい貌を見て、これは絶対、カトルがよく言う“キレーなヤギ”の気がした。
 ズバリ、名前でも当てれば、
(コイツも少しは反応しやがるか)
 と考え、デュオは選び出した一人のヤギの名前を口にしかけた。
「……ン、んん……ふぁあ~ぁああ……んくぅ」
 そこへ、むくり。と、ベッドの上の世界一カワイイとデュオが思っている眠り姫(眠ってばかりのカワイ子ちゃんという意味)があくびとともに起き上がった。
「……ふうぅ~~……」
 寝室に居る二人の男の視線がカトルに集まる。
「……んふふ」
「あ~あ~あ……カトル。笑ってやがる……」
 瞳を閉じたまま、上体を起こして座ったカトルを見てデュオは唇を歪めるが、溺愛によるぼやきだと表情を見ていれば一目瞭然。ああ、世界一可愛いぜ! と叫びたいのだろう。
 カトルは楽しい夢から覚めきっていないご様子。マイペースに覚醒準備に取り掛かっている。
 笑ったような顔で、焦点の合っていないとろんとした瞳のまま、カトルは大きく溜め息をついた。
「はふぅ~……」
 深呼吸。
 ぎゆっと目を閉じ、ゆっくりと開く。
 ――ほら、起きました。
 ぼんやりと、辺りを見渡しカトルの動きが止まった。
「ト、トロワぁ?」
 カトルに呼ばれた男は微かに瞳を細める。
「トロワだぁーーーッ!!」
 やっぱりヤギだ。
 言うが早いか、カトルはトロワに飛びついていた。
「カトル、元気だったか」
 抱きとめてトロワは静かに問いかける。
「わぁ~、トロワだぁー」
「そうか、元気そうだな」
「うわぁー、ぅわあぁーー」
「……ん? 少し痩せたか?」
「ぅあはははは」
「あまり長居はできないんだが……」
 目の前で展開する、とち狂った遣り取りにデュオは酷くびっくりとした。
「全ッ然ッ、噛み合ってねェよ、オマエらァーッ!!」
「あっ、デュオだぁー」
「デュオだぁ、じゃねーよ、カトル」
「二人で話をしていましたか?」
「いや」
「してねーよ。どうやってコミュニケーション取るんだよ、このムッツリと」
「むっつり?」
 カトルが真似る。
 意味はさておき、響きはわりと好みだったか。
「デュオ、この人がトロワです!」
「いや、紹介しろって言ってんじゃなくってなぁ」
 カトルはトロワにしがみついたまんまで、瞳をまん丸にして、不思議そうにデュオを見ている。
「……とにかく離れろよ……」
 べりべりべりとデュオはトロワからカトルをひっぺがして、自分のほうに抱き寄せた。
 ああ、その間もヤギ公が無表情なことに、なぜがたイライラする。
「トロワ、デュオです!」
「カトルぅ、紹介しなくっていいって」
 腕の間から笑顔でデュオをトロワに紹介している。
 カトルは紹介すれば、この二人の間に友情が芽生えるとでも思っているのか。
「話は聞いてるぜ、トロワ。オレはデュオってんだ。カトルと暮らしてる」
「一緒にいます」
「そう、好きあってんの」
「デュオ、それは好きもの同士という意味ですか?」
「カトル、そりゃエラク違うぞ!? 気持ちはわかるんだけど、それを言うなら“好き好き同士”! 小学生でも言わないかもしれないけどな。……で、アンタは」
「カトルの……」
「オトモダチ、だろ?」
 初めてデュオに向かって口を開いたトロワの語尾を引ったくり、デュオは友だちと言う言葉を殊更強調し、挑発的な笑みを作った。
 デュオが初対面にも関わらずこんな態度を取るのにはわけがある。本能が告げるのだ。コイツは恋敵だ……と。
 しかし、そのデュオの表情を真っ向に受けて、このトロワときたら苛つきの表情もないなんて。暴力的だが少しは反応があった分、ヒイロのほうがまだましだ。
 仮にも自分の好きな者を抱き寄せる奴を見て、まるで涼しい顔をしているなんて、デュオからすれば信じられない。デュオなんてひったくり奪い返すほどストレートなのに。
「わかりました!」
「なにがぁ?」
 二人とも今は取り込み中だから黙れとは言わない。まさに放し飼いのカトルである。
「“好き合ってる”です」
「カトルはまだそこを考えてたのか……」
「僕とトロワにも当てはまりますか?」
「オレが『もっちろんっ』なんて、感じの良いこと言うわけねぇだろ」
「じゃあ、ぼくとヒイロはどうですか?」
「どうですかって、可愛い顔で言われても困るんだよなぁ」
「……難しいのですか。はぁ~……じゃあ、トロワにききます」
「わっ、それはそれで気分が悪いことになるだろっ。カトル頼むよぉ~」
「まかせてくださいっ」
 力強く頷く。
「いや、違うって!」
 デュオの両手の間から、カトルは両腕をトロワに向かって差し出すと、意識をこちらに向けさせようと、
『こっちを見てよ』
 と、大きく上下に腕を振った。
 そんなことをしなくても、カトルを視界におさめているトロワだが、判り易く身体を微かにカトルに向ける。
「トロワ。トロワとヒイロは“好き合ってる”よね?」
「気持ち悪ぃだろ~……」
 カトルの脳天に、項垂れたデュオの額がごっつんこ。
「ごつん?」
「カ~トル、好き合っちゃいないだろぉ」
「デュオ。トロワとヒイロは仲良しなんです! 二人が“好き”なら、僕と二人も同じだと思って」
 強引に外堀から埋めていく。
 ここにヒイロが立ち合っていれば、総毛立ってしまっただろう。
 『友情が愛情に姿を変えるなど馬鹿馬鹿しい。二つの間に接点などない。《カトル》が特異点なだけだ』
 これは誰かさんの主張。さて誰だろう。ヤギ三人衆の想いかもしれない。
 デュオもまだよくわかっていないことだが、カトルにはわらわらと取り巻きがいる。そいつらは「カトル様、カトル様」と一致団結しているらしいが、そんな猛々しいマスラオたちに対しても、カトルは同じことを言うんだろう。
「……カトル」
 思いつめたように呼びかけたのは寡黙なトロワだった。
「オレはあいつを信用しているが、カトルとヒイロが同じということはありえない。ヒイロがこの場にいても、同じようなことを言ったはずだ」
 至極真面目な返答ぶり。
「オレはもう、ヤギ同士で仲良くでもヨロシクでもやってくれてりゃいいぜ。この話は終わりにしよう」
 カトルと対抗できるほど、こちらも強引に、無理に話を纏めようとしている。
「生憎だが、お前の言っているような趣味はない」
「お、なんだ、口利きやがった。人生の“楽しみ”半分知ってれば結構。生きていける。――オレも人のこと言えねぇけど――余計なほうには興味はないか? 片っぽは知り尽くしたって顔してるぜ」
「……そうか」
「――ッ!」
 嘘でも、苦々しい表情でも浮かべれば良いものを。こんな手応えのない遣り取りなんて。
「肯定してるのかよ。そっち方面では苦労知らずかよ。よっぽどニャンコが寄ってくんだな」
「お前ほどじゃない。……とでも言えば、満足か」
「……ホント、感じ悪ぃなぁ……」
 そっち方面に話が流れると、お互いに凝縮した内容になりそうな気がして。会話が深みに嵌りそうで、カトルの手前踏み込めやしない。
「僕は眠るのは気持ちいいと思います」
 カトルは一人見当違いなことを言っている。これはカトルの“楽しみ”。健康的で大変よろしい。
 火花が散りそうになるのをカトルが消して回っている。消防隊長は好きな人が二人、同じ空間にいることで、はしゃいでしまっているだけだ。こういうのもマイペースというのだろうか。

 すっと立ち上がったトロワに見下ろされる角度が、デュオにとっては酷く屈辱的だった。
 一見、細いだけのようにも見えかねない細腰だが、脂肪も筋肉も無駄なつきかたをしていない。痩身な体躯ながら筋肉がきっちりとつき、しなやかな理想的なプロポーションをしていた。
 短めのムチをエモノにしているヒイロだったが、トロワもスタイルの良さを物語る高い位置にある腰にムチを携帯している。しかも、かなりの長さを備えた物だ。同じムチでも、ヒイロとトロワはかなり違うエモノを扱うものなのだろう。
 気配を消せるような奴で、腕が立たないなんてわけはないだろう。
 たまたまなのか、ここを訪れるヤギときたら、物騒な奴ばかり。
「トロワ、どうしたの?」
 黙り込んだ男たちの緊張を削ぐように、カトルは単純な質問をした。


「カトルに新しい制服を届けにきた」
 そう聞いてカトルはとても喜んだ。それ以上にデュオは小躍りして喜んでいた。
 採寸がどうのという話があった後、留守中にヒイロが現れたとデュオはカトルから聞いていた。その時、細かな採寸をされたそうなのだが、几帳面に数字を記すヒイロの姿はデュオには上手く想像できなかった。カトルにそれをもらせば、ヒイロがそういう仕事にも長けている性質をしていると教えられたろうが。
 ヒイロの来訪、それから日が経ち。オーダーメイドの代物が出来上がってきたわけだ。

 さぁ、初お目見え。デュオはティッシュボックスを小脇に抱えておくべきか。
 着替えのために寝室を追い出され待ち構えていたデュオの前に、涼しくなったひつじがお着替えを終え登場した。
「どうですか? へへ」
 ちょっぴり紅潮した笑顔満開のカトル。デュオはカトルの姿に、驚きのあまり限界まで目を見開いた。

「どうですかって、カトル。なんも変わってねーじゃんかよーッ! プードルはどうしたっ! プードルはッ!?」
 見た目がほとんど変わっていない。
「とても涼しいです」
 と、カトルはご満悦だが、カトルとお天道様が許してもデュオさんが黙ってはいない。
「カトル! 全然話が違うじゃねーか! なんだよそれは!?」
「さぁ~? 夏の制服でははじめてのタイプですね。でも、とても涼しいので僕はこれでいいです。快適です」
 素材が素晴らしく通気性にとんでいて、見た目の暑苦しさはまるで違う。メルヘン界が叡智を結集して開発したのだろうか。開発に時間がかかり、いつもよりも衣替えが遅くなったのかもしれない。
 さりげに今回は着ぐるみではなく上下に分かれている。だぼだぼのズボンにだぼだぼの丈の長い上っ張りだ。
 デュオが喜ぶ要素と言えば手袋はなくなって、本物の指先がのぞいているだけ。
 着心地が良好ならカトルはなんでもいいらしい。デュオと違ってカトルに夏スタイルへのこだわりなんて持っていないのだ。
「なんのための採寸だったんだァー!? プードルだってなら、そりゃサイズが合ってないと、シルエットが丸潰れだからわかるけど。これだったら、S・M・Lの大まかサイズで十分じゃねーか!!」
「言い忘れたが」
 まだ居たのかよという目でデュオが声の主であるトロワを見る。
「デザインそのものが変わった。こちらに来ているカトルにも説明する暇もなかったんだが、公募し選ばれた新しいデザインがそれだ。選考した者もひつじらしく、きっとカトルも気に入ると話していたが、カトルの好みだったようだな」
「とても落ち着きます」
 それはそのはず、寒い季節の出で立ちとまるで大差ないのだから。
 公募されるほど、ひつじはアチラの世界では特殊なものであり、アイドルめいた求心力を持つ存在なのだろう。
「残念そうだな……」
 ちらりとデュオを見たトロワの瞳が和らいだのに気が付いて、
「お前ら……わざとだろ……」
 デュオは確信したのだった。
「もしカトルがどうしてもそれが嫌だと主張すれば、以前のデザインそのままでもよかったんだが、気に入ったのなら本決まりだな。勘違いした物も多数あったんだが、それは……没になるか」
「てめえら、オレにオイシイもんは見せないでおこうって気だろ! 陰謀かッ! コンチクショーッ!!」
 デュオの不服は右から左。
「……そろそろ戻るか」
 是非そうしてくれと願うデュオを尻目に、そんなことを呟きながら、灯りの消えた寝室へ向かうニヒルなヤギ一人。何から何まで非常識だ。
「ゲストルームはないからそうしてくれ……」
 一気に意気消沈したデュオは、ひらひらと手を振り、『サヨウナラ』と追い払う。
「お届けものなら、もっと可愛いヤギはいないのかよ……」
 デュオは既にお疲れ。項垂れソファーに座り込んだ。
「トロワ、もう、帰ってしまうの?」
 てってってと追いついたカトルにトロワは立ち止まり声を掛ける。
「そんな顔はするな。また逢える」
「トロワ……」
 一瞬言葉もない静寂にデュオはパッと面を上げた。
 二人は離れていたが。
 立ち上がり、大股でトロワに近づくと、デュオはトロワの肩に手を掛けて、カトルには聞こえぬように囁いた。
「お前、カトルに……キスしただろ?」
 返ってきた返答は、微かな目許の動きだけ。
 上でこそこそやっている様子に、カトルは非常に感激した。
「あっ、仲良しです!」
 二人の様子がこう見えたからだ。さすが大きな瞳は“フシアナ”だ。
「……良い報告ができそうだ」
 トロワはデュオにそう言うと、口許に微かな笑みを浮かべ帰って行った。
「カトル、あいつからの言付けだ」
 そう言って、そとに出てきたばかりで、デュオはまだ触ってもいない、カトルの桜貝のようなピンクの爪先に口吻けを落として去っていったのは、どういう了見だったのか。
(……アイツって、誰だァ?)
 盛大に手を振るカトルの直ぐ横に、目を開いたままのデュオが、あっけにとられ置物のように硬直していた。


「面白くないのは、お前だけじゃないということだ」
 聞き逃しそうな声で、トロワは静かにそんなことを言った。
 済ましていても、腹の中は……と、言うことか。
(なんだよアイツ……。素直じゃねぇなー)
 初めて、自分と同じオトコだとトロワのことを感じたが。すかした顔が最後まで崩れなかったのには、心底、可愛くない奴だと思った。
 暴力的ではなかったが、デュオが遭った二人目のヤギも、こうして、最悪の余韻を残し去っていったのだった。
■FIN■
初出2000年8月27日 に加筆訂正しました

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たみらむゆき軍曹&碧軍曹
性別:
非公開
職業:
カトル受専門の夢想家(野望)
趣味:
カトルいじり・カトル受妄想
自己紹介:
むゆきと碧
2人のカトル受限定軍曹が
同志を募って
集って憩ってしまう場を
つくろうと
もくろんだしだいであります。

小説や絵を
UPするのであります。
日記は書く気なし!
(そして、
まともなプロフィールを
語る気もなし。。笑)
軍曹はカトル・ダーリンズ
だいちゅきトークが
したいだけでありますから!

「我軍曹ッ!」
の名乗り随時募集中v
いつか、軍曹の集いを
したいものでありまっす★

しかして、
「なぜ軍曹?;」と、
大半の方に思われてるだろう。。

カトル受最前線で戦い続けるため
出世しすぎて
外野にはいかないからの
万年軍曹であります!

ちなみに最近急に
自分のことを、
「4受大臣」とも名乗るように。
「4受大臣補佐官」など(笑)
こ、これは進化なのか!?(笑)

我が魂、
カトル受とともにあり★(ビシッ!)
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