~来タレ我軍曹!×4受限定軍曹&4受大臣憩いの場★~
『夏のしおり』
リクイエスといただいた小説になります。
その、リクエスト、兄弟ネタと臨海学校ネタをくっつけてしまいました。
兄弟の設定はリクエスト通り
長男 ヒイロ
次男 デュオ
三男 トロワ
四男 カトル
末っ子 五飛
となっております。
ただ、足したらネタが膨らむかと思ったら、
なにか失敗してしぼんだ気もする出来に;;
なんか、プロットみたいな怪しい小説ではあります;;
なぜだ;;
自信がないので、もし、いや、楽しめたよってかたがおいででしたら
是非、拍手やコメントしてやったくださいませ!
どうぞ、よろしくお願いいたします。
励ましてやってください;;
反応が鈍かったら今後のリクエスト小説にあたる
モチベーションが左右されそうでする;;
自信がない;;
でも、楽しんで一生懸命書きました!
なので、少しでも同じように楽しんでいただけるかたがいてほしいですー。
ではでは、本文を読むから読み進めてやってください!
『夏のしおり』
一家で唯一わかりやすくみんなに愛されているカトルが希望したのだから、家族総出のイベントになった。
巷の学校では夏に臨海学校が行われると知って、物凄くその行事に興味を持ってしまったカトルは、兄弟みんなで同じようなことをしたいと言い出した。この夏の一番の思い出になるような旅という名の家族で行う臨海学校。未体験のことに関心を寄せるのはカトルが好奇心旺盛なためだ。なんでも一家の行事にしてしまう。
家族五人の先頭に立つ者、仏頂面の長兄ヒイロは念入りに予定を立てた。楽しそうな顔もしないで、楽しんでいるかのように、分刻みの予定を練る。深い眉間の皺はますます深さを増したが、ヒイロはこう見えて楽しんでいたのだ。理解するのは数少ない選ばれし者だけであるが。
それは家族旅行というより本当に学校行事の旅行のようになっていた。別段、カトルの希望が『兄弟で臨海学校』だったからではなく、ヒイロがそんな予定の立て方しか出来ないだけだ。
もっと自由行動が欲しいと思う次男坊デュオなのだが、逆うことに成功したためしがない。長兄は一家の大黒柱であり絶対権力者だった。次兄には容赦のない鉄拳制裁を行ってくる、恐ろしい兄だった。
年はそんなに違わぬのに、なぜ、この兄はここまでのリーダーシップを発揮するのだろう。と思っていたが、良く考えると、ヒイロの立てた予定や目標に賛同するのがカトルだからだ。この四男はほかの可愛げのない兄弟たちと違い愛らしさの塊だった。そして、その愛らしい心身でヒイロが無責任に立てた予定を兄弟みんなで実行したいと無邪気に言い出すのだ。
長男と四男のコンビが結束して、叶わない願いなどなかった。五人兄弟で一番問答無用で恐ろしいと言われているコンビだ。ヒイロは本当に恐ろしいし、誰も無下にできないカトルという存在もある意味恐ろしい。
兄弟揃って人からの注文をおとなしく聞くような輩はいなかったが、この最愛の四男カトルの意見を踏み躙ることのできる人非人はいなかった。
特にわかりやすくカトルを溺愛している三男トロワは、カトルの希望とならば、命がけでなんでも全うする。そんな弟を見ながら、そら恐ろしいと零す次男デュオも結局カトルの笑顔を消すようなことは出来ないでいた。
唯一カトルの希望でも批判できる者といえば、この兄弟の中では末っ子の五飛だけだった。こいつだけは一瞬の衝動にまかせて、カトルにでも「馬鹿馬鹿しいッ!!」とNOを言えることができる存在だったのだ。しかし、結局はカトルの笑顔が曇ることができないのはこの一家の共通点だったために、文句は言うもののカトルからして楽しみである家族単位の団体行動に巻き込まれていた。
これは臨海学校体験をした家族の愛の物語である。
始発列車に乗って兄弟五人は海へとやってきた。
朝に弱いカトルがまだ眠そうにしているのだが、海が見えるにつけ、そのテンションは上がってきたようだ。
「カトル、海の中で寝るなよ」
「うん、たぶん大丈夫」
こういう軽い突っ込みを入れるのはデュオだ。だが、おふざけで言った言葉にカトルは真面目に返答している。
まだ、早朝に近い時間帯のため、日光は耐え難いものではない。
とりあえず、一息つきたいと思うデュオなのだが、ヒイロは事前に四人に配った旅のしおり通りに、円を描いて並んで準備体操を始めた。当然、ちょっと腰を下ろしたいです! なんて希望が通るはずもなく、模範的な準備体操をする長兄と末っ子の間でやる気のない態度をとると、左右から唸りを上げて拳が飛んできた。
「うお! 両方はよけれねーッ!」
二発の拳を受けたデュオは「ゲフンッ!」と鳴いて思わず飛び上がった。
「卑怯者逃げようとするな!」
「いてーなァ、五飛、おめーうるせえなぁ。カトルーこの暴力的なかたたちどうにかしてくれよー」
カトルが困ったように眉を折った。
「ちょっと暴力的かもしれないけど、ヒイロと五飛はデュオのことを思って心配してくれてるんだよ」
「何の心配だよ」
「だって、もし、ちゃんと準備体操もせず海に入って、なにかあったら、どうするの。こういうことはきっちりやらなくちゃ」
「こいつらは優しさで殴りつけてきてるんじゃなないと思うぞ! いいほうに解釈しすぎだろ、それ。目障りだから殴りつけてきてるだけだろうがよ。海に入る前に命がなくなっちまうつーの!」
「お前はカトルの意見がきけないのか?」
こちらも長兄のような顔をしている三男トロワが兄であるはずのデュオに偉そうな口をきいた。
トロワにとってはヒイロと五飛の思いなどどうでもいいらしく、カトルの意思のみが絶対だった。
夏の海のカトルは眩しかった。
普段みることのないショートパンツ姿にパーカーを羽織っている。絹のように繊細ですべらかな肌が惜しげもなく晒されていた。いや、パーカーはジッパーできっちり袷を閉ざされていたし、ショートパンツも膝丈なだけなのだが、普段、露出の極端に少ないカトルの姿と比べると、これでもう、サービス満点なのだ。
瑞々しい肌で織り成されている脚の神秘性は抜群だ。海にも妖精は現れるものだと、兄弟のみならず、周りの視線を釘付けにしている。
そんな外部からの視線を追っ払うのは、おっかない兄弟たち揃ってである。長兄、三男、末っ子は本当に恐ろしい目力で、いらぬカトルに対する邪まな視線を蹴散らしているし、にやけ面と思われがちの次兄もすごめばかなり、恐ろしかった。
普段、団結することがない兄弟なのだが、カトルという存在はこのバラバラな個性を持つ五人をくっつける、接着剤のような働きをしていた。
兄弟四人は口を噤んでいたが、どうもカトルが女の子と間違われているふしがある。カトルが男だとわかれば、邪まな視線も減るのかもしれないが、美しいものを愛でる気持ちはその性別も乗り越えてしまうかもしれないし、こう見えてカトルが立派な男であるという事実はかえって好奇の視線も集めかねなかった。
なので、カトルの性別に関することには触れずに、四人の兄弟が無言で周囲を威圧する視線を送って、誰もカトルにちょっかいをかけれないようにしているのだ。
カトルが男の子でも夏の海でのオアシスになる容姿をしていることは、誤魔化しようがなかった。
海パンいっちょになんてなった日には、おとなしやかな容姿をした清純派がまさかのトップレスになっていると誤解されかねない。
麗しきぺちゃぱい様が世間に晒されるのはどうだろう。少なくとも兄弟にとっては刺激が強すぎる。カトルの神秘のぺちゃぱい様バンザイなのだ。
カトルの容姿はもはや、性別を超えてしまっていた。
そんな、ある意味容姿が浮世離れしているカトルを、周囲の好奇の目から守るのも四人の男の仕事なのである。いや、使命だ。
場所が街から海に移ろうとも、カトルをどんなものからも守ろうとする姿勢は変わらない。
カトルは意外と繊細でいて豪胆なので、守ろうとしていると知れば、それはそれで、面白くないと思い、自分だけが守られる立場になることを潔しとしないのだが。そんなカトルに「俺がカトルを守る、守って、守って、守り抜く!」と胸に誓っている男たちはカトルにそんなことを思っているとは悟られずに使命に当たるのだった。
いつもカトルの周りに不届き者が現れぬよう凄みをきかせている兄弟たちを見れば、尋常ではないと気づきそうなものだったのだが、カトルが物心つく頃にはその兄たちはこんな態度をいつもとっていた。そのため、三人の兄のこの状態を通常モードだと思っている。つまり地顔がそれだと思っているのだ。
そして、弟である末っ子五飛も同じような態度をとるため、それも、またいつもそんなものなのだとカトルは思い込んでいた。
しかたがない、四人は男前だが人相が悪く、いつも怒り顔だったし、ずっと、その特にカトルに変な虫がつなかないように視線を走らせる、通常モード以上にいかめしくなった兄弟たちを見ることが常だったカトルは、その異様にピリピリした空気、周囲の恐れもそれが、普通なのだと思っていた。よく言えばおおらか。
今も兄弟は恐ろしい形相で周囲にガンを飛ばしている。
半ズボンや半そでのカトルは兄弟にとっても、貴重すぎるエロスなのだ。
家にいても半そですらあまり着ないというカトルは本当に露出の極端に少ない少年だったから。
兄弟たちには、この海がパラダイスに見えていた。
惜しむらくは、自分以外の人間を全て排除してしまいたいと思っているがそれが叶わぬこと。できれば、二人っきりでカトルをガン見していたいと思う。
爽やかな海風にカトルは最強タッグだと思う。
柔らかな髪がそよそよとした風でなびき、白金の髪は光を弾いてきらめいていた。
大きな大きな碧い瞳は海と空を映し、いつも以上に美しい。いや、いつでも麗しいのであるが、さらになのである。自然に溶け込むカトルは清らかでさらに美しいのだ。
海の思い出と称して写真をいっぱい取ろうと思ったのは、トロワだけではない。不機嫌に見える人相をしていヒイロとて、にやつき顔のデュオとて同じ気持ちだった。五飛はシャイなので、こういう点は頭数には入らない。いや、入れないのだ。
家族写真のはずが家に帰る頃にはカトル写真集をつくるためのものになっているだろう。
が、家族のアルバムを見るよりも、カトルだらけのアルバムを見ているほうが幸せな兄弟だった。一にカトルの写真、次にカトルとの2ショット写真が大事なのである。兄弟揃っての写真もカトルが写っているからこそ価値がある。四男溺愛のとんでもない変態兄弟だった。
準備体操を入念にしてやっと海かと思ったのだが、ヒイロの予定その一では朝っぱらからの遠泳となっていた。カトルの海パンいっちょ姿は刺激が強すぎると思ったのか、たまたまなのか、遠泳のメンバーにはカトルは入っていなかった。
ボートを漕いでついて来いと長兄は役割分担させていた。
二十キロの遠泳である。プールを泳ぐのではない。波に打ち勝ちながらの遠泳だ。途中でどんなアクシデントが起るかわからないから、万が一のことが起ったときは救護できるように、一人はボートに乗って泳ぐ様子を確認しておくべきだというのがヒイロの主張だ。
「僕もー! 僕も、みんなと一緒に泳ぎたい!!」
カトルは物珍しいイベントごとに全身全霊で参加するつもりでいたので、不安というものを覚えないのか。
このとき「駄目だ」と言ったのはカトル以外の四人同時にだった。
もし、遠泳中に脚でもつってしまっても、ヒイロ、トロワ、五飛では「軟弱だ」とかほざきながら、見殺しにするだろうし、デュオに介抱されるのは気持ち悪いうえに、一生分の借りをきせられそうだった。なにか起っても無事に生き残るには、カトルがボートに乗ってくれなくてはならないのだ。
「遠泳を二十キロに設定したのは、カトルの体力は考慮していなかったからだ」
「大丈夫だよ。僕だって急がなければ泳ぎきれるから」
長兄に続いて三男が畳み掛ける。
「そもそもカトルは泳ぎが得意じゃないだろ」
こういうときはコンビネーション技のように次男も末っ子も口を開いた。
「二十キロという距離をあなどるな」
「そうそう、それに、もしこの遠泳だけでバテちまったら、その後の楽しいこと全部出来なくなっちまうんだぞ」
「カトル、ボートに乗れ!」
ヒイロは一家の大黒柱らしくカトルの目を見て堂々と言い切った。人を狂気に誘う演算システムのついたボートではないから安心だ。
「お前にしかできない仕事だ」
「トロワ、これって、レジャーじゃねーのかよ!」
「うるさい! このさいなんでもいい。俺が先頭でゴールしてやる」
遠泳をもう勝負事とした五飛の声を聴きながら、迷う気持ちは少し残っていたが。
「わかったよ。せっかく一生懸命準備体操もしたんだもんね。身体が冷えてしまわないうちに始めようか」
「わかってくれれば俺はいいんだ」
トロワが得心顔でカトルをキュッと抱きしめようとしたのを、鋭く察したデュオがカトルと立ち位置を入れ替えたため、もう少しでトロワは暑苦しい男を抱擁しそうになった。
ともすれば諸刃の剣の攻撃。デュオも命がけだ。
二十キロもボートを漕いでいるとカトルの櫂の扱いも上手くなる。無事に死人を出すことなく遠泳という項目をひとつクリアした。
焼けた砂浜に帰り着いたときのデュオの安堵は並大抵のものではなかった。
遠泳だというのに短距離勝負のようなクロールで波しぶきを上げながら仏頂面の三人は泳いだのだ。それも、デュオを追い立てるように。後方から迫ってくる三人の勢いのすさまじさが恐ろしくて、速度を緩めることができなかった。遠泳を終えてしばらく経つがまだ心臓がバクバクいっている。
「みんな凄いけど、五飛は特にすごいよねぇ。一番年下なのに、おにーちゃんたちと同じくらいで泳いじゃうんだもの」
「子ども扱いするな! 年もたいしてかわらんだろ」
「どうして、五飛、怒っちゃうの? 僕、関心してるのに」
「俺だけを特出することが、俺を下に見ている証拠だ。それに、『おにーちゃん』とはなんだ。あいつらがそういう言葉が似合うような輩か!!」
「五飛、僕のこと怒ってるの?」
「お、怒って……」
五飛ははっきりした言葉を出せなかった。自分でも怒っているのかそうじゃないのか、よくわからなくなっているせいだ。腹立ちはあったが、それをぶつけてカトルに悲しい顔をされるのは断固として避けたかった。兄たちはカトルは弟の五飛に必要以上に甘いと言うが、五飛もカトルに弱かった。この兄弟四人のDNAにはカトルに弱いと言う遺伝子が組み込まれているのだろうか。
「怒ってなどいないから、その顔はやめろ」
「笑ったほうが可愛いわ! とか言いたいわけだ、五飛は。そんくらいのこと照れずに言えるようになれよなぁ。まったくよぉ」
「お前は黙ることを覚えろ!! お前のようにだらしなく、口を開きっぱなしの男に言われたくない」
「五飛お前以外のヒイロもトロワもそうだけど、なんか、無口で得したことなんかあんのかよ。人とのコミュニケーションがとれないで、周囲の人間に迷惑掛けてるばっかりじゃねーか! カトル、俺も頑張ったんだ褒めてくれよ~。一番速かったの俺だぜ」
「なんだか、デュオ、死にもの狂いって感じで凄かったよね。あんなに速く泳いじゃうなんて、デュオのリードがあったから、みんなすごく速く泳げたのかもね!」
「そ、そっかー……」
三頭のサメに追い立られているように恐ろしかったから速かったとは言えなかった。カトルからしてデュオがリードしていたと見えていたのなら、少し真相は違っているが、デュオにとっては好都合だ。カトルに兄として尊敬もされたいのだ。
真相を見抜いている三人は冷たい目でこちらを見ているが、カトルかなりの興奮状態を表すように握り拳を作ってくれている。この握り拳が可愛いのだ。力一杯、感激しているとその身振りからも伝えてくれるから。これに踏ん張り声での絶賛が加わるとカトル最上級の褒めかたとなる。これをされると、抱きしめて揉みくちゃにするようにグチャグチャ
に撫で回したくなるのだった。
その後、川に移動して魚の掴み取りをして、それで昼食をとったあと、浜辺に戻り、ビーチフラッグ、スイカ割りに水難救助体験にまでした。
水難救助の解説をしたのは、ほかでもないヒイロである。どこからそんな知識をひろってきているのか、ヒイロの知識域は並大抵のものではなかった。
デュオは水難救助というと人工呼吸があるのかと思い、カトルを相手に! と鼻息荒く思ったのだが、ヒイロにあっさり「素人には難しい処置なので覚えなくて良い。必ずしなければならないのは心臓マッサージだ」と言われ、夢は儚く散った。
ちなみに命を救うためならば、心臓マッサージの際にあばら骨が折れてもOKだということで、デュオは餌食は自分だろうと思って戦々恐々とした。
が、本格的に救助訓練用の人形をどこかしらから手配していたヒイロのお蔭で、命拾いをしたのだった。
こんなときに貧乏くじを引くのは自分だとわかっていることが、ちょっぴりせつないとデュオは思う。兄弟揃ってカトル以外はデュオには風当たりが強い。打たれ強いのをよく理解されているから、遠慮がないのだ。
スイカ割りでは目隠しをされた後、高速回転させられて、本当に右も左もわからなくなった。リードしてくれるカトルの声だけを信じて動いた。ほかの面子の言葉なんて信用できるだろうか。嘘は言わないが、暴言が多すぎる。
「馬鹿が、左だと言ってるだろ!」
「馬鹿か、行きすぎだ」
「馬鹿な真似をする前に落ち着いたほうがいい」
と、なぜか、カトル以外の声ときたら、『馬鹿』連呼なのだ。失敬にもほどがある。
その馬鹿連呼の暴言に気がいって、デュオがイチイチ「うるせー!」だの「馬鹿はてめーだろうが!」などと応戦するので、まったくスイカにたどり着かないのだ。そんな醜い言い争いの中で「デュオ、頑張ってぇ、そのまま前だよー」と可愛くも優しい声を送ってくれたのはデュオの心の天使カトルだけだった。
夜はヒイロが五人一部屋に宿泊できる旅館を手配してくれていた。
花火をして、カトル憧れの枕投げが行われるのは当然のことだろう。
死人がでないことを祈るのであるが、どれだけ殺人枕投げ投法で人外のスピードや軌道で枕を投げつけあっても、頑丈な四人は死にはしないし、殺人枕投げの最中にいても、かすり傷ひとつ追わない運の強さがカトルにはあった。
もっとも、もし、カトルにもしものことがあれば、その枕を投げた人間は生きていられないだろうが。
ルールはただひとつ器物破損はNGということだけだった。
ヒイロが考えたルールにしては、常識的だろう。
これが、自宅で行われていたら、室内などどうなってもよかったのだろう。窓ガラスが割れようと、お構いなしで命がけでの枕投げになっていたはずだ。
お世話になっている宿泊先に対する配慮をするという、ヒイロらしからぬまともな思考が動いたおかげで、旅館側に迷惑がかかることにはならなかった。
ただ、枕の直撃のせいで、脳震とうを起こしそうになること、しばしば。
ルールを順守しつつの枕投げも命がけなのだ。
カトルはキャッキャと嬉しそうに楽しそうにはしゃいでいた。
そして当然、軽く枕が飛んでくることがあっても無傷だった。
布団を敷いて眠る場所を決めるのにひと悶着あったとこは当然だろう。
寝床争いで命がけになる兄弟たちを、カトルだけは不思議に思っていた。
カトルの隣で眠りたい! という真っ直ぐな欲望のためにバトルロイヤルさながらの大騒ぎになった。枕投げを超えて彼らは敷き布団すらも投げつけあっていた。
ぐったりなるまで、戦いをして、ようやく配置が確定した。
眠気に勝てなくなったカトルが適当に寝転んでしまったので、戦いがそこで終わりになったのだ。
興奮のさめきらぬ真っ黒な室内の中。男共のハアハアしている息遣いが薄気味悪い。
「みんな、今日はありがとう。一日本当に楽しかったよ」
「まだ、明日もある」
「そうだね、ヒイロ」
「明日は、漁師体験だからな。俺が一番の成果をあげてやる!」
「うん。五飛なら、きっと」
「俺だって、負ける気がしないね!」
「デュオも自信があるんだね」
「明日行うのは底引き網だ。個人戦とはいかないと俺は思うんだが」
「トロワ、ちゃんと、ヒイロが作ってくれた旅のしおりに目をとおしてるんだ」
就寝となってから眠りに落ちるときにカトルは近くにあった手を、キュッと握りしめた。
誰の手だろう。ただ、安心感から眠気を誘われるような心地好さがあった。
「おやすみなさい。みんなで明日も楽しもうね」
「ああ」
「いい夢見るんだぞ」
「おやすみ、カトル」
「お前は朝に弱いから、はやく休め」
「うん、ありがとう、みんな」
眠るのが勿体無い気もしていたのだが、カトルは愛する兄弟たちが夢にも現れてくれそうな予感がして、安堵の中で眠りにつくことが出来た。
明日もまだ楽しい時間と、命がけの変態兄弟のカトルをめぐる戦いは続いていくのだろう。
■FIN■
2013年10月29日 書き下ろし
一家で唯一わかりやすくみんなに愛されているカトルが希望したのだから、家族総出のイベントになった。
巷の学校では夏に臨海学校が行われると知って、物凄くその行事に興味を持ってしまったカトルは、兄弟みんなで同じようなことをしたいと言い出した。この夏の一番の思い出になるような旅という名の家族で行う臨海学校。未体験のことに関心を寄せるのはカトルが好奇心旺盛なためだ。なんでも一家の行事にしてしまう。
家族五人の先頭に立つ者、仏頂面の長兄ヒイロは念入りに予定を立てた。楽しそうな顔もしないで、楽しんでいるかのように、分刻みの予定を練る。深い眉間の皺はますます深さを増したが、ヒイロはこう見えて楽しんでいたのだ。理解するのは数少ない選ばれし者だけであるが。
それは家族旅行というより本当に学校行事の旅行のようになっていた。別段、カトルの希望が『兄弟で臨海学校』だったからではなく、ヒイロがそんな予定の立て方しか出来ないだけだ。
もっと自由行動が欲しいと思う次男坊デュオなのだが、逆うことに成功したためしがない。長兄は一家の大黒柱であり絶対権力者だった。次兄には容赦のない鉄拳制裁を行ってくる、恐ろしい兄だった。
年はそんなに違わぬのに、なぜ、この兄はここまでのリーダーシップを発揮するのだろう。と思っていたが、良く考えると、ヒイロの立てた予定や目標に賛同するのがカトルだからだ。この四男はほかの可愛げのない兄弟たちと違い愛らしさの塊だった。そして、その愛らしい心身でヒイロが無責任に立てた予定を兄弟みんなで実行したいと無邪気に言い出すのだ。
長男と四男のコンビが結束して、叶わない願いなどなかった。五人兄弟で一番問答無用で恐ろしいと言われているコンビだ。ヒイロは本当に恐ろしいし、誰も無下にできないカトルという存在もある意味恐ろしい。
兄弟揃って人からの注文をおとなしく聞くような輩はいなかったが、この最愛の四男カトルの意見を踏み躙ることのできる人非人はいなかった。
特にわかりやすくカトルを溺愛している三男トロワは、カトルの希望とならば、命がけでなんでも全うする。そんな弟を見ながら、そら恐ろしいと零す次男デュオも結局カトルの笑顔を消すようなことは出来ないでいた。
唯一カトルの希望でも批判できる者といえば、この兄弟の中では末っ子の五飛だけだった。こいつだけは一瞬の衝動にまかせて、カトルにでも「馬鹿馬鹿しいッ!!」とNOを言えることができる存在だったのだ。しかし、結局はカトルの笑顔が曇ることができないのはこの一家の共通点だったために、文句は言うもののカトルからして楽しみである家族単位の団体行動に巻き込まれていた。
これは臨海学校体験をした家族の愛の物語である。
始発列車に乗って兄弟五人は海へとやってきた。
朝に弱いカトルがまだ眠そうにしているのだが、海が見えるにつけ、そのテンションは上がってきたようだ。
「カトル、海の中で寝るなよ」
「うん、たぶん大丈夫」
こういう軽い突っ込みを入れるのはデュオだ。だが、おふざけで言った言葉にカトルは真面目に返答している。
まだ、早朝に近い時間帯のため、日光は耐え難いものではない。
とりあえず、一息つきたいと思うデュオなのだが、ヒイロは事前に四人に配った旅のしおり通りに、円を描いて並んで準備体操を始めた。当然、ちょっと腰を下ろしたいです! なんて希望が通るはずもなく、模範的な準備体操をする長兄と末っ子の間でやる気のない態度をとると、左右から唸りを上げて拳が飛んできた。
「うお! 両方はよけれねーッ!」
二発の拳を受けたデュオは「ゲフンッ!」と鳴いて思わず飛び上がった。
「卑怯者逃げようとするな!」
「いてーなァ、五飛、おめーうるせえなぁ。カトルーこの暴力的なかたたちどうにかしてくれよー」
カトルが困ったように眉を折った。
「ちょっと暴力的かもしれないけど、ヒイロと五飛はデュオのことを思って心配してくれてるんだよ」
「何の心配だよ」
「だって、もし、ちゃんと準備体操もせず海に入って、なにかあったら、どうするの。こういうことはきっちりやらなくちゃ」
「こいつらは優しさで殴りつけてきてるんじゃなないと思うぞ! いいほうに解釈しすぎだろ、それ。目障りだから殴りつけてきてるだけだろうがよ。海に入る前に命がなくなっちまうつーの!」
「お前はカトルの意見がきけないのか?」
こちらも長兄のような顔をしている三男トロワが兄であるはずのデュオに偉そうな口をきいた。
トロワにとってはヒイロと五飛の思いなどどうでもいいらしく、カトルの意思のみが絶対だった。
夏の海のカトルは眩しかった。
普段みることのないショートパンツ姿にパーカーを羽織っている。絹のように繊細ですべらかな肌が惜しげもなく晒されていた。いや、パーカーはジッパーできっちり袷を閉ざされていたし、ショートパンツも膝丈なだけなのだが、普段、露出の極端に少ないカトルの姿と比べると、これでもう、サービス満点なのだ。
瑞々しい肌で織り成されている脚の神秘性は抜群だ。海にも妖精は現れるものだと、兄弟のみならず、周りの視線を釘付けにしている。
そんな外部からの視線を追っ払うのは、おっかない兄弟たち揃ってである。長兄、三男、末っ子は本当に恐ろしい目力で、いらぬカトルに対する邪まな視線を蹴散らしているし、にやけ面と思われがちの次兄もすごめばかなり、恐ろしかった。
普段、団結することがない兄弟なのだが、カトルという存在はこのバラバラな個性を持つ五人をくっつける、接着剤のような働きをしていた。
兄弟四人は口を噤んでいたが、どうもカトルが女の子と間違われているふしがある。カトルが男だとわかれば、邪まな視線も減るのかもしれないが、美しいものを愛でる気持ちはその性別も乗り越えてしまうかもしれないし、こう見えてカトルが立派な男であるという事実はかえって好奇の視線も集めかねなかった。
なので、カトルの性別に関することには触れずに、四人の兄弟が無言で周囲を威圧する視線を送って、誰もカトルにちょっかいをかけれないようにしているのだ。
カトルが男の子でも夏の海でのオアシスになる容姿をしていることは、誤魔化しようがなかった。
海パンいっちょになんてなった日には、おとなしやかな容姿をした清純派がまさかのトップレスになっていると誤解されかねない。
麗しきぺちゃぱい様が世間に晒されるのはどうだろう。少なくとも兄弟にとっては刺激が強すぎる。カトルの神秘のぺちゃぱい様バンザイなのだ。
カトルの容姿はもはや、性別を超えてしまっていた。
そんな、ある意味容姿が浮世離れしているカトルを、周囲の好奇の目から守るのも四人の男の仕事なのである。いや、使命だ。
場所が街から海に移ろうとも、カトルをどんなものからも守ろうとする姿勢は変わらない。
カトルは意外と繊細でいて豪胆なので、守ろうとしていると知れば、それはそれで、面白くないと思い、自分だけが守られる立場になることを潔しとしないのだが。そんなカトルに「俺がカトルを守る、守って、守って、守り抜く!」と胸に誓っている男たちはカトルにそんなことを思っているとは悟られずに使命に当たるのだった。
いつもカトルの周りに不届き者が現れぬよう凄みをきかせている兄弟たちを見れば、尋常ではないと気づきそうなものだったのだが、カトルが物心つく頃にはその兄たちはこんな態度をいつもとっていた。そのため、三人の兄のこの状態を通常モードだと思っている。つまり地顔がそれだと思っているのだ。
そして、弟である末っ子五飛も同じような態度をとるため、それも、またいつもそんなものなのだとカトルは思い込んでいた。
しかたがない、四人は男前だが人相が悪く、いつも怒り顔だったし、ずっと、その特にカトルに変な虫がつなかないように視線を走らせる、通常モード以上にいかめしくなった兄弟たちを見ることが常だったカトルは、その異様にピリピリした空気、周囲の恐れもそれが、普通なのだと思っていた。よく言えばおおらか。
今も兄弟は恐ろしい形相で周囲にガンを飛ばしている。
半ズボンや半そでのカトルは兄弟にとっても、貴重すぎるエロスなのだ。
家にいても半そですらあまり着ないというカトルは本当に露出の極端に少ない少年だったから。
兄弟たちには、この海がパラダイスに見えていた。
惜しむらくは、自分以外の人間を全て排除してしまいたいと思っているがそれが叶わぬこと。できれば、二人っきりでカトルをガン見していたいと思う。
爽やかな海風にカトルは最強タッグだと思う。
柔らかな髪がそよそよとした風でなびき、白金の髪は光を弾いてきらめいていた。
大きな大きな碧い瞳は海と空を映し、いつも以上に美しい。いや、いつでも麗しいのであるが、さらになのである。自然に溶け込むカトルは清らかでさらに美しいのだ。
海の思い出と称して写真をいっぱい取ろうと思ったのは、トロワだけではない。不機嫌に見える人相をしていヒイロとて、にやつき顔のデュオとて同じ気持ちだった。五飛はシャイなので、こういう点は頭数には入らない。いや、入れないのだ。
家族写真のはずが家に帰る頃にはカトル写真集をつくるためのものになっているだろう。
が、家族のアルバムを見るよりも、カトルだらけのアルバムを見ているほうが幸せな兄弟だった。一にカトルの写真、次にカトルとの2ショット写真が大事なのである。兄弟揃っての写真もカトルが写っているからこそ価値がある。四男溺愛のとんでもない変態兄弟だった。
準備体操を入念にしてやっと海かと思ったのだが、ヒイロの予定その一では朝っぱらからの遠泳となっていた。カトルの海パンいっちょ姿は刺激が強すぎると思ったのか、たまたまなのか、遠泳のメンバーにはカトルは入っていなかった。
ボートを漕いでついて来いと長兄は役割分担させていた。
二十キロの遠泳である。プールを泳ぐのではない。波に打ち勝ちながらの遠泳だ。途中でどんなアクシデントが起るかわからないから、万が一のことが起ったときは救護できるように、一人はボートに乗って泳ぐ様子を確認しておくべきだというのがヒイロの主張だ。
「僕もー! 僕も、みんなと一緒に泳ぎたい!!」
カトルは物珍しいイベントごとに全身全霊で参加するつもりでいたので、不安というものを覚えないのか。
このとき「駄目だ」と言ったのはカトル以外の四人同時にだった。
もし、遠泳中に脚でもつってしまっても、ヒイロ、トロワ、五飛では「軟弱だ」とかほざきながら、見殺しにするだろうし、デュオに介抱されるのは気持ち悪いうえに、一生分の借りをきせられそうだった。なにか起っても無事に生き残るには、カトルがボートに乗ってくれなくてはならないのだ。
「遠泳を二十キロに設定したのは、カトルの体力は考慮していなかったからだ」
「大丈夫だよ。僕だって急がなければ泳ぎきれるから」
長兄に続いて三男が畳み掛ける。
「そもそもカトルは泳ぎが得意じゃないだろ」
こういうときはコンビネーション技のように次男も末っ子も口を開いた。
「二十キロという距離をあなどるな」
「そうそう、それに、もしこの遠泳だけでバテちまったら、その後の楽しいこと全部出来なくなっちまうんだぞ」
「カトル、ボートに乗れ!」
ヒイロは一家の大黒柱らしくカトルの目を見て堂々と言い切った。人を狂気に誘う演算システムのついたボートではないから安心だ。
「お前にしかできない仕事だ」
「トロワ、これって、レジャーじゃねーのかよ!」
「うるさい! このさいなんでもいい。俺が先頭でゴールしてやる」
遠泳をもう勝負事とした五飛の声を聴きながら、迷う気持ちは少し残っていたが。
「わかったよ。せっかく一生懸命準備体操もしたんだもんね。身体が冷えてしまわないうちに始めようか」
「わかってくれれば俺はいいんだ」
トロワが得心顔でカトルをキュッと抱きしめようとしたのを、鋭く察したデュオがカトルと立ち位置を入れ替えたため、もう少しでトロワは暑苦しい男を抱擁しそうになった。
ともすれば諸刃の剣の攻撃。デュオも命がけだ。
二十キロもボートを漕いでいるとカトルの櫂の扱いも上手くなる。無事に死人を出すことなく遠泳という項目をひとつクリアした。
焼けた砂浜に帰り着いたときのデュオの安堵は並大抵のものではなかった。
遠泳だというのに短距離勝負のようなクロールで波しぶきを上げながら仏頂面の三人は泳いだのだ。それも、デュオを追い立てるように。後方から迫ってくる三人の勢いのすさまじさが恐ろしくて、速度を緩めることができなかった。遠泳を終えてしばらく経つがまだ心臓がバクバクいっている。
「みんな凄いけど、五飛は特にすごいよねぇ。一番年下なのに、おにーちゃんたちと同じくらいで泳いじゃうんだもの」
「子ども扱いするな! 年もたいしてかわらんだろ」
「どうして、五飛、怒っちゃうの? 僕、関心してるのに」
「俺だけを特出することが、俺を下に見ている証拠だ。それに、『おにーちゃん』とはなんだ。あいつらがそういう言葉が似合うような輩か!!」
「五飛、僕のこと怒ってるの?」
「お、怒って……」
五飛ははっきりした言葉を出せなかった。自分でも怒っているのかそうじゃないのか、よくわからなくなっているせいだ。腹立ちはあったが、それをぶつけてカトルに悲しい顔をされるのは断固として避けたかった。兄たちはカトルは弟の五飛に必要以上に甘いと言うが、五飛もカトルに弱かった。この兄弟四人のDNAにはカトルに弱いと言う遺伝子が組み込まれているのだろうか。
「怒ってなどいないから、その顔はやめろ」
「笑ったほうが可愛いわ! とか言いたいわけだ、五飛は。そんくらいのこと照れずに言えるようになれよなぁ。まったくよぉ」
「お前は黙ることを覚えろ!! お前のようにだらしなく、口を開きっぱなしの男に言われたくない」
「五飛お前以外のヒイロもトロワもそうだけど、なんか、無口で得したことなんかあんのかよ。人とのコミュニケーションがとれないで、周囲の人間に迷惑掛けてるばっかりじゃねーか! カトル、俺も頑張ったんだ褒めてくれよ~。一番速かったの俺だぜ」
「なんだか、デュオ、死にもの狂いって感じで凄かったよね。あんなに速く泳いじゃうなんて、デュオのリードがあったから、みんなすごく速く泳げたのかもね!」
「そ、そっかー……」
三頭のサメに追い立られているように恐ろしかったから速かったとは言えなかった。カトルからしてデュオがリードしていたと見えていたのなら、少し真相は違っているが、デュオにとっては好都合だ。カトルに兄として尊敬もされたいのだ。
真相を見抜いている三人は冷たい目でこちらを見ているが、カトルかなりの興奮状態を表すように握り拳を作ってくれている。この握り拳が可愛いのだ。力一杯、感激しているとその身振りからも伝えてくれるから。これに踏ん張り声での絶賛が加わるとカトル最上級の褒めかたとなる。これをされると、抱きしめて揉みくちゃにするようにグチャグチャ
に撫で回したくなるのだった。
その後、川に移動して魚の掴み取りをして、それで昼食をとったあと、浜辺に戻り、ビーチフラッグ、スイカ割りに水難救助体験にまでした。
水難救助の解説をしたのは、ほかでもないヒイロである。どこからそんな知識をひろってきているのか、ヒイロの知識域は並大抵のものではなかった。
デュオは水難救助というと人工呼吸があるのかと思い、カトルを相手に! と鼻息荒く思ったのだが、ヒイロにあっさり「素人には難しい処置なので覚えなくて良い。必ずしなければならないのは心臓マッサージだ」と言われ、夢は儚く散った。
ちなみに命を救うためならば、心臓マッサージの際にあばら骨が折れてもOKだということで、デュオは餌食は自分だろうと思って戦々恐々とした。
が、本格的に救助訓練用の人形をどこかしらから手配していたヒイロのお蔭で、命拾いをしたのだった。
こんなときに貧乏くじを引くのは自分だとわかっていることが、ちょっぴりせつないとデュオは思う。兄弟揃ってカトル以外はデュオには風当たりが強い。打たれ強いのをよく理解されているから、遠慮がないのだ。
スイカ割りでは目隠しをされた後、高速回転させられて、本当に右も左もわからなくなった。リードしてくれるカトルの声だけを信じて動いた。ほかの面子の言葉なんて信用できるだろうか。嘘は言わないが、暴言が多すぎる。
「馬鹿が、左だと言ってるだろ!」
「馬鹿か、行きすぎだ」
「馬鹿な真似をする前に落ち着いたほうがいい」
と、なぜか、カトル以外の声ときたら、『馬鹿』連呼なのだ。失敬にもほどがある。
その馬鹿連呼の暴言に気がいって、デュオがイチイチ「うるせー!」だの「馬鹿はてめーだろうが!」などと応戦するので、まったくスイカにたどり着かないのだ。そんな醜い言い争いの中で「デュオ、頑張ってぇ、そのまま前だよー」と可愛くも優しい声を送ってくれたのはデュオの心の天使カトルだけだった。
夜はヒイロが五人一部屋に宿泊できる旅館を手配してくれていた。
花火をして、カトル憧れの枕投げが行われるのは当然のことだろう。
死人がでないことを祈るのであるが、どれだけ殺人枕投げ投法で人外のスピードや軌道で枕を投げつけあっても、頑丈な四人は死にはしないし、殺人枕投げの最中にいても、かすり傷ひとつ追わない運の強さがカトルにはあった。
もっとも、もし、カトルにもしものことがあれば、その枕を投げた人間は生きていられないだろうが。
ルールはただひとつ器物破損はNGということだけだった。
ヒイロが考えたルールにしては、常識的だろう。
これが、自宅で行われていたら、室内などどうなってもよかったのだろう。窓ガラスが割れようと、お構いなしで命がけでの枕投げになっていたはずだ。
お世話になっている宿泊先に対する配慮をするという、ヒイロらしからぬまともな思考が動いたおかげで、旅館側に迷惑がかかることにはならなかった。
ただ、枕の直撃のせいで、脳震とうを起こしそうになること、しばしば。
ルールを順守しつつの枕投げも命がけなのだ。
カトルはキャッキャと嬉しそうに楽しそうにはしゃいでいた。
そして当然、軽く枕が飛んでくることがあっても無傷だった。
布団を敷いて眠る場所を決めるのにひと悶着あったとこは当然だろう。
寝床争いで命がけになる兄弟たちを、カトルだけは不思議に思っていた。
カトルの隣で眠りたい! という真っ直ぐな欲望のためにバトルロイヤルさながらの大騒ぎになった。枕投げを超えて彼らは敷き布団すらも投げつけあっていた。
ぐったりなるまで、戦いをして、ようやく配置が確定した。
眠気に勝てなくなったカトルが適当に寝転んでしまったので、戦いがそこで終わりになったのだ。
興奮のさめきらぬ真っ黒な室内の中。男共のハアハアしている息遣いが薄気味悪い。
「みんな、今日はありがとう。一日本当に楽しかったよ」
「まだ、明日もある」
「そうだね、ヒイロ」
「明日は、漁師体験だからな。俺が一番の成果をあげてやる!」
「うん。五飛なら、きっと」
「俺だって、負ける気がしないね!」
「デュオも自信があるんだね」
「明日行うのは底引き網だ。個人戦とはいかないと俺は思うんだが」
「トロワ、ちゃんと、ヒイロが作ってくれた旅のしおりに目をとおしてるんだ」
就寝となってから眠りに落ちるときにカトルは近くにあった手を、キュッと握りしめた。
誰の手だろう。ただ、安心感から眠気を誘われるような心地好さがあった。
「おやすみなさい。みんなで明日も楽しもうね」
「ああ」
「いい夢見るんだぞ」
「おやすみ、カトル」
「お前は朝に弱いから、はやく休め」
「うん、ありがとう、みんな」
眠るのが勿体無い気もしていたのだが、カトルは愛する兄弟たちが夢にも現れてくれそうな予感がして、安堵の中で眠りにつくことが出来た。
明日もまだ楽しい時間と、命がけの変態兄弟のカトルをめぐる戦いは続いていくのだろう。
■FIN■
2013年10月29日 書き下ろし
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2人のカトル受限定軍曹が
同志を募って
集って憩ってしまう場を
つくろうと
もくろんだしだいであります。
小説や絵を
UPするのであります。
日記は書く気なし!
(そして、
まともなプロフィールを
語る気もなし。。笑)
軍曹はカトル・ダーリンズ
だいちゅきトークが
したいだけでありますから!
「我軍曹ッ!」
の名乗り随時募集中v
いつか、軍曹の集いを
したいものでありまっす★
しかして、
「なぜ軍曹?;」と、
大半の方に思われてるだろう。。
カトル受最前線で戦い続けるため
出世しすぎて
外野にはいかないからの
万年軍曹であります!
ちなみに最近急に
自分のことを、
「4受大臣」とも名乗るように。
「4受大臣補佐官」など(笑)
こ、これは進化なのか!?(笑)
我が魂、
カトル受とともにあり★(ビシッ!)
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語る気もなし。。笑)
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大半の方に思われてるだろう。。
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出世しすぎて
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