【天使の贈り物】 絶対にクリスマスイブはみんなで集まりたい!
と、いうのがカトルの願いだった。
みんなで集まってささやかでいいからクリスマスパーティーをしたい。みんなでおしゃべりをしながら食事をして、みんなでケーキを食べて。
とにかく、みんなで、みんなで楽しく過ごしたかった。
カトルにはたくさんの家族がいるが、元ガンダムパイロットの面々は天涯孤独の者ばかりだ。
だから、家族で過ごすことを最高のクリスマスだとするならば、みんなであたたかい灯を囲んで共にその日を過ごしたかった。
それはカトルのクリスマスにサンタさんにかなえて欲しい最大の願い事。
ヒイロ、デュオ、トロワ、五飛はみんなと出会う前はどんなクリスマスを過ごしてきたのだろう。
独り孤独にその時間を特別ととらえることもなく過ごしてきたのではないか。
おこがましいのはわかっている。
でも、カトルは本当の家族よりも強い絆で結ばれていると感じた最愛の仲間たちと、これからは、孤独に震えないあたたかなクリスマスを重ねていきたいと心から思うようになっていた。
カトルはみんなにメッセージカードを送った。
『待ってます』と。
そう、君が来るまで、いつまででも待っていますとアナログな方法だがカードにしたためて四人に送付した。
そして、毎日せっせとクリスマスへの準備をすすめていた。
生まれてはじめての挑戦をしながら、カトルは指折りそのクリスマスイブ当日を待った。
一番早く午前中に現れたのはデュオだった。
「来てくれたんだね! ありがとうデュオー」
全身でハグしながらカトルはにこにことお日様みたいな笑顔を浮かべているデュオの顔を見上げた。
「なに言ってんだよ。誰がカトルからのお誘いを断るバカがいるっていうんだよ!」
「あれ……」
抱きしめられた感触と会話を交わすために身体を少し離した距離から見上げることになったデュオの顔の位置にカトルは目を真ん丸にした。
「でゅ、デュオ、君、すっごく背が伸びてない!?」
その言葉を待ってましたとばかりに、デュオはニタッと笑った。
「そうそう、オレにも遅れ気味の成長期がメキメキきたってことよ。ここ一ヶ月だけとってみても八センチ伸びたんだ。夜に骨が本当にメキメキ鳴るんだぜ。一見、怪奇現象みたいなんだわ、これが」
「す、すごいね」
「おーよ。いくね。夢の180センチ代に行っちまう日も近いかもよ。やー、ますます、モテるよなぁ~、参っちまうぜ」
明るい調子で話すデュオの声を聞きながら、カトルはくすくすと笑っている。
それは好意的なもので、デュオ本人が本気でモテ過ぎて参るとは思っていないのだろう。
嘘だとは思っていないのだが、なにかとタフなデュオをみていると、どれだけの女の子に囲まれても生き延びられそうに思えてしまうのだ。
それに、参っちまうといいながら悲壮感はまるでないのだから、カトルの好意的な笑みは心配からのものではなく、相変わらずの口達者な元気な姿を見せてくれていることに感激してのものだった。
「どうしてこんなに早く来てくれたんですか?」
「そうそう、それ! オレ、ケーキ作ってやろうと思って。カトルのところにはお抱えコックもいるけど、オレの手作りケーキってのもオツだと思わないか?」
「わぁー! すごい、デュオ! ケーキまで自分で作れちゃうの!?」
「ああ、お手のものだぜ。こう見えて」
「器用貧乏な奴だ」
急に声のしたほうに顔をむけると仏頂面のヒイロが立っていた。
会話に夢中になっていたせいで気づかなかったのだろう。それでなくとも、ヒイロは気配を殺して行動する癖がある。
「おめー、器用はいいが、貧乏は余計だ! 器用貧乏じゃなくて、本当の器用君だぞ、オレはァっ!」
「ヒイロ、来てくれてありがとう! でも、どうしてヒイロもこんなに早く来ちゃったの? パーティーは夕方からでいいんだよ」
「クリスマスパーティーをするんだろ」
「うん」
「クリスマスと言えばそれらしい装飾だ。パーティーグッズを持ってきた」
「出た! マニュアル君!」
「黙れ。貧乏」
「うるせーよ、マニュアル男ッ! どこのネット通販で手に入れたんだよ?」
「もうー、デュオ。せっかくヒイロが持ってきてくれたんだから、いじわる言わないで。ありがとうね、ヒイロっ」
笑顔でカトルはヒイロの荷物に手を伸ばす。
ヒイロが両手に提げている荷物は尋常な量ではなかった。
装飾されるものの中に”自分たち“も含まれているのだろう。クリスマス定番の三角の派手な色目の帽子まで用意されていた。
ヒイロはこんな仏頂面でクリスマスを楽しむ気は満々なのかも知れない。
もっとも、カトルが喜ぶ顔を見ることがなにより楽しみなのだろう。
だとすれば、なんでもこなせるスーパーエージェントヒイロには抜かりはなかった。
「オレ、厨房借りるぜ」
「あ、待って、デュオ!」
「あ?」
「僕もお手伝いがしたい。ケーキを作ってみたい」
「よし、いいぜ、カトル。一緒に行こう」
ニカッと好人物な笑顔を浮かべたデュオを無視してヒイロはヒイロで紙で作った輪を繋げて紙の鎖を作る作業を黙々とはじめていた。
装飾がお遊戯会のようだ。
だが、意外と人とのアットホームなクリスマスパーティーがはじめてのヒイロは、無表情の下でご満悦なのかもしれないのだから、この演出も気に入っているのだろう。
「ヒイロ。僕もそれも一緒にしたい!」
「ケーキを作るんだろ」
「でも、でも、それもヒイロと一緒にしたい!」
「お前は一人だろ」
暗に無理だとヒイロは言う。
「あー、大丈夫だカトル、ケーキ作りには焼いたりしてるときもそうだけど、いろいろと手の空く時間もあるから、その間に手伝ってやれよ」
「ヒイロ、いい?」
「ああ」
ご機嫌さが顔に出るデュオと違い、表面上は仏頂面だが、カトルとの共同作業にヒイロのテンションは跳ね上がっていた。
「全部、一人でしちゃわないでよ。お願いだからね!」
「了解」
「ヒ、ヒイロわかってる、任務じゃないんだからね……」
「了解済みだ」
「あ、そうなんだ、よかった」
カトルはケーキ作りに挑戦しながら「ヒイロってときどき、とってもユニークだよね」などと、ハートマーク付きでデュオに語っていたが「確かに独特だわな……」とデュオはそんなヒイロも好きだと言わんばかりのカトルを見ながら頭の痛い思いをしていた。
午後になると五飛とトロワが来訪した。
五飛の早い来訪は「今だ!」と思った瞬間に出向かないと、自分の参加すると決めた意志が変わりそうな気がしたから。尋ねるには早いとわかっていたが、早々にカトルの元へ出向いたのだ。
カトルのことだから、待っているというなら、本当に五飛が来るまで一途にずっと待ち続けるだろう。そんなけなげなカトルの姿を想像すると意外なほどに胸に来るものがあった。それが五飛にこんな行動をとらせたのだ。
トロワはと言うと、たんに他の三人を出し抜こうとしただけのこと。少し、先に来てカトルとの二人だけの時間を過ごそうともくろんでいたのだが、妄想のような予定とは実現しないものだ。
ケーキを焼く間に進んでいた紙の鎖を作る作業をまだ、ヒイロとカトルは談笑しながら行っていた。
それは、ヒイロの手が遅いわけでも(いや、職人のように速い)初めての体験にはしゃぎながら作業をするカトルがたまに混乱するせいでもなく、「ここがパーティー会場だよ!」と満面の笑顔でカトルを指し示した部屋が広大すぎたせいだ。そう。“広すぎた”を超える“広大”な部屋だった。
ヒイロはどれだけ広かろうが、このパーティースペースと位置づけられた部屋を飾りまくる気でいる。ヒイロの中に妥協という文字はなかった。その広大な部屋も想定にいれて、荷物を引っ提げてきたのだ。ヒイロに抜かりはなかった。
カトルは持ち前の丁寧さで作業をしているが、そんな職人みたいなヒイロと素直に言われたことを楽しそうにこなすカトルの二人がかりでも大変な作業になっていた。
そこに奇数組みの二人だ。
当然、装飾のための要員に駆り出されることとなった。
普段なら子供のように部屋を飾るなどくだらん! とでも、どなりそうな五飛が大人しく作業に手を貸そうとしてくれた。彼なりに来たからにはそれなりの覚悟があったのだろう。たかだかクリスマスパーティーに参加することで大げさのように感じるかもしれないが、五飛には大義名分が必要なのである。そんな少々面倒臭い性格をしていた。
トロワはカトルの言いなりな部分があるので、無抵抗に付き合ってくれる。
「最後に来るのは、あのバカか」
「あいつは今厨房にいる」
一番登場の早かったのに五飛にバカ呼ばわりされているデュオが何も知らずに、言われたそばから足早に現れた。
「カトル、ケーキ仕上げにはいるぞー。生クリームとか、こう、クククーッと出して飾りつけとかしたいだろ! 来いよ。うわッ! 仏頂面三人組が勢ぞろいしてやがる」
デュオの場合、軽口を叩くのも好意の印なのかもしれない。
「じゃー僕、ちょっと抜けてキッチンに行って来るね」
「早く行こうぜー」
デュオはカトルを独占するように急かしてその華奢な背中を押す。
かくして、ここは世にも静かな場所になった。
カトルと厨房でケーキを作りながらデュオは、今のあの部屋のことを思うと恐ろしいほど、寒いと感じていた。
よりにもよって、あの無口な三人だけでの作業だ。
きっと、真夜中の墓場よりも静まり返っているだろう。
どうせ、どいつもこいつも、鎖作り職人の匠なのかと思わせるような手際のよさで、終始無言でジャンジャン飾りを作り上げているに違いないのだ。
先程まではカトルがいたからよかったが、あの三人からカトルを抜いたら、どんな会話も生まれるはずがない。
ケーキを完成させて部屋に戻ると、そこは不気味なほどに静寂に包まれた中で、紙が擦れ合う音だけがカサカサとする、不気味な空間となっていた。
デュオはこの三人といて、潤いや華となれるカトルという存在を心から愛しく思った。
五人揃ってから作業はますます手際よく進み部屋の飾りつけを終えた。
ティッシュでこしらえたバラの花もバッチリだ。所狭しと部屋に散りばめられている。最後のヒイロ演出の決定打。筆で勢い良く「merry Xmas」をしたためた書が異彩と威厳を放っていた。
よくもまあこれだけ広い、室内をくまなく飾り付けたものだ。ヒイロの執念さえ感じる。
カトルの満面の笑みはキラキラ輝く光のようだった。
夕方から食事だけでもできれば幸せだと思っていたのに、こんなに早い時間からみんなが揃うなんて思ってもみなかった。この部屋を飾りつける時間もカトルの宝物になるだろう。
サンタさんは純真なカトルの願いを叶えてくれたのかもしれない。
後はカトルが用意していたモミの木に飾りをつけていくだけだ。
満面の笑顔で、モミの木に可愛らしい飾りや雪に見立てた綿をつける。
最後の仕上げにモミの木のてっぺんに大きな星を飾り付けるだけとなった。
当然、その作業のクライマックスはカトルがすることになった。
最初は誰かがやってと一番の醍醐味と知って譲ろうとしていたカトルだが、断固拒否をする仏頂面達と笑顔のデュオに後押しされて、カトルは有り難くワクワクとした面持ちでその作業にあたることになった。
椅子の上に立ってもカトルが背伸びをするくらい高いモミの木のカトルは少々苦戦気味だ。
一瞬、グラリとカトルがバランスを崩したときに、すかさずトロワがその身体を支えた。
「わっ!」
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう、トロワ」
美味しいところは持っていく。きっと、その場所をキープしスタンバイしていたに違いなかった。
と、いうものの、椅子の四ヶ所に男共が構えているのだから、どちらにバランスを崩すのかは運次第だったのだろう。
この三つ巴を超えた四人の恋敵がそろい踏みするという場で堂々とカトルを抱きしめられることはこの上ない贅沢だ。
もっとも、この四人が機能するのも、愛されているがゆえに五人揃うとトラブルメーカーになりそうだと思われそうなカトルが居てはじめて上手く作用するのだった。
ヒイロが用意していた派手な三角帽子をおのおの被り、食事をしながら、楽しそうに会話をしているがしゃべっているのは主にデュオとカトルだ。それにたまに強く五飛の突っ込みが入る。ヒイロとトロワは無言無表情でカトルと過ごすクリスマスという場の空気も幸せに吸収していた。
この五人が一つの机を囲むと、心持ち見た感じがカトルのお誕生日会という雰囲気があることは否めない。
それでも、誰しもが今を幸せだと思っているならいいのだろう。
クリスマスにつきもののプレゼント交換会では最悪なことが起きた。
これは言わずもがなだが、歌を歌う奇数組みが不気味だったということだけではない。
トロワにデュオの用意したネコ耳付きの帽子が、ヒイロに五飛が用意したパールピンクのチャイナ服が、デュオにヒイロが用意した手作り指人形が、五飛にカトルが用意したラグジュアリー感のある芳香のするバスエッセンスが当たってしまったのである。
カトルにはトロワが用意した純白のバスローブが当たったのだが、これは喜べるものなのだろうか。
カトル以外の四人は完璧にプレゼントの選択をカトルへ贈るものとして、想定していたとしか思えない。バスローブもSサイズだった。
カトル以外なんとも自分本位な人間たちである。
これでは罰ゲームだ。
プレゼントを手にしてキャッキャとはしゃいでいるのがカトルだけだと言うのが、切ない絵面である。
勝者のトロワは自宅にお揃いのバスローブを買って帰ろうと決めていた。それを知ってもカトルは笑っていられるのか。……きっと心の底から「わー、おそろいだねー!」と喜ぶだろうから、その無邪気な素直さが愛おしい。デュオに続いてトロワも、いや、ほかの二人もそんなカトルが愛しいとそう思うだろう。
たわいもない会話を交わしながら、暖かな室内で大好きなみんなと過ごすクリスマスイブはカトルにとっては本当のぬくもりのある最高のものだった。
初体験のことばかりしているから、それも楽しさに華を添えている。
プレゼント交換会だって初めてのことなのだ。
でも、特別にカトルはみんな一人ずつに手編みのマフラーを編み上げていた。
編み物なんて初めてのことだったけど、手先が器用なカトルの作ったマフラーは編み目も綺麗にそろいよく出来たものだった。
それぞれをイメージして色を決めて、似合いそうなものを編んだ。カトルはこれを夏の間から始めていたのである。忙しい仕事の合間をぬって心を込めて編み上げた。
みんなの喜んでくれる顔が見たくて。
「似合うといいんだけど」
「大切にする」
間髪いれず、当然のようにトロワは感謝の意を述べる。
今夜から毎夜そのマフラーを抱きしめて眠りにつくのかもしれない。
みんながそれぞれ礼を言って素直にプレゼントを受け取ってくれてことにだけでも、カトルには感動だった。
ずっとはしゃいでいたカトルは体力が切れて、デュオの話に相槌を入れながらも、とろとろと居眠りを始めてしまった。
そんなカトルにそっと毛布をかけた。
カトルの希望である。本日は五人で雑魚寝の初体験もしたいらしいのだ。
「ありがとう、みんな。ステキなクリスマスイブだったよ」
今にも閉じられてしないそうな目で四人を見渡す。
「また、みんなで集まろうね」
「おお! カトルが誘ってくれるんだったらな」
気のいい返事をしたのはデュオだけだったが、他の三人もまんざらでもない顔をしていた。
カトルを中心に放射線状に四人の男どもは眠ることになった。この体勢が決まるまでの道のりは長かった。
そのまま深夜になって、ゴソゴソと動き出した男が。
それはデュオだった。
こっそりツリーの傍に眠るカトルに近づいた。
夜這いか。
この雑魚寝の状態で。
熾烈を極めたカトルの隣に眠る権利争いもまだ覚めやらぬのに。
決着がつかないから、この放射状という配置になったわけであるし。
と、思ったが、なにやら、洒落たラッピングのされた箱を、ツリーの下に置いていたカトルの小さな靴下に入れ込もうと足掻いている。カトルの靴下が小さくて入らないのだ。
これは定番の朝起きると靴下の中にプレゼントが入っている。ということをデュオはやろうとしていた。
そんなことは想像しなくたってわかる。こんなことが起っていれば、朝起きたカトルは感激するに決まっているのだ。
デュオはカトルのために数枚の写真が飾れる凝ったデザインのフォトフレームを用意していたのだが、デザインの分だけデカイ。
自分の写真を飾って欲しいと言う厚かましい予定付きでのプレゼントだ。カトルならば、五人で写った写真を飾るだろうが。
そんな四苦八苦しているところ、肩をガッツリ掴まれた。握力で肩の骨が折れるかと思うような勢いでそんなことをしてきた者はトロワだった。
トロワはトロワでカトルのためにアンティークのオルゴールを用意していた。寂しいときに聞いて欲しいと。意外とまともなことも考えているようだ。デュオほどは厚かましくないと言いたいのだが、自分を思い出しながら聴いて欲しいと思っているのだから、やはり人のことは言えない。
しかし、そんな箱状の大きなものがフォトスタンドさえ入らない小さな靴下に入るわけがない。
その行き場のない苛立ちをお互いにぶつけ合う。
無言で押し込め合いを繰り返していると五飛も参戦してきた。
「おめーまで!」
「黙れ! カトルが起きるぞ」
小声で五飛が一喝する。
五飛は耳隠しの付いたニット帽をカトルにプレゼントしようとしていた。
「なんで、ニット帽なんだよ?」
「これを身につけていれば、なにかあったときに頭の防御力が上がる!」
「おい、カトルがいつなにと戦うっていうんだ?」
五飛にキッと睨まれた。
が、デュオの疑問は不思議なものではない。どちらかと言えば不思議なのは五飛の発想だ。それに意外に趣味がファンシーで可愛らしい。中身を見ればデュオならばそのプレゼントを選んだ五飛の姿を想像して大笑いだ。
「カトルは少々のことでは起きない」
気がつけば、そう言いながらヒイロが格別どデカイプレゼントを持ち出して来ていた。
サンクキングダムで同室で生活をしていたから、カトルの眠りが深いことは良く知っているのだ。
心なし自慢げに言うさまに、カチンとくる人間はデュオだけではない。
さも、知っていて当然、俺はカトルのことを一番よく知っていると言わんばかりの口ぶりなのだから。
「でも、もしかしてってことがあるだろ! どいつもこいつも、静かにしやがれ!」
一番多く口を利いているデュオが言っても説得力に欠ける。
カトルは本当に心地良さそうに眠っていて、二人きりなら、少し悪い気を起こしそうなほど無防備だった。
四人がカトルの靴下を相手に激戦を行っているさまは、恐いものがある。
小競り合いに殺気まで放っている人間がいるせいだ。
特に五飛は常に人生闘いなのだろう。
結果、ヒイロがカトルのために作った手作りのヒツジのぬいぐるみの足一本だけを靴下に入れ込むことで四人は妥協したのだった。殴りあいにならなくて本当によかった。
クリスマスの朝に目を覚ますと、一面、血の海だったら、それは恐ろしい体験になってしまう。
小さな靴下を履いたヒツジのぬいぐるみの周りに三つのプレゼントも集めて置き、四人はやっと納得した。放っておくと朝まで小競り合いをしているか、強引にプレゼントを入れ込もうとして、誰かが靴下を木っ端微塵に破りかねない。
そんな危険は回避されたのである。
「なあ、なあ、カトルのヤツ、朝起きたらどんな顔すると思う?」
「愚問だな」
「あーそうですか、オレだってわかってるよ。根暗の三人がかりでハモるなよ」
眠りからカトルが覚めたときの最高の笑顔と、強い感激と感謝のハグを思い描きながら四人は眠りについた。おのおの枕元に我らが天使カトルからの贈り物を置いて。
自分へのハグだけを想像しているのは、個性がそれぞれでマイペースな性格をしている証拠だろう。
――そして、夜は更け最良のクリスマスの朝が来る。
■FIN■
2013年10月 書き下ろし