~来タレ我軍曹!×4受限定軍曹&4受大臣憩いの場★~
◆ purity 4 ◆
トロワ×カトル
本文4本中のラストになります!
この作品最高にイチャイことに(だから、イタイのではなくイチャついているの意ですってばさ)
人からするとささやかなイチャでも、トロワは喜びではちきれそうなんです。
そして、カトルは恥じらいでとろけそうなんです。。〈マジか)
そんな話を読み進めてもいいぜよ!というオトコマエなかたは続きをどうぞでやんすv
お読みいただいたかたからのご意見ご感想お待ちしておりますvv
トロワ×カトル
本文4本中のラストになります!
この作品最高にイチャイことに(だから、イタイのではなくイチャついているの意ですってばさ)
人からするとささやかなイチャでも、トロワは喜びではちきれそうなんです。
そして、カトルは恥じらいでとろけそうなんです。。〈マジか)
そんな話を読み進めてもいいぜよ!というオトコマエなかたは続きをどうぞでやんすv
お読みいただいたかたからのご意見ご感想お待ちしておりますvv
purity
【 process――step 5-2 】
その後、なにもないまま今年も終わろうとしていた。
適温を維持する空調と、隣室に敷かれた寝心地の良い分厚い布団が憎い。ぴたりと二組が寄り添っているから、なお憎い。カトルの使用する枕がいじらしくトロワのほうに寄っているから、悲しいくらいに、憎い……。
きっちりとした和装では勝手が違うのだろうが、特別形に拘らない今は、リラックスできると言って、カトルは浴衣を気に入り、外出する以外の室内に居る間は、終始浴衣に羽織というスタイルで通していた。
浴衣姿に少し膝を崩して座っているカトルは眺めのいいものだが、眼に入るそれが背中ばかりでは……。
まるみのある頬に衿から覗く白いうなじ。時折ごそごそと動く、使わずにいたのかと思えるほどに柔らかそうな足の裏。普通年令を重ねると、皮膚が多少硬くなり少しは可愛げがなくなるものだが、カトルはちゃんと大地を踏みしめて生活してきたのだろうか。可愛らしすぎるものばかりを有しているカトルに、トロワは翻弄されるばかりである。
カトルに踊らされていると、そこまではトロワ本人も把握しているのだが、人格が崩壊ないし破綻しているというレベルで、人にはカトルバカだと思われていることまでは自覚がなかった。
だが、気がついたところで、まったく治りようがないため、自覚の有無はどうでもいいのかもしれない。
「あれ……。今の番組終わってしまったのかなぁ」
トロワがもの悲しさに思いを馳せて、そのまま善からぬ方へと進んでいっていると、カトルが首を捻るように言った。
画面に眼を遣ると先程までの賑やかな会場風景とはまるで違う、静かな野外の映像に切り替わっていた。
この国に生息する独特の曲がった枝振りを持つ常緑樹が、印象深く影絵のように紫紺の空に浮かび上がり、月がその葉先にかかる。騒々しかったぶん寂しくさえ感じられる情景だが、凛と枝を伸ばす樹の様や、静まり返った夜空は趣を感じられ、好ましい心象を与えてくる。喧騒から隔絶した映像は静止画かとさえ思われた。
「ねぇ、トロワ。今ので終わりなのかな?」
「随分と様子が違うようだから、違う番組だろ」
今までそんな至近距離から脇目も振らず観ていて、どうしてカトルはトロワにそんなことを訊ねるのだろう。
あからさまに打って変わった映像に、適当に観ていた人間でさえもなにか違うと感じるだろう。トロワに構ってもらいたいだけなのだろうか。わざとボケているのか、全く内容を理解していないのか。トロワに真実はわからない。
漸く、身体をこちらに向けたカトルは移動して。トロワと向かい合う形でテーブルに乗っかるように身を乗り出し、そこに肘をついた。
お行儀は良いとは言えないが、好意的ににっこりと微笑むカトルの表情が、全てを打ち消してしまう。
なにかトロワと話したいのだろう。他愛無いことでもいい。カトルはトロワの声が聞きたいのだ。
カトルは自分の空になってしまった湯飲みと、トロワのあまり減っていないがすっかり冷えてしまった湯飲みを見て「よいしょ」と、立ち上がった。
「淹れ直してくるね」
極上の笑顔がなにより嬉しい。
たとえ、ポットから注がれたお湯で淹れてくれた緑茶であろうと、美酒にも勝る。トロワは自分自身やその他の者が淹れたお茶は残しても、カトルが淹れてくれたものは、一滴たりとも残すようなことはしないだろうと思った。
「そう言えば、汗をたくさんかくトロワって見たことがないや。それって、やっぱり体質なのかな」
もともとトロワは水分を必要以上には摂らないためか、汗もあまりかかない。
「体質かもしれないが、俺には習慣もないからな」
「君と比べると僕は随分、水分を摂るもんね。どうしてこんなに違うのか不思議だね」
トロワの言うのは、お茶の習慣ことだ。
カトルはトロワとは正反対に、暇さえあれば紅茶などを飲む人間だった。
優雅な生活を送っていた人間特有の感覚なのか、とにかく一服つくのが好きだ。ピースミリオンにいるときでさえ、カップでとは限らないまでも、一息つくごとに、カトルはストローでちゅるちゅると水分を摂っていた。
必ずしも喉に渇きをおぼえているのではなく、癖のようなものなのだろう。
急須のお茶の葉を替えているカトルを観ながら、まともな会話ができ歌合戦が終わってくれたことに、トロワは心から感謝していた。
「カトルは俺とは逆に……」
続く、汗をかくんだろうな。という言葉をトロワは飲み込んだ。
確かめてみたいという要求が頭をもたげたから。
「なんだい?」
お盆に二人分の湯飲みを乗せたカトルが、直ぐ傍まで戻ってきていた。
「いや……」
膝をついてお盆をテーブルに下ろすと、湯飲みをひとつ、トロワの目の前に置く。細い手首に眼を奪われた。
そのまま伸ばしかけたトロワの腕をすり抜けるように、カトルはまた立ち上がり、お盆に余る湯飲みをのせたまま移動して、先程座っていたところへ腰を下ろしまった。
最初の位置に戻っただけなのに、今までよりも遠くに感じる距離。同じはずなのに。
つけたままのテレビに背を向けて、手持ち無沙汰にカトルは湯飲み中の水面の動きを見つめている。
「カトル」
トロワに呼ばれたあと、カトルは嬉しそうに顔を上げた。
見つめたトロワの唇が微かに笑みを湛え。カトルはなにか意を決したように口内を湿らせる程度に一口お茶を口に含んで、それをごくんと飲み込んだ。
少し顔色を窺うような素振りをしてから、体の向きを変えると、畳に手をついてズルズル這うようにして、トロワの横に移動してきた。
赤ん坊のはいはいを見ているような危なっかしさと、違う匂いも同時に感じる。
えへへ……。と、笑うカトルは、ちょこんとトロワの傍に身を置いた。
「なあに?」
トロワの浴衣の端をカトルが握り、にこりと笑ったときに。
ひとつ鐘が鳴った。
低く響く鐘の音が長く尾を引く。
二人が画面に視線を向けると、照明に照らし出された大きな釣鐘が名残で振動していた。
他になにも起こらない。ゆったりとした間があいて、画面が切り替わると、先程と似ているが別の釣鐘が映し出された。
そして、民族衣装か何かに身を包んだ人物が、また勿体ぶった動きのあと、反動に乗せて鐘をついた。
延々とそれが繰り返される。
「除夜の鐘って言うんだって」
カトルがすぐ近くで言った。
「ヒイロに聞いたのか」
「うん。そうだよ。人の煩悩を浄化するような意味があるって言ってたかな。たくさんの鐘を鳴らすんだって」
うろ覚えで大雑把な知識しかカトルには無い。トロワが興味を示したように見えたため、きっちりとメモでもしておけばよかったと思っていたが、トロワにとって重要なのは正しい情報ではなく、カトルが発する声と唇の動きなのだ。
除夜。今年最後の夜。
二人で過ごせることを幸せだと思える。
辛気臭くなりそうなスローテンポで奏でられる鐘の音も、こんな夜にはしっくりとくる。
今はいくつ目の鐘が鳴ったのだろうか。
無音の室内に響く音は、しんみりと胸を揺らす。
そのためだろうか、カトルがトロワに、そろりと身を寄せた。
潤む大きな瞳はゆらゆらと。下からゆっくりと視線を上げて。トロワの顎、唇、鼻梁を掠め。そして、翠の瞳に辿り着く。
きゅんと胸が締め付けられる憂いに満ちた瞳。
物言わぬ、それでいて、ときに雄弁なトロワの瞳は、カトルを縛り拘束する。
角度が。
視線を合わせるための動きは、そのまま口付けに変わる。
瞳を閉じて、惹き寄せられるまま、どちらともなく、二人は唇を重ねた。
トロワの腕がカトルの背を抱き、カトルは躰をトロワに委ねる。
口付けて。すぐに離れ、細く息を衝いたカトルの蕩けるような柔らかな唇に、トロワは角度を変えて、再び口付けた。
「……ぅ……んっ」
少し、トロワの動きが掴めない。今までより熱いトロワの吐息。抱き寄せられる腕の力も、逃げることを許さない強さで。
ドキドキとカトルの頭の中で鼓動が鳴る。
火照りで耳まで熱く。沸騰した血で、全て内側から溶けてしまいそうだ。
カトルの中、怯える気持ちが生まれるのは否めない。
だが、触れてくれるトロワが愛しい。この身が嬉しい。
肩を抱くトロワの手は力強くて大きいと、今更ながらにカトルは思い。無駄だとわかっていたが、息がしたくて少し身じろいだ。
腕の中で瞳を閉じたまま眉根を寄せて、身を捩ったカトル。その動きを、羞恥からの軽い拒絶かとトロワは思い、逆に閉じ込めるように深く抱くと、頬に口付けた。
滑らせた唇を、カトルの柔らかな、花よりも鮮やかな色みをした耳たぶに寄せ、トロワは秘められていた激情を溢れさせた。
「……カトル――愛している」
この言葉が全てを上回るから。機転の利いた言い回しを持ち合わせていないトロワは、飾らずにその胸にある深く根付いた想いを告げるしかない。
愛を囁いて、求めて。小刻みに震える小さな躰をきつく抱き締める。
震えるさままで愛おしい。
今までどうして、この人に触れずにいられたのだろう。
一度手にしてしまえば、止まらない衝動。膨れ上がる愛しさ。もう、力を緩めることなどできないから。
カトルが無意識の媚態で、ねだるように軽く唇を尖らせ、トロワはその愛らしい唇を啄んだ。
ただ、唇を重ね合わせるだけで、込み上げる至福感。
口付けが深くならないうちに、カトルはトロワの身体に縋り、その肩に甘えた素振りで額を擦り付けた。
そうしたまま、照れているのか、カトルはなかなかその顔を上げようとしない。
忍び込むように、トロワが片手を頬に添え、顎のほうへと流れるように輪郭を辿った。
その感触に、くすぐったそうに肩を竦めたカトルの姿に、トロワは微笑を洩らす。
手で促して、無理に顔を上げさせると、瞳が濡れていた。下睫毛がいつもより、くっきりと見える。
瞬きに合わせ、儚く、溢れ出した雫がその頬を伝った。
「トロ、ワ……」
呼ぶ声は幼く。救いを求める声のよう。その人の伸べた手を、取らずにいられるわけがない。
ひっぱるようにトロワの浴衣を引いた。しっとりと瞳を閉じたカトルの頬の泪を、トロワは唇で掬い取る。
これ以上押さえられずに、トロワは低く呟いた。
「カトル……好きだ。おまえが欲しい」
その声に、その想いに、カトルは震えた。
驚きと同時に、初めて告げられたトロワの言葉に、込み上げる歓喜。
どうしてこんなにせつなく軋み、躰の奥が震えるのか。
ずっと、ずっと、彼を想っていた。
トロワがたとえ求めてくれなくても。身を投げ出した彼を目の当たりにしたあの瞬間から、きっとカトルの中では。
「僕は……君の……もの、だよ……」
カトルは小さく揺れる、泣くような声を出した。
その言葉をカトルの口から聞いたとき、トロワはもう、自分を止められなかった。
壊れそうに儚い、最愛の人を抱いた腕が違う意味を持つ。
「壊してしまう」
「……構わない、から。……僕が、そうして……ほしいん、だ……」
カトルは泣いて。
「…………君の、好きに、して」
精一杯の覚悟を持って、トロワを受け入れた。
欲した人に希われる喜びは、トロワの残る理性を消し去った。
どうしても力みの取れないカトルの背中を抱いた腕を、下へと滑らせながら脇腹に這わせ。びくりと身じろいだカトルの意識が、そちらのほうへと行った隙に、緩んだ唇の間にトロワは侵入した。
人を慕い愛することが欲深いことならば、誰よりも深い欲情にまみれたい。
羽織の胸紐を解くことさえも、もどかしい。
寛げるように衿元から手を差し入れ。首筋に手を充て、直接触れた素肌の熱さにトロワは溜め息をつく。
すべらかな白い肌は、今はまださらさらとして。触れたところからうっすらと汗が滲むと、手のひらにしっとりとした馴染みを見せた。
カトルの線の細さを確かめるように、首元に顔を埋める。
鼻腔を髪の淡い香りにくすぐられ、たまらず撫で上げたうなじ。細い髪を乱し、トロワはカトルの染まった耳朶を緩く吸うよう柔噛んだ。
媚態ともとれる仕種をして。濫りな嬌声は上げずに。苦しげなくぐもった吐息と、甘やかな喘ぎを零す愛しい唇。堪える姿が悩ましい。
嬌羞に泣き。カトルは、愛しさで求める。
恥じらいは、艶めかしく色をつけ。
縋りつく細い腕は力を込めて。迫りくる未知の感覚に、カトルの指先が悲鳴を上げた。
トロワは袷から忍ばせた手で、瑞々しい脚線をなぞり。たおやかに蠢くその華奢な躰を、募らせた一途な想いごと押さえつけた。
【 process――step 6 】
ぼんやりではあるが意識が覚醒した。
そのとき、カトルの朧気な視界にトロワが居た。
上手く焦点も合わせられないような近く。
眠った顔を見られていたと思ったら、カトルは恥ずかしくて赤面してしまった。
ここに来てから一度も、トロワよりも先に目醒めたことがないカトルだったが、やはり意味が違う。
やけにだるい身体に困惑しながら、ごろごろとする感触で浴衣を身につけていることに気がついた。
身体の前で緩く帯が結ばれている。トロワが着せてくれたのだろう。
カトルのほうへ身体を向けて、肘をついて側臥の形で横になっているトロワが、布団の中で手を伸ばしてきた。
先刻の細やかでいて力強い愛撫を思い出させるような無遠慮さで、トロワがカトルの腰をやんわりと撫でた。
トロワからすると、無理をさせてしまったカトルを労る、慈しみの行為なのかもしれないが……。他意はないとカトルもわかってはいても。
愛おしんでくれる想いは否応なく伝わるのだが、それでもカトルの羞恥が消えるわけではない。顔から火が出そうだ。
彼のように情交の後に、余裕めいた態度など全くとれないカトルは、羞恥心から逃げ出してしまわないように、自分を嗜めることだけでいっぱいいっぱいだった。
意識を手離すまで握り締めすぎていた余韻で、じんじんと痺れを感じる手で、カトルは掛布を引き上げ顔を隠した。
「もう目が醒めたのか」
「ぅん。……トロワは?」
瞳から下を隠したままのカトルの小さな声。それはまだ、行為の名残で少し掠れてしまっていた。
眠ったのかという問い掛けに、トロワは答えず微かな笑みを深くした。
きっと彼は見ていたのだ。口端を彩る笑みがそれを物語っている。
「……トロワ、君……いじわる、だね」
拗ねた声でそう言って、カトルは堪らず布団をすっぽりと頭から被ってしまった。
「俺のどこが、意地が悪いんだ?」
端から覗いている白金の髪を弄び、布団を剥ぐように中に手を差し入れてくる。カトルがいやいやするのを承知で潜り込む手。これも意地悪とは言わないのだろうか。
「もぉうー!」
弛緩した身体に力が上手く入らないカトルは、まだ大きな声が出せない。
抗議の声を上げるカトルを、トロワは布団ごと抱き締めた。
ぬくもりに包まれ、布団に潰される格好になったカトルは、そこにあるトロワの心音が聞きたくて。火照ったままの顔をそろそろと照れ臭そうに出し、ぴたりとトロワに張り付いた。
少し前よりずっと、触れられるのが恥ずかしい。でも、もっと……しあわせ。
「カトル、春が待ち遠しいな」
二人で暮らす約束。
本当にカトルはトロワだけになってしまったから、もし、投げ出されてしまえば、どうしていいのかなんてわからない。だから、カトルの不安を取り除くように、結ばれたあともその想いはまるで変わらないと――深まりゆくだけだと――伝えてくれるトロワはなにより優しいとカトルは思う。くすぐったさに心身がもぞもぞとするほど、嬉しくてたまらない。
「僕もはやく、トロワと一緒に暮らしたいな。……一緒のときを、たくさん、たくさん、すごしたい」
「ああ、カトル。二人で過ごしていこう」
「うん。ずっと、ふたりで……」
『生きていこう……』という言葉は、二人の重ねた唇の間に消えた。
今まで、先も見えずにいたことを思えば、希望が見えるぶん、ずっと楽しく、じれったい毎日をトロワもカトルも過ごすだろう。
いつの間にか雪は止み、雲間から新しい年の陽が覗いていた。
二人はあたたかな春に思いを馳せて、想い合う人との新居での生活に胸を躍らせた。
安らぎに満ちた春の陽が、二人の許に降り注ぐのは、もうすぐだ。
【 process――step 5-2 】
その後、なにもないまま今年も終わろうとしていた。
適温を維持する空調と、隣室に敷かれた寝心地の良い分厚い布団が憎い。ぴたりと二組が寄り添っているから、なお憎い。カトルの使用する枕がいじらしくトロワのほうに寄っているから、悲しいくらいに、憎い……。
きっちりとした和装では勝手が違うのだろうが、特別形に拘らない今は、リラックスできると言って、カトルは浴衣を気に入り、外出する以外の室内に居る間は、終始浴衣に羽織というスタイルで通していた。
浴衣姿に少し膝を崩して座っているカトルは眺めのいいものだが、眼に入るそれが背中ばかりでは……。
まるみのある頬に衿から覗く白いうなじ。時折ごそごそと動く、使わずにいたのかと思えるほどに柔らかそうな足の裏。普通年令を重ねると、皮膚が多少硬くなり少しは可愛げがなくなるものだが、カトルはちゃんと大地を踏みしめて生活してきたのだろうか。可愛らしすぎるものばかりを有しているカトルに、トロワは翻弄されるばかりである。
カトルに踊らされていると、そこまではトロワ本人も把握しているのだが、人格が崩壊ないし破綻しているというレベルで、人にはカトルバカだと思われていることまでは自覚がなかった。
だが、気がついたところで、まったく治りようがないため、自覚の有無はどうでもいいのかもしれない。
「あれ……。今の番組終わってしまったのかなぁ」
トロワがもの悲しさに思いを馳せて、そのまま善からぬ方へと進んでいっていると、カトルが首を捻るように言った。
画面に眼を遣ると先程までの賑やかな会場風景とはまるで違う、静かな野外の映像に切り替わっていた。
この国に生息する独特の曲がった枝振りを持つ常緑樹が、印象深く影絵のように紫紺の空に浮かび上がり、月がその葉先にかかる。騒々しかったぶん寂しくさえ感じられる情景だが、凛と枝を伸ばす樹の様や、静まり返った夜空は趣を感じられ、好ましい心象を与えてくる。喧騒から隔絶した映像は静止画かとさえ思われた。
「ねぇ、トロワ。今ので終わりなのかな?」
「随分と様子が違うようだから、違う番組だろ」
今までそんな至近距離から脇目も振らず観ていて、どうしてカトルはトロワにそんなことを訊ねるのだろう。
あからさまに打って変わった映像に、適当に観ていた人間でさえもなにか違うと感じるだろう。トロワに構ってもらいたいだけなのだろうか。わざとボケているのか、全く内容を理解していないのか。トロワに真実はわからない。
漸く、身体をこちらに向けたカトルは移動して。トロワと向かい合う形でテーブルに乗っかるように身を乗り出し、そこに肘をついた。
お行儀は良いとは言えないが、好意的ににっこりと微笑むカトルの表情が、全てを打ち消してしまう。
なにかトロワと話したいのだろう。他愛無いことでもいい。カトルはトロワの声が聞きたいのだ。
カトルは自分の空になってしまった湯飲みと、トロワのあまり減っていないがすっかり冷えてしまった湯飲みを見て「よいしょ」と、立ち上がった。
「淹れ直してくるね」
極上の笑顔がなにより嬉しい。
たとえ、ポットから注がれたお湯で淹れてくれた緑茶であろうと、美酒にも勝る。トロワは自分自身やその他の者が淹れたお茶は残しても、カトルが淹れてくれたものは、一滴たりとも残すようなことはしないだろうと思った。
「そう言えば、汗をたくさんかくトロワって見たことがないや。それって、やっぱり体質なのかな」
もともとトロワは水分を必要以上には摂らないためか、汗もあまりかかない。
「体質かもしれないが、俺には習慣もないからな」
「君と比べると僕は随分、水分を摂るもんね。どうしてこんなに違うのか不思議だね」
トロワの言うのは、お茶の習慣ことだ。
カトルはトロワとは正反対に、暇さえあれば紅茶などを飲む人間だった。
優雅な生活を送っていた人間特有の感覚なのか、とにかく一服つくのが好きだ。ピースミリオンにいるときでさえ、カップでとは限らないまでも、一息つくごとに、カトルはストローでちゅるちゅると水分を摂っていた。
必ずしも喉に渇きをおぼえているのではなく、癖のようなものなのだろう。
急須のお茶の葉を替えているカトルを観ながら、まともな会話ができ歌合戦が終わってくれたことに、トロワは心から感謝していた。
「カトルは俺とは逆に……」
続く、汗をかくんだろうな。という言葉をトロワは飲み込んだ。
確かめてみたいという要求が頭をもたげたから。
「なんだい?」
お盆に二人分の湯飲みを乗せたカトルが、直ぐ傍まで戻ってきていた。
「いや……」
膝をついてお盆をテーブルに下ろすと、湯飲みをひとつ、トロワの目の前に置く。細い手首に眼を奪われた。
そのまま伸ばしかけたトロワの腕をすり抜けるように、カトルはまた立ち上がり、お盆に余る湯飲みをのせたまま移動して、先程座っていたところへ腰を下ろしまった。
最初の位置に戻っただけなのに、今までよりも遠くに感じる距離。同じはずなのに。
つけたままのテレビに背を向けて、手持ち無沙汰にカトルは湯飲み中の水面の動きを見つめている。
「カトル」
トロワに呼ばれたあと、カトルは嬉しそうに顔を上げた。
見つめたトロワの唇が微かに笑みを湛え。カトルはなにか意を決したように口内を湿らせる程度に一口お茶を口に含んで、それをごくんと飲み込んだ。
少し顔色を窺うような素振りをしてから、体の向きを変えると、畳に手をついてズルズル這うようにして、トロワの横に移動してきた。
赤ん坊のはいはいを見ているような危なっかしさと、違う匂いも同時に感じる。
えへへ……。と、笑うカトルは、ちょこんとトロワの傍に身を置いた。
「なあに?」
トロワの浴衣の端をカトルが握り、にこりと笑ったときに。
ひとつ鐘が鳴った。
低く響く鐘の音が長く尾を引く。
二人が画面に視線を向けると、照明に照らし出された大きな釣鐘が名残で振動していた。
他になにも起こらない。ゆったりとした間があいて、画面が切り替わると、先程と似ているが別の釣鐘が映し出された。
そして、民族衣装か何かに身を包んだ人物が、また勿体ぶった動きのあと、反動に乗せて鐘をついた。
延々とそれが繰り返される。
「除夜の鐘って言うんだって」
カトルがすぐ近くで言った。
「ヒイロに聞いたのか」
「うん。そうだよ。人の煩悩を浄化するような意味があるって言ってたかな。たくさんの鐘を鳴らすんだって」
うろ覚えで大雑把な知識しかカトルには無い。トロワが興味を示したように見えたため、きっちりとメモでもしておけばよかったと思っていたが、トロワにとって重要なのは正しい情報ではなく、カトルが発する声と唇の動きなのだ。
除夜。今年最後の夜。
二人で過ごせることを幸せだと思える。
辛気臭くなりそうなスローテンポで奏でられる鐘の音も、こんな夜にはしっくりとくる。
今はいくつ目の鐘が鳴ったのだろうか。
無音の室内に響く音は、しんみりと胸を揺らす。
そのためだろうか、カトルがトロワに、そろりと身を寄せた。
潤む大きな瞳はゆらゆらと。下からゆっくりと視線を上げて。トロワの顎、唇、鼻梁を掠め。そして、翠の瞳に辿り着く。
きゅんと胸が締め付けられる憂いに満ちた瞳。
物言わぬ、それでいて、ときに雄弁なトロワの瞳は、カトルを縛り拘束する。
角度が。
視線を合わせるための動きは、そのまま口付けに変わる。
瞳を閉じて、惹き寄せられるまま、どちらともなく、二人は唇を重ねた。
トロワの腕がカトルの背を抱き、カトルは躰をトロワに委ねる。
口付けて。すぐに離れ、細く息を衝いたカトルの蕩けるような柔らかな唇に、トロワは角度を変えて、再び口付けた。
「……ぅ……んっ」
少し、トロワの動きが掴めない。今までより熱いトロワの吐息。抱き寄せられる腕の力も、逃げることを許さない強さで。
ドキドキとカトルの頭の中で鼓動が鳴る。
火照りで耳まで熱く。沸騰した血で、全て内側から溶けてしまいそうだ。
カトルの中、怯える気持ちが生まれるのは否めない。
だが、触れてくれるトロワが愛しい。この身が嬉しい。
肩を抱くトロワの手は力強くて大きいと、今更ながらにカトルは思い。無駄だとわかっていたが、息がしたくて少し身じろいだ。
腕の中で瞳を閉じたまま眉根を寄せて、身を捩ったカトル。その動きを、羞恥からの軽い拒絶かとトロワは思い、逆に閉じ込めるように深く抱くと、頬に口付けた。
滑らせた唇を、カトルの柔らかな、花よりも鮮やかな色みをした耳たぶに寄せ、トロワは秘められていた激情を溢れさせた。
「……カトル――愛している」
この言葉が全てを上回るから。機転の利いた言い回しを持ち合わせていないトロワは、飾らずにその胸にある深く根付いた想いを告げるしかない。
愛を囁いて、求めて。小刻みに震える小さな躰をきつく抱き締める。
震えるさままで愛おしい。
今までどうして、この人に触れずにいられたのだろう。
一度手にしてしまえば、止まらない衝動。膨れ上がる愛しさ。もう、力を緩めることなどできないから。
カトルが無意識の媚態で、ねだるように軽く唇を尖らせ、トロワはその愛らしい唇を啄んだ。
ただ、唇を重ね合わせるだけで、込み上げる至福感。
口付けが深くならないうちに、カトルはトロワの身体に縋り、その肩に甘えた素振りで額を擦り付けた。
そうしたまま、照れているのか、カトルはなかなかその顔を上げようとしない。
忍び込むように、トロワが片手を頬に添え、顎のほうへと流れるように輪郭を辿った。
その感触に、くすぐったそうに肩を竦めたカトルの姿に、トロワは微笑を洩らす。
手で促して、無理に顔を上げさせると、瞳が濡れていた。下睫毛がいつもより、くっきりと見える。
瞬きに合わせ、儚く、溢れ出した雫がその頬を伝った。
「トロ、ワ……」
呼ぶ声は幼く。救いを求める声のよう。その人の伸べた手を、取らずにいられるわけがない。
ひっぱるようにトロワの浴衣を引いた。しっとりと瞳を閉じたカトルの頬の泪を、トロワは唇で掬い取る。
これ以上押さえられずに、トロワは低く呟いた。
「カトル……好きだ。おまえが欲しい」
その声に、その想いに、カトルは震えた。
驚きと同時に、初めて告げられたトロワの言葉に、込み上げる歓喜。
どうしてこんなにせつなく軋み、躰の奥が震えるのか。
ずっと、ずっと、彼を想っていた。
トロワがたとえ求めてくれなくても。身を投げ出した彼を目の当たりにしたあの瞬間から、きっとカトルの中では。
「僕は……君の……もの、だよ……」
カトルは小さく揺れる、泣くような声を出した。
その言葉をカトルの口から聞いたとき、トロワはもう、自分を止められなかった。
壊れそうに儚い、最愛の人を抱いた腕が違う意味を持つ。
「壊してしまう」
「……構わない、から。……僕が、そうして……ほしいん、だ……」
カトルは泣いて。
「…………君の、好きに、して」
精一杯の覚悟を持って、トロワを受け入れた。
欲した人に希われる喜びは、トロワの残る理性を消し去った。
どうしても力みの取れないカトルの背中を抱いた腕を、下へと滑らせながら脇腹に這わせ。びくりと身じろいだカトルの意識が、そちらのほうへと行った隙に、緩んだ唇の間にトロワは侵入した。
人を慕い愛することが欲深いことならば、誰よりも深い欲情にまみれたい。
羽織の胸紐を解くことさえも、もどかしい。
寛げるように衿元から手を差し入れ。首筋に手を充て、直接触れた素肌の熱さにトロワは溜め息をつく。
すべらかな白い肌は、今はまださらさらとして。触れたところからうっすらと汗が滲むと、手のひらにしっとりとした馴染みを見せた。
カトルの線の細さを確かめるように、首元に顔を埋める。
鼻腔を髪の淡い香りにくすぐられ、たまらず撫で上げたうなじ。細い髪を乱し、トロワはカトルの染まった耳朶を緩く吸うよう柔噛んだ。
媚態ともとれる仕種をして。濫りな嬌声は上げずに。苦しげなくぐもった吐息と、甘やかな喘ぎを零す愛しい唇。堪える姿が悩ましい。
嬌羞に泣き。カトルは、愛しさで求める。
恥じらいは、艶めかしく色をつけ。
縋りつく細い腕は力を込めて。迫りくる未知の感覚に、カトルの指先が悲鳴を上げた。
トロワは袷から忍ばせた手で、瑞々しい脚線をなぞり。たおやかに蠢くその華奢な躰を、募らせた一途な想いごと押さえつけた。
【 process――step 6 】
ぼんやりではあるが意識が覚醒した。
そのとき、カトルの朧気な視界にトロワが居た。
上手く焦点も合わせられないような近く。
眠った顔を見られていたと思ったら、カトルは恥ずかしくて赤面してしまった。
ここに来てから一度も、トロワよりも先に目醒めたことがないカトルだったが、やはり意味が違う。
やけにだるい身体に困惑しながら、ごろごろとする感触で浴衣を身につけていることに気がついた。
身体の前で緩く帯が結ばれている。トロワが着せてくれたのだろう。
カトルのほうへ身体を向けて、肘をついて側臥の形で横になっているトロワが、布団の中で手を伸ばしてきた。
先刻の細やかでいて力強い愛撫を思い出させるような無遠慮さで、トロワがカトルの腰をやんわりと撫でた。
トロワからすると、無理をさせてしまったカトルを労る、慈しみの行為なのかもしれないが……。他意はないとカトルもわかってはいても。
愛おしんでくれる想いは否応なく伝わるのだが、それでもカトルの羞恥が消えるわけではない。顔から火が出そうだ。
彼のように情交の後に、余裕めいた態度など全くとれないカトルは、羞恥心から逃げ出してしまわないように、自分を嗜めることだけでいっぱいいっぱいだった。
意識を手離すまで握り締めすぎていた余韻で、じんじんと痺れを感じる手で、カトルは掛布を引き上げ顔を隠した。
「もう目が醒めたのか」
「ぅん。……トロワは?」
瞳から下を隠したままのカトルの小さな声。それはまだ、行為の名残で少し掠れてしまっていた。
眠ったのかという問い掛けに、トロワは答えず微かな笑みを深くした。
きっと彼は見ていたのだ。口端を彩る笑みがそれを物語っている。
「……トロワ、君……いじわる、だね」
拗ねた声でそう言って、カトルは堪らず布団をすっぽりと頭から被ってしまった。
「俺のどこが、意地が悪いんだ?」
端から覗いている白金の髪を弄び、布団を剥ぐように中に手を差し入れてくる。カトルがいやいやするのを承知で潜り込む手。これも意地悪とは言わないのだろうか。
「もぉうー!」
弛緩した身体に力が上手く入らないカトルは、まだ大きな声が出せない。
抗議の声を上げるカトルを、トロワは布団ごと抱き締めた。
ぬくもりに包まれ、布団に潰される格好になったカトルは、そこにあるトロワの心音が聞きたくて。火照ったままの顔をそろそろと照れ臭そうに出し、ぴたりとトロワに張り付いた。
少し前よりずっと、触れられるのが恥ずかしい。でも、もっと……しあわせ。
「カトル、春が待ち遠しいな」
二人で暮らす約束。
本当にカトルはトロワだけになってしまったから、もし、投げ出されてしまえば、どうしていいのかなんてわからない。だから、カトルの不安を取り除くように、結ばれたあともその想いはまるで変わらないと――深まりゆくだけだと――伝えてくれるトロワはなにより優しいとカトルは思う。くすぐったさに心身がもぞもぞとするほど、嬉しくてたまらない。
「僕もはやく、トロワと一緒に暮らしたいな。……一緒のときを、たくさん、たくさん、すごしたい」
「ああ、カトル。二人で過ごしていこう」
「うん。ずっと、ふたりで……」
『生きていこう……』という言葉は、二人の重ねた唇の間に消えた。
今まで、先も見えずにいたことを思えば、希望が見えるぶん、ずっと楽しく、じれったい毎日をトロワもカトルも過ごすだろう。
いつの間にか雪は止み、雲間から新しい年の陽が覗いていた。
二人はあたたかな春に思いを馳せて、想い合う人との新居での生活に胸を躍らせた。
安らぎに満ちた春の陽が、二人の許に降り注ぐのは、もうすぐだ。
■FIN■
初出 1999.1.31
初出 1999.1.31
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プロフィール
HN:
たみらむゆき軍曹&碧軍曹
性別:
非公開
職業:
カトル受専門の夢想家(野望)
趣味:
カトルいじり・カトル受妄想
自己紹介:
むゆきと碧
2人のカトル受限定軍曹が
同志を募って
集って憩ってしまう場を
つくろうと
もくろんだしだいであります。
小説や絵を
UPするのであります。
日記は書く気なし!
(そして、
まともなプロフィールを
語る気もなし。。笑)
軍曹はカトル・ダーリンズ
だいちゅきトークが
したいだけでありますから!
「我軍曹ッ!」
の名乗り随時募集中v
いつか、軍曹の集いを
したいものでありまっす★
しかして、
「なぜ軍曹?;」と、
大半の方に思われてるだろう。。
カトル受最前線で戦い続けるため
出世しすぎて
外野にはいかないからの
万年軍曹であります!
ちなみに最近急に
自分のことを、
「4受大臣」とも名乗るように。
「4受大臣補佐官」など(笑)
こ、これは進化なのか!?(笑)
我が魂、
カトル受とともにあり★(ビシッ!)
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(そして、
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したいだけでありますから!
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「なぜ軍曹?;」と、
大半の方に思われてるだろう。。
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出世しすぎて
外野にはいかないからの
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ちなみに最近急に
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