〔――愛しき君は愛される人――〕
Heero、Duo、Trowa、Wufei
×Quatre
訊かれたから、カトルは正直に答えただけなのだ。
――次の休暇には何がなさりたいですか?
みんなと逢いたい。
逢って、日本の夏を満喫したい。
『地球のJPA地区の夏』なんて発想はヒイロの受け売りだ。
(なあんてね……)
元GPのメンバーが忙しいことは、よくわかっている。集まれっこないことも。
だから、ただ、空が飛べたら楽しいだろうね。くらいの気持ちで言ってみただけ。
なのに、叶ってしまった。
誰が、どうやって?
それは、異常に簡単すぎるものだった。
秘書がデュオに連絡を取り、動きの掴める五飛とトロワにデュオが連絡を回し、トロワが最終的にヒイロをキャッチしたのだ。
所在を明かさずに行動するヒイロが一番捜すのが困難な相手なのだが、トロワはカトルのためならば地獄の鬼でも引っ張り出して来ることくらいはする男だ。
使われたメッセージも実にシンプル。
『カトルが……』
だ。
カトルがなんなんだ?
これだけで、あのヘンテコな四人が本当に集まってしまった。意味のわからないままに四人がカトルの滞在していたJPA地区に集まってしまったのだ。
キョトンとしたカトルを囲んで当然始まるのは尋問なわけで、
「で、カトルお前、どうしたんだよ?」
「なにもしないよ」
「何かあったのか」
「いつもと同じだけど」
「グズグズしないで早く言え!」
「だって、用事なんて」
「なぜ、俺の居場所をばらした」
「誰にも言ってないよ」
カトルは居並ぶ背の伸びてしまった元戦友たちを見上げて、大きな瞳をきょろりとさせた。
「逆に質問させて。どうしてこんなに急に集まっちゃったの?」
「お前が呼んだだから!」
口々にそんなことを言うのに、カトルはびっくりとした。
「それ、なんの誤解? ぼく、呼んでないよ。だって君たち忙しいんだもの……」
「トロワから突然、お前に何かあったらしいと言われたんだ」
どれだけのスキルがあるのか、神出鬼没のヒイロのことさえ掴まえて、文通みたいに連絡を取ってくるカトルなのに。直接送ってこないから気になった。自分では通信も出来ないほどじめついているのかと思ったら、いつもと同じ心身ともに健全な天使の笑顔でいたものだから驚いた。
「ヒイロぉ、怒んないでよ。眉間のシワが恐いから」
「いつもある!」
「ひゃっ! やっぱり怒ってる」
「ヒイロの地声だ。それに眉間の皺も地だ。いちいち気にするなカトル」
トロワは少年という言葉が今やまったく似合わない顔でフォローをする。
よくわからないが、寡黙なトロワなのだが、何故かこの二人の間に入るのは苦ではないらしい。諌める声が父のもののように落ち着き払ったものだった。
「トロワぁ」
ヒイロをチラッと見ると、カトルは少し口唇を尖らせて『お父さん』の背に逃げ込もうとする。自分のものよりも数段しっかりとしたトロワの手首を握ると、クルッと方向転換し、その背中の陰に入った。
カトルは知っている。トロワはいつでも誰から攻撃があろうとも、臆する事無く防御壁になってくれる。だから、ついつい甘えすぎてしまうのは自分の悪い癖だということも知っていた。だが、わかりつつも、いつの間にか始まった、デュオと五飛の仲の良い口論を彼の背中に身を隠しながら聞いているカトルだった。
デュオと五飛が舌戦を繰り広げているが、この流れで考えると、それは自分のことが発端に違いない。騒々しいそれも、耳にすれば、懐かしく、愛おしく感じる響き。
「怒ってるの?」
スタイルの良い四人の男が動きを止め、その窺うようなか細い声を聞いた。
カトルがいつの間にかトロワの背中から出てきていたのだ。雪のように白い肌の中で、震えるように頬が紅潮している。碧い瞳は何を見るのか。
「いや、お前が無事で安心した」
それぞれの口調で出た言葉。それが和音になる。
「お前はもう少し、疲れた顔でもしておけ」
「ヒイロおめえ、うるせーなぁ。このけなげに笑ってるのがカトルの良いところじゃねぇか。な、カトルぅ」
後ろからデュオに肩を掴まれて、ヒイロの真正面に突き出されたカトルは、少し困ったようにむにゅっと口を結んだ。
「ぼく、こういうカオだから……」
どうしたらいいのかわからない。無理をして笑っているわけではないし。福福しい顔に産んでくれた両親に感謝するべきか。
「……まあ、ほんとはヒイロの意見にも賛成だけどよぉ。疲れてるときは、ちゃんと疲れた顔になるといいんだけどなぁ」
知らずに、ぷくっと膨らませていた頬をデュオが人差し指で押すと、空気が逆のほっぺに追い込まれる。デュオはカトルのしっとりすべすべのお肌も好きな男なのでスキンシップは過剰レベルを常にキープしている。カトルは遊ばれながら対処のしようがわからなくて為すがまま固まったままだ。
無言で見つめていたヒイロがデュオの悪戯しているのとは逆のほっぺをに手を掛けた。ぷにっと頬はゆがみ。行き場を失った空気は口からぷふっと抜けた。
「なあに?」
「こっちが聞いている」
「こら、つねんなよヒイロ!」
「軽くつねるくらいならいいが、ひねるなヒイロ。赤くなるだろ」
過保護ナンバーワンと噂されるトロワの線引きは意外とよくわからない。案外、乱暴に扱っても壊れなければいいのだろうか。
「何をしているんだ。用がないなら俺は戻るぞ」
「あ! 待って五飛」
言葉は呪文であったのか、五飛はピタッと固まった。
この堅物でシャイでおまけにナイーブなところのある男はこう見えてカトルを認めていたりするので、邪険にしないのだ。できないというべきか。
と、いうにしても、止まり方が変だ。これでは子供の遊びでの硬直だ。不自然すぎる。
「五飛、仲間はずれになったからって、拗ねんなよ」
デュオは五飛の手を無理やりとると、今自分がちょっかいをかけている方のカトルの頬に触れさせた。触れた肌の温もりを感じながら、五飛はため息を零すように言う。
「カトル、お前は抵抗という言葉を知らないのか?」
「今は抵抗する場面なのかい?」
「良いようにされすぎだ」
「そおう? じゃあ、言うよ。――みんな、やめてください!」
何も起こらない。
ただの屍のようだ。
……ではなく。
だれも止めない。五飛さえも。
「????」
カトルは小首を傾げた。
つつきたい者はつつき。つねりたい者はつねり。触れたい者は触れたまま。それを見つめる視線はあくまでも穏やかだ。
「なにか変わった?」
「いや」
「別に」
「特筆して」
「なにも」
遊ばれているのはわかる。でも、それさえもカトルは嬉しくて。くすくす笑い出してしまった。
忙しいみんなが理由もよくわからないまま、こんなに簡単に集まってくれて、それも見えるほど簡単なはずはなく、相当無理をして時間を工面してくれたんだろう。一緒にいるなんて奇跡のようで。神様のくれたご褒美かもしれないと思う。
少しというか、かなり自信過剰になっても大丈夫という風な声を聞いた気がして。
「みんな、ぼくのこと心配してくれた?」
口角を綺麗に上げた笑みの中の発言で、一斉にすごい眼ですごまれた。
いたたまれない強い眼光の集中放火の中、カトルは身を小さくする。
「怒らないでよォ」
「怒ってない!」
四人分の恐ろしい勢いで言い切られた声がどう聞いても怒っているようなので、カトルが変な集団に絡まれた被害者のように見える。
みんなからすれば心配しない者なんていないことはわかりきったことであるのだから、カトルの問いは話にならない次元のことなのだ。
「カトル、自分の価値を知れ」
瞳を真っ直ぐに見つめると、ヒイロの押し殺したような静かな声が流れた。
他でもない、戦中に個性の塊のようなGPを纏め上げたカトルは、不可能を可能にした、唯一の指揮官なのだから。
「みんな、ありがとう」
涙が込み上げそうな感覚の中で、カトルは天使のようにふんわりと微笑んでいた。
「みんな、だいすきだよ」
そう、みんなが愛した笑顔で。
[FIN]
2008年9月14日 初出
に、多少の加筆訂正をしました
短くともダーリンズへとカトルへの愛だけはつまったお話です。
本当は続きがあったらしいです(ぶったぎったらしい。時間がなかったせいか)
だれか一人とかが特出してなくて、ダーリンみんなが同じように出番があるようにみえているといいなぁ。。
やっぱ、みんなを愛し愛されているカトル様はいいです!v
バレンタインだから、アップしますた(こういうことをするとは、珍しい)
載せといてなんですが、後日訂正してUPしなおすかもしれません;;
こんなお話でもお嫌いじゃなかったかたは拍手してやってくださいね!
ありがとうございましたv